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11.ミーティング

 ***


 あれよあれよの間に宿へ辿り着いた。流石は世界運営システム・神使。宿の手配から案内まで流れるようにあっさりと決めてみせた。しかも、3人でそれぞれ役割を分担して花実達を孤立させないようにだ。監視の意味合いが大きいだろうが、その手腕には舌を巻く。


 神使達は花実に冷たかったが、宿の主人やその他の客は優しかった。どうやら、神使を連れているだけで好待遇らしく、烏羽が少し良い顔をすれば非常に喜んでくれた。

 目の前にいるのは思考回路がヤバい、性格破綻者だとは露にも思っていないようで少しばかり恐ろしい。

 ちなみに宿の部屋は花実と烏羽で1つずつ。二部屋用意して貰った。これはどうやら、褐返の計らいらしいが詳細は不明である。


 宿の主人に案内され、部屋へ。褐返が言った通り『良い部屋』を取ってくれているようだ。周囲は静まり返っていて、明らかなVIP感を漂わせている。他フロアもこんな調子なのだろうか。分からない。

 というかそもそも、宿に泊まる客はいるのだろうか? 外は汚泥の山で、人間は結界の外に出る事すら出来ないと言うのに。


「――それは浅慮というものではありませんか、召喚士殿。ええ、ここは月城町。それなりに大きな町です。ええ、来たはいいが汚泥の侵略で帰れなくなった者達が宿を利用しているのですよ」

「あっ、そっか」

「ええ。そのような者達を差し置いて泊まる『良い部屋』というのは、背徳感に溢れていて――はい。大変よろしいかと」

「またそういう事を言う」


 部屋の前で烏羽と別れるべく、そちらを振り返る。高すぎる身長の彼と目が合った。


「何か?」

「いや、何か? じゃなくて。部屋に戻って、どうぞ」

「このまま解散なさると? 正気ですか、召喚士殿。ええ、私が言うのもアレですが、何事も無くここで自室へ? げーむを舐めているとしか思えませんねえ」

「でも宿で大人しくしてろって、薄群青達が」

「でももへったくれもありません。あと、お伝えする事がありますので。さあさあ、早く中へ。ええ、この烏羽もお供致しますので!」

「うわ……」


 恐ろしく強い力で背中を押される。興味本位で抵抗を試みたが、壁に背中をくっつけたみたいな感触がした。どんな体幹してるんだ。

 全く意に介した様子も無くズリズリと押されて自室へ。当然のように初期神使が後に続く。もっと自重しろと思ったが、何らかのイベントが起きているに違いないので口を噤む。強制的に始まったイベントに対し、プレイヤーの発言など無力なものである。


 靴を脱ぎ、居間へ入る。落ち着いた和風の内装で、畳の良い香りが鼻孔を擽った。酷く落ち着く空間だ――が、烏羽がいるだけで緊張感溢れる空間に。何と言う事をしてくれたのでしょう。

 花実の横を通り抜けた彼が、我が物顔で座布団の一つに腰を下ろす。仕方が無いので、自分もそれに従って対面に腰を下ろした。

 思い通りに召喚士が動いたからか、烏羽はニッコニコの笑顔である。


「さてさて、それではみーてぃんぐ……なるものを始めましょうか。ええ、人間というのは一向に進まない会議というのがお好きなのでしょう? ええ、ええ。分かっておりますとも!」

「え? いや別に――」

「此度のすとーりーなのですが、私は大人しく事の成り行きを見守ろうかと。ええ。召喚士殿が巣立つ様を眺めていようかと思います。はい」


 ――いや、嘘じゃん!!

 花実の嘘発見センサーが罪人を見つけたと言わんばかりに警報を鳴らす。ことの成り行きを見守る、というのは本心らしいが巣立ち云々は真っ赤な嘘だった。

 思わず黙り込んでしまったのを、データはプレイヤーが困惑しているものと感じたらしい。烏羽が畳みかけるように言葉を紡ぐ。こちらが何のアクションを起こさずとも、話を前へ前へと進める彼はゲーム的には動かしやすいキャラクターなのかもしれない。


「ああ、ご心配なさらず。ええ、召喚士殿の指示に従いましょう。これが親の気分というものですか。感慨深いですねぇ」

「そんな風に言われる程、ゲーム始めて長くなくない?」

「まじれすは嫌われると同胞が言っていましたよ。はい」


 ――同胞って誰だよ、友達いるのか……?

 甚だ疑問である。不審な目に気付いたのだろうか。こてん、と可愛らしく首を傾げた可愛くない神使は勝手に疑問へ返答する。


「私にも気心知れた相手というものがいるのですよ、ええ」


 成程、大嘘である。綺麗に全文嘘だった。友達は居ないと花実は判断した。

 哀れみの視線に気付いたのか、烏羽が眉根を寄せる。まさに心外だと言わんばかりの表情だ。


「何です、その顔は。まさか私に友人がいないとでも思っていらっしゃる?」

「ううん……」

「その生温い笑顔を止めて下さい」


 ごほん、と烏羽が態とらしく咳払いする。話題の軌道修正を図るつもりのようだ。


「――ともあれ。ご自分で考えて行動なさるように。ええ、今回は見ているだけの方が私としても面白そうなので」

「はあ……」

「貴方様もご自分の意思と考えのもと、行動されるのがよろしいかと。ええ、さもなければ――いえ、私の口からはとてもとても! ご武運をお祈りしていますよ、はい」


 とても武運を祈る者の顔では無い、愉悦の滲んだ表情だったが、一応は頷きを返しておく。

 神使達と会話をしている時、あまりにも静かで恐ろしかったが愉しみを求めてそのように振舞っていたのならば別に良い。通常運転だし。

 言いたい事は終わったのか、烏羽が座布団から立ち上がる。


「それでは召喚士殿、私は部屋へ戻ります。ご用命があればお呼び下さいませ。ええ、神使は基本的に睡眠を取りませんので。いつ如何なる時にでも喚びかけに答えましょう。ふふふ……」


 意味深極まりない事を言った初期神使は、そのままの足で自室へと戻って行った。自室へ帰ると言った言葉に偽りは無かったので、本当に自分が呼ぶまでは自室にいるのだろう。別件が生まれた場合は分からないが。


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