08.三人の神使(1)
***
「わあ……! 立派な町」
門を通り抜けて最初に目に入ったのは、理路整然と建物が建ち並ぶ巨大な町だった。一つ前のストーリーが村だったせいか、とても文明的に感じる。町のすぐ外に着地したようだが、既に行き交う住人を視認出来た程だ。
思わず漏れ出た声に対し、クスクスと烏羽が笑う。微笑ましさなどは一切無く、田舎者を嘲笑するかのような嫌らしい笑い方だった。彼はいつでも性格が悪い。
「この程度で驚いていては……。ええ、都はもっと立派ですよ。田舎者丸出しなので、そのような態度は控えた方が良いかと。ええ! 召喚士殿の面子を潰さない為に進言しているのです」
「いや言い方……」
ボヤいていると、様子が変わり始める。目の前には社にある移動用の門より更に立派な門が建っているのだが、その両脇から武装した男性が2人も出て来たのだ。
有り体に言うなら――侍のような。本当に彼等がそれに該当するのかは不明瞭だが、明らかに武器と思わしき刀のような物を腰に差している。加えて、制服なのだろうか。2人とも似たような羽織を着用していた。
屈強な男性を前に花実は完全に足を止める。画面を介していない視界に立ち塞がる大男、と言うのはゲームだと分かっていても威圧感があるものだ。
当然、そんな人の機微など物ともしない烏羽は、からかう獲物を見つけたと言わんばかりに笑みを深める。そうして勢いのまま、いつもの通り捻くれた言葉をその唇から吐き出した。
「おや、随分と物々しい格好をなさっているではありませんか。ええ、まさか我々に刃を――」
「ご無礼をお許し下さい。私共は門番。武装を解く事は出来ませんが、召喚士様ご一行に危害を加える事は誓ってございません。どうぞ、中へ。案内致します」
「……成程、そういえばここは……。月城町でしたねぇ、ええ」
呟いた烏羽が苦虫を噛み潰したような顔をする。からかって遊んでやろうと思っていたのに、とんだ肩透かしを食らったのもそうだが、他にも事情がありそうだ。
その答え合わせはかなり丁寧に対応してくれた門番の片方がしてくれた。特に悪気はない様子で口を開く。
「はい。ここは月城町。月白様の管轄下にある主要の町の一つ。無論、召喚士様がこの町を訪れる事など想定の範囲内ですので、我等が月白様よりご一行様の特徴は聞き及んでいます。何でも、召喚士様は変わったお召し物を着ているとか……」
ここで花実は自身の姿を初めて省みた。家の中でゲームをしているので、かなりラフな格好に大きめのパーカーを羽織っただけという恐ろしく手抜きの格好。しかし、この和風RPGの世界ではパーカーなど存在もしていないだろうからか、彼の言うとおり自分の服装はかなり浮いている事だろう。
そして何気に烏羽の対神らしい『月白』の名前も出て来た。神使の管轄地域とかがあるのか。知らなかった。
「主要の町……都……」
「ああ、召喚士殿。そのような事も知らないのですねえ。ええ、五都九町そして重要地点である複数の村。これらには主神が遺した結界機能が張り巡らされています。月白は白都の守護を任されておりますので、白都の管轄である月城町に関しても奴の管轄でございます。はい」
「五都? なら、その白都以外に後4つは都があるの?」
「ええ、ええ。すとーりーを進めれば、いずれ赴く事になるでしょうとも」
こちらですよ、と門番の片方がそう言いながら持ち場を離れる。どうやら本当に町の中を案内するつもりのようだ。持ち場を離れていいのだろうか。もう片方の門番は恭しく一礼して見送ってくれた。
歩きながら門番が烏羽の説明の続きを口にする。
「白都の管轄下にあるこの月城町なのですが、十日程前でしょうか……。月白様が見えになられまして。その折に召喚士様の情報を我々人間にもお伝えして下さったのです。なので、今日は無事に貴方様をお迎えする事が出来ました」
「ほう。躾がよくよく行き届いているようで。ええ。月白らしいと言えばらしい、几帳面さで肩が凝りますねぇ」
分かりやすい烏羽の皮肉に対し、門番は悪意になど気付く様子も無く照れ笑いのような物を浮かべる。
「はい。私達の頼れる先導者、それが月白様ですので」
「うーん、気色悪い。ですねえ、ええ」
「え?」
「いいえ、何でも」
ボソッと溢れ出た烏羽のその言葉は紛れもなく本音だった。本当に対神と仲が悪いらしい。
話題を切り替えるかのように、限りなく自然な調子で烏羽が門番へと訊ねる。
「ところで、この町には何体の神使が? まさか、主要の町に対し神使一人で切り盛りしているなどという事はないでしょう」
「今は三柱いらっしゃいます。ですが……いえ、私が伝えるような事でもありませんね。ともあれ、これで少しでも状況が変われば良いのですが」
そう言った門番は少しだけ顔色を悪くした。懸念事項があります、と言わんばかりの面持ちだ。面白そうな気配を感じ取ったのだろうか。初期神使が最高に悪い顔をし、ニヤニヤと口角を吊り上げる。
それを尻目に、花実は町の様子をぐるりと見回した。阿久根村と違い、往来を多くの人が行き交っている。外は汚泥に侵食されているが、特に悲壮感はなく、それぞれが日常を謳歌しているようだった。
これが集団心理の力なのかもしれない。いまいち危機感の無い人々である。それとも、足掻いても人間如きの力では無駄だと思っているのだろうか?
町を観察していると、不意に門番の彼が足を止める。平屋の前だった。
「到着しました。まずはこの町に駐屯している神使様達とお会いになるのがよろしいでしょう。また何かございましたら、気軽に誰でもお呼び止め下さい。皆、召喚士様の事は分かっております」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
「勿体ないお言葉です」
綺麗に一礼した門番はその場から去って行った。持ち場に戻るようだ。
平屋の前に取り残された花実は、その建物をまじまじと見つめる。特に不審な点などは見られないが、この中に複数名の新キャラがいると思うと少しばかり緊張した。




