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09.三人の神使(2)

 そうっと建物の中へ入る。年季が入っている、という訳ではないが特段新しい建築物でもない感覚。子供の頃にあった、子供会のような懐かしさを覚える造りだ。哀愁に浸っていると、後ろから着いてきている烏羽の体重で床板がギシギシと音を立てる。

 ――床、抜けたりしないよね……?

 どうしても1話で出会った神使達がどちらも小柄だったせいで、烏羽が規格外の巨躯に見えて仕方が無い。というか、実際問題、身長はかなり高いのだが。目が合ったら態とらしく微笑まれたので、見なかった事にして廊下を進む。

 そういえば、どの部屋に町の神使達はいるのだろうか。門番は何も言わず、持ち場に戻ってしまったのだが。行き過ぎていたりはしないか心配である。


 だが、杞憂に終わった。一際大きく、烏羽が床板を慣らした瞬間、部屋の一つから顔が覗く。


「誰だ!? ……って、烏羽サン?」


 ――この神使は知ってる!

 花実はハッとして息を呑んだ。彼との面識は一切無いが、面識があるとも言う。初めて出会ったのはフリースペース。別プレイヤーに同伴していた。名前は薄群青だったはずだ。

 目を丸くしていると胡乱げに目を彷徨わせた薄群青はややあって、警戒も露わに烏羽を見やった。怪しく笑った烏羽が口を開く。


「こんにちは、お久しぶりですね。ええ、薄群青殿。こちら、召喚士殿でございます。さあ、何を呆けているのでしょうか。ええ」

「呆けてっていうか、え? アンタ、召喚されてたんすか……? よりにもよって、アンタが? 神使なんて他にもたくさんいるのに……何企んでんだ……」


 最後の方は独り言的なニュアンスだったが、それでも薄群青が烏羽を良く思っていない事だけは確かだ。どこへ行っても何故、こう嫌われているのか。いや多分、性格によるところが大多数を占めているのだろうけれど。

 酷く難しそうな顔をした薄群青が一旦部屋へ引っ込む。何を言っているのかまでは聞こえなかったが、誰かと二言三言話した後、再度顔を覗かせた。


「――……取り敢えず、部屋、上がったらどうですか。まあ、居心地は最悪でしょうけど」


 ボソボソとそう言った薄群青に従い、廊下に突っ立っていた花実は遠慮しつつも彼等がいる部屋に足を踏み入れた。

 人数は薄群青も含め、3人。3人の内、1人だけが女性だ。

 そして――何より気になったのは、室内に漂う険悪なムード。それは突然の来訪者である自分達に向けられた物では無く、部屋そのものに花実達がやって来る前から充満していたようだった。

 最初に口を開いたのは、少しだけ驚きを露わにしている、薄群青ではない方の男性神使だ。


「これはこれは、大兄殿。わざわざ月城くんだりまで足を運んで頂いて。何か用だったかな?」


 ――大兄? 大兄とは?

 花実の疑問はすぐに解消される。彼の言葉に対し、烏羽が反応したからだ。


「用、という事はありませんよ。ええ、私も神使の端くれ。召喚士殿の旅に着いてきただけですとも」

「へえ、面白い事でも見つけたって顔だ。楽しそうで何よりですわ。ああ、無視してごめんね。召喚士ちゃん。俺は褐返かちかえし。ま、これでも黒の末席を汚す神使さ」


 そう言って人の良さそうな笑みを浮かべる男性神使改め褐返――に、花実は内心で顔をしかめた。烏羽に向けられた言葉はそのまま受け取って良さそうだが、後半の召喚士に向けた言葉の端々には嘘の影がチラ付いている。もしかして、適応色は黒であるにも関わらず、自分と黒系神使の相性は悪いのではないだろうか?


 が、そんな事を言っていても始まらないのでまじまじと褐返を観察する。神使に見た目の年齢が適用されるのかは怪しい所だが、少なくとも室内にいる存在の中で一番歳を食った外見をしていた。20代後半もしくは30代前半の男性のような見た目をしている。

 限りなく黒に近いが、どことなく違う色のような短髪は軽くウエイブが掛かっていた。垂れ目で温和そうに見えるものの、いまいち信用に欠ける何かがある存在だ。


 褐返のリアクションを皮切りに、次に行動を起こしたのは神使の中で唯一の女性。彼女は酷くのんびりとした空気を纏っており、温厚そうな笑顔を浮かべている。歳は20代中頃くらいに見えるが、果たして。

 何がとは言わないがなかなかに大柄な女性のようだ。座っているので正確な身長は不明だが、日本人女性の中でも「あ、結構背が高いな」と思うくらいには上背がありそう。

 そんな彼女はまず召喚士である花実に対し言葉を放った。


「あらあら、長旅だったでしょう? ごめんなさいね、変な空気で。うふふ、召喚士ちゃんは女の子なのねぇ。こんな状況だけど、ゆっくり休んで行って頂戴。あ、やだ、わたしったら……申し遅れたけれど、灰梅よ。よろしくね~」

「あ、どうも、よろしく……」


 間延びした喋り方に眠たくなってくる。コロコロと笑う彼女は全く嘘を吐いている様子などなく、第一印象は上々だ。

 対し、彼女の発言に険のある言葉を放ったのは薄群青だった。


「よろしく、じゃないんすよ灰梅サン。この人達が本当に召喚士一行なのかは証明する術が無いんだって。しっかりしてくださいよ」


 ヒリついた空気を隠そうとする褐返と灰梅に対し、薄群青はそれを全面に押し出してくる。そんな彼を意に介した様子も無く、褐返が更に烏羽へと声を掛けた。


「えーっと、烏羽殿? もしかして、月城に長居するつもりなの?」

「さあ? ええ、私は召喚士殿の手駒なので。我が主に従いましょう。ささ、召喚士殿。これからどうされます?」


 ――今日はえらく私に選択権を委ねてくるな……。

 主扱いがいつも通り大嘘ファッションなのは置いておいて、それにしても今日の彼はかなり大人しい。1話時点の彼であれば、今頃鬼のように他の神使を煽っているだろうに。どうした。

 烏羽を一瞥する。てっきり飽きたのかと思ったが、飽きた顔ではなかった。どちらかというと――酷く楽しげ。言い知れない不安を抱き、花実は沈黙した。


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