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27.進展(6)

「灰梅? 大丈夫? 駄目そうなら、烏羽達が戻ってくるのをここで待っていようか?」


 完全に足を止め、俯いてしまった灰梅にそう声を掛ける。痛い程の静寂だ。体調が悪いのかもしれない。これが、プレイヤー側の認識不足による落ち度で引き起こされているイベントなのかは分からないが、若干の罪悪感を覚えてしまう。

 そんな花実の思いなど、まるで関知していないかのように無言の彼女。普段の素行からして、無視などという稚拙な真似はしないだろうから不穏なイベントが進行中なのかもしれない――


「あの、ねえ、大丈夫?」


 再度、声を掛けたその時だった。それまで俯いていた灰梅が、緩慢な動きで顔を上げる。

 そこにいつもの柔和な表情の彼女はいなかった。ぼうっとしていて、表情がない。一瞬別人かと思った程だ。

 ゲーム内であるにも関わらず、脳が警鐘を鳴らすのが聞こえる。道端で危険人物に出会った時のような緊張感が全身を支配し、どうしていいのか分からず立ち尽くす。何かが起きているのは肌で感じ取っているが、何が起きようとしているのかが分からずに動けないのだ。


「え? ちょっと、あの……」


 あまりにも恐かったので、意味の無い言葉と言うより、音のような声を漏らす。当然、その程度の牽制で彼女が止まるはずもなく、ゾンビ映画に出て来るゾンビのような動きで徐々に花実の方へと近付いてきた。

 そこで初めて後退り、本能的に目の前の危険人物から距離を取るという発想が生まれる。けれど、そんな原始的な行動は長続きしなかった。

 背中にピタリと壁が触れる。どこかの店の壁にぶつかったのだ。

 獲物が立ち往生したのを感じ取ったのか、灰梅がぐっと足に力を込め、襲い掛かって来る――


 瞬間、視界の端を猛スピードで何かが駆け抜けて行った。その速さたるや、一般人の目には一切終えない、残像だけが見える速度である。まず間違いなく人間が出せるような速さではない。

 その何かは花実の斜め上から登場、花実自身の真横を通り抜け、そのまま灰梅に突進して行った。神使である彼女も鮮やか過ぎる程に鮮やかな奇襲には反応出来なかったのだろう。見事なタックルにあっさりと吹き飛ばされ、地面を二転三転した後、器用に受け身を取って起き上がった。

 一連の挙動が終息してようやく、花実は現状を認識し始める。

 自分と灰梅の間に割って入った人物、その背中。かなり最近見た後ろ姿だった。


「薄藍……!?」


 阿久根村に薄桜と共にいたはずの神使、薄藍。どうしてここに。そんな疑問はさておき、こちらを振り返ること無く彼は口を開いた。


「無事ですか、召喚士殿!? 何故、この危険地帯に余所の神使と行動を共にしているのですか?」


 その言葉を受けて、花実は意味の無い呻き声を漏らした。

 そうだ、そういえば自分で散々言っていたのに4人目架空の神使の存在をすっかり忘却していた。いや待て、それ以前に何故、灰梅はプレイヤーに襲い掛かってきたのだろうか? 混乱してきた。


「ちょっと色々とあって……。えぇっと、助けてくれてありがとう」

「いえ。影から見守っていた甲斐がありました。ところで、烏羽殿を早く呼び戻した方がよろしいかと。流石に薄色の僕では、灰梅殿には太刀打ちできませんよ。不意討ちも、召喚士殿をお守りする為に切ってしまいましたし」

「そうなの? 不意討ち……?」

「隠密行動を得意とする神使なので。敵の眼前に現れてしまえば、優位性を失います。ので、とにかく早めに……」


 ――呼び戻すってどうやって……?

 放っておけば、その内戻ってくるのだろうか。分からない。


「あ、そうだ、君はどうしてここにいたの? 今来たのかな?」

「ずっと前からおりましたよ。影ながらお守りしています、と書き置きを残したはずなのですが」

「え!? いやメモには自分の名前を書いておいてよ! 宣戦布告かと思ったわ! 宿のアレね、アレ!」

「はあ……。それは申し訳ありませんでした」


 ――何かちょっと、この神使もズレてるんだよなあ……。

 全体に対して言えるが、やはり見た目は人のソレでも人外という描写が随所に見られる。考え方が人類と違うというのはなかなか凝っていて好きだ。


 一方で灰梅はぐったりと息を吐きながら頭を押さえている。この現象は、薄藍が阿久根村にて汚泥に操られていた時の状態と似ている。彼女もまた、何者かに操作されているのだろうか。

 考え込んでいると、焦れたように薄藍が再度要求してくる。


「あの、召喚士殿。考えるのは後にして頂いて、烏羽殿を呼んで貰っても?」

「あ、ごめん、その、どうやって神使って呼んだらいいの?」

「え!? あ、いえ、分かりました」


 あまりに初歩的な事が出来ていなかったせいか、薄藍が酷く動揺する素振りを見せた。大変申し訳ない。

 しかし、彼の切り替えの速さたるやまさに光の速度だった。ブツブツと何かよく分からない文言を呟くと、左手を空へ掲げる。それと同時に運動会で聞くような、スターターピストルのような音が鳴り響く。違う事と言えば、それがあまりにも大きな音で、運動会のそれとは比べられない程だったという事くらいか。

 大きな音を鳴らし、緊急事態を伝えたのだろう。プレイヤーが不甲斐ないばかりに無駄な手間を増やしてしまった。


 そして、その大きな音は灰梅を悪い意味で正気に戻してしまう事となる。頭痛を覚えていたらしい彼女はしかし、嫌な方向に吹っ切れたのかじわじわと臨戦態勢に移行。今にも襲い掛かってきそうな雰囲気を醸し出している。第二ラウンド開始だ。

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