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07.チャット(4)

 部屋の外にいるであろう、烏羽の事を思いながら思考に耽る。このゲームには目に見えない数値が多すぎる――否、目に見える数値が少なすぎるのだろう。徹底してリアルに寄せたいのか、ステータスなる物も終ぞ見つけられなかった。

 明らかに神使による格差があるのに、レア度も存在しない。数字も無いので相手にどの神使をぶつけて良いのかすら手探り状態。システム周りは現実に寄せるという異例のグラフィックで素晴らしいが、少々不便な面が多すぎるような。


『白星1:あとすまない、あまり大声では言わないが伝えておきたい事がある』


 丁寧なリーダーシップを持つ白星1が改まってそう言ったので、ルーム内メンバーが黙って続きを促す。


『白星1:ストーリーを進める時はプレイヤー死亡を起こさないようにした方が良い。洒落にならないペナルティがあるようだ』

『青水2:そうなの? でも、そういえばアタシ、まだゲームオーバーした事がないわね。神使ちゃん達が優秀だし、死に物狂いで頑張ってくれるからかしら?』

『赤鳥6:同じく。いやあ、このゲームのキャラクターって頼もしくていいですよね。ま、私も割とゲームはやる方だし、そうそう全滅なんてしませんよ!』

『白星1:そうか。ならそのまま、死なないようにプレイする事をお勧めする』


 了解、という旨の吹き出しが3つ分出現する。花実も滅茶苦茶にレベリングしてから余裕で勝利を収める、石橋を叩いて渡る系プレイヤーなので全滅などどのゲームでもあまり経験した事がない。


『青水2:そうだ、黒桐ちゃん。またストーリーが進んだらこのルームで報告して頂戴な。アナタと烏羽ちゃんのストーリー、割と楽しみなのよネ』

『白星1:黒は珍しいからな。定期的に報告して欲しい。勿論、僕の発言に強制力はないが。恐らくこの先、君も黒を引き寄せやすい適応色のせいで面倒な思いをするだろう。気軽に相談してくれ』

『赤鳥6:私も楽しみにしてますから!』

『黒桐12:ありがとうございます。それじゃあ、取り敢えず2話を進めて帰ってきますね』

『赤鳥6:行ってらっしゃい!』


 こうして花実のチャットデビューは幕を下ろした。退室を宣言し、チャットを落とす。一先ずは烏羽の望み通りストーリーを進めて、またこのルームで答え合わせをしよう。

 ただ不安なのが、文字に関しては嘘か本当か、それを判断する術が無いという事。真偽を確かめられない情報が自分の命綱だと思うと、酷く心許ない気持ちになる。


「――召喚士殿。もう終わりましたか? ええ、この烏羽、ずぅっと戸の外で待っておりました」


 ダイレクトに届いた烏羽の声に、笑みすら溢れる。「戸の外でずっと待っていた」のは嘘だとすぐに分かったからだ。発言の真偽が確かめられる状況の方が、やはり落ち着くものである。


「ごめんね、もう終わったよ」

「やっとですか。ええ、随分と長話されていたようで。てっきり、げーむに飽きてしまったのかと思いましたとも」


 立ち上がって戸の鍵を開ける。花実よりかなり背が高い烏羽が、こちらを覗き込んできた。動作のいちいちがホラー味に溢れているのは何故なのだろうか。

 思考を散らせながらも、烏羽に気になっていた事を訊ねる。


「神使の強化って出来ないの?」

「強化? さて、何のお話でしょうか。存じ上げませんねえ、ええ」


 ――うーん、この。大嘘じゃん……。

 やはりストーリーを進めないと強化要素も解禁されないのか。烏羽を連れ歩いている以上、ゲストの助けは望めない。ので、ゲストの力を借りなくても物語を進められる力が欲しかったのだが、そうは問屋が卸さない。


「いい加減、ストーリー進めようかな」

「ええ、ええ! それがよろしい。さあ、門へと向かいましょう! さあさあ!」


 急にテンションが上がった烏羽にグイグイと背中を押される。恐ろしい力だ。

 押されながらスマートフォンで次の行き先を確認する。一応、薄藍が次回助っ人のフラグみたいな台詞を吐いていたので阿久根村に寄らなければならない――と、思ったのだが。どうしてだか、行き先に阿久根村はなかった。代わりに『城月町』という町名だけが表記されている。


「烏羽、阿久根村に寄りたいんだけど」

「はい? 阿久根村? その話は前回終わったでしょう。今更、何をしに行くというのでしょうか。ええ」

「いや、薄藍が町に行く時は声を掛けて良いって言ってたから」

「召喚士殿、おべっかという言葉をご存知ないのでしょうか。ええ、はい。召喚士へ無礼がないように奴の使ったおべっかですとも。そも、行き先に阿久根村など無いではありませんか。ええ」

「行き先の選択って、私では出来ないの?」

「やってみては如何です? ええ、はい」


 どこをタップしても動かなかったので、選択の自由は無いようだった。烏羽はそんな召喚士の様子をニヤニヤと嫌な笑みで見つめてきている。

 どうやら今回のストーリーも彼と2人きり――ゲストはゲストしてくれる想像が出来ないので、やはり1対1でのストーリー進行となるのだろう。若干、気が重くなってきた。

 真偽を確かめる特技、それ即ち相対する者が嘘を吐いていると、ずっと気を張っていなくてはならず疲れる。文字だけでのやり取りもなかなかの心労なのだが。

 ――あれ、もしかして私、常に疲れてるのでは?

 真理に辿り着きそうになったが、持ち前の図太さですぐに忘れることにした。


「じゃあ、2話始めようかな」


 感慨も無くバナーをタップ。荘厳な門が音を立てて開け放たれた。


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