06.チャット(3)
『黒桐12:入室しました。これからよろしくお願いします』
すぐに反応したのは青水2だ。このプレイヤーは大変、面倒見が良い。バイト先にいる、謎に親切なパートのおばさんみたいな面倒見の良さだ。大変ありがたい。
『青水2:そんなに畏まらないでいいわよ。こっちも興味があって、黒桐ちゃんに群がってる訳だしネ』
『赤鳥6:お邪魔しまーす!』
『白星1:結局、集まったのは黒桐本人を含め4人か? まあ、あまり大人数になっても収拾が付かないし、このくらいが丁度良いか』
役者が出揃ったのを見計らってか、青水2が司会進行の如く話を進める。この人がいなかったら、恐らくこのルームは無駄な会話ばかりで溢れかえってしまう事だろう。何て気が利く人なんだ。
『青水2:それじゃ、黒桐ちゃん。まずは1話で体験したストーリーをざっと説明してくれる?』
『白星1:前提として、連れている神使によりストーリーの内容や現地神使の台詞が変わる事は確認されている。尤も、大抵の場合は誤差の範囲だが』
初期サーバー2人の意見を眺めながら、素早く文字を打つ。彼等は1話など、当然の如く終わっているようなので概要程度にざっくりとだ。あまり待たせてお開きになってしまえば困る。
ぱーっと字を打って並べれば、赤鳥6が困惑したような返信を並べた。
『赤鳥6:えっ、私の1話と大分違うけど』
『青水2:アタシとも結構変わってるわねぇ。ふぅん、最初のストーリーに黒を連れて行くとそんな事になるのネ』
『白星1:1話のゴールは辛うじて同じだったようだが、IFルート感が否めないゴールインだな。しかし、いくら烏羽とは言えど召喚に応じればストーリーには参加するのか。非常に意外且つ有意義な情報だ』
――やっぱり! やっぱり私のストーリー、何かおかしいんだ!
自分以外の3人が軒並み困惑を露わにしているのを見て、半ば確信する。召喚士として担ぎ上げられるストーリーなのに、最終的には召喚するなと言われてしまったのは正しいルートではなかったのだ。
一人、部屋でうんうんと頷いていると続けて白星1が補足説明する。
『白星1:恐らく大多数のプレイヤーが経験している1話では、薄桜はゲスト扱いで仮契約し、薄桜と共に薄藍を正気に戻す、という割と王道の流れだな』
『青水2:そうそう、懐かしいわぁ。現地にいた薄桜がビックリするくらい頼もしくて、惚れちゃいそうだったもの!』
『黒桐12:え? 現地の薄桜は烏羽がサクッと倒しちゃったんですけど……』
『赤鳥6:まずもう、それがおかしいですよね。1話の段階って強化メニュー解放されてないし。現地にいる薄桜ちゃんは召喚を介してないから最初から強化された状態で配置されてる訳で、普通なら勝てないんだけどな……』
『白星1:烏羽の性能を考えれば未解放状態でも薄桜に競り勝つだろうが、それはいい。ともあれ、本来なら最終的には薄桜と薄藍に召喚に応じるから縁があれば、という話で終わるはずだ』
そんな大団円的な終わりは迎えられなかった。あの2人は少しばかり怯えた様子で、烏羽のいる社には喚ぶなとお願いしてきた訳なのだから。あの調子では、ガチャによる事故で召喚してしまった時に大変申し訳ない気持ちになるのは請け合いだ。
『黒桐12:仮契約って何ですか?』
『青水2:そのストーリーでのみ契約して、力を貸してくれる神使ちゃんの事よ。1話に1人以上はいる感じネ。ネットではゲストって呼ばれる方が多いかしら』
『赤鳥6:序盤ではゲストがマジで強くて、居てくれないと詰むレベルですからね……。色んな子達にお世話になりました!』
『黒桐12:もしかしなくても、烏羽1人でストーリーをゴリ押したのは、詰む可能性があった……?』
『赤鳥6:いやホント、詰まなくて良かったですね。というか、ガチャが命のソシャゲに召喚拒否系の台詞があるなんて。そっちの方が驚きですよ!』
ここでふと疑問が生まれる。花実自身のアカウントでは初期神使は烏羽だった。しかし、他プレイヤーの初期神使が薄桜であった場合、1話のストーリーはどうなるのだろうか?
自分家の薄桜とゲストの薄桜が並んで、ドッペルゲンガー状態で進める事になるのだろうか。
『黒桐12:変な事を訊くんですけど、1話で自分の神使が薄桜だった場合ってどうなるんですか?』
『白星1:ゲストの法則が適用される。その話で味方扱いになる神使は、現地にいる神使が自分の神使に差し替えられる法則だ』
『黒桐12:???』
『赤鳥6:私の初期神使は薄桜でしたよ。阿久根村の近くに私だけ放り出されて、薄桜がいないと思ったら村から迎えに来てくれたんです。私に召喚された事をちゃんと覚えてたし、薄桜に部外者として疑われる話なんて挟まりませんでした』
『青水2:因みにアタシは別の子が初期神使だけれど、薄桜にはガッツリ疑われたわ。薄藍――というか、神使が敵に回る可能性があるって話のフラグだったのかしらね』
更に言うと、と白星1が絶妙なタイミングで補足。やはり初期サーバーは年期が違う。専門用語的な単語もすらすらと使っていて、信頼感が凄い。
『白星1:初期神使が薄藍だった場合は、現地に薄藍が2人いる状況になる事が確認済みだ』
『黒桐12:同じ神使なのにですか?』
『白星1:曰く、「あれは僕であって僕では無い」との事らしい。汚泥に汚染されている神使と、社にいる神使は別物だと考えていいのかもしれないな』
『青水2:以上、ゲストの法則により「神使が多ければ多い程、ストーリーを有利に進められる」のも有名な話ネ。ストーリー中の誰が黒幕なのか透けて見えるもの』
――でも私、まだ次の召喚が出来ないんだよね。
小さく溜息を吐く。最初に喚んでしまったのが烏羽だからか、なかなか次が来ない。流石に2人は色々と精神に来るものがあるので、もう一人くらい欲しいものだ。
『黒桐12:私、まだ次のガチャが回せないみたいなんですよね……』
『白星1:社にいる神使が多くなってくると、召喚のスパンが長くなる。恐らくだが、コストが嵩んできているんだろう。君の場合は烏羽のコストが途方も無く重いから、次まで時間が掛かるらしい』
『黒桐12:それはどこ情報なんです?』
『白星1:うちの初期神使だな。奴もかなりコストが重かったせいで、本人が教えてくれた。輪力の回復に時間を要する為、無理にストーリーを進めなくて良いと』
『黒桐12:烏羽はねっとりボイスで一時2人きりとしか言ってなかったのですが』
『白星1:それは奴の性格の問題じゃないか?』
この人もゲームに感情移入勢なのだろうか。データに対して使う、性格というのは何だか違和感が拭えない。




