44.アタッカーの不在(1)
近いなと思ったが、それはある意味当然の事だった。
花実は濡羽と思わしき女性神使が手に持つ銃を見て、妙に納得してしまった。というのも、それは形状としては歴史の教科書に出て来るような――所謂、火縄銃などに酷似した銃だ。
まだまだ銃弾の飛距離を伸ばせる程には発展していない、と強く感じさせると言ってもいい。故に、あまり離れた所から撃っても大した威力にならないと想像が付いた。
ただ、火縄銃と言えば「次弾を撃つのに時間が掛かる」最たる武器でもある。しかし、今起こった事を見直せば短いスパンで二発も弾を撃ち出しており、厳密に言えば火縄銃でない事と考えられる。
尤も、現代日本人が対火縄銃を持った何者かと戦闘になる事などまず間違いなく起こりえないので何とも言えない訳なのだけれど。
「ああいう感じの銃って、次の弾を撃つのに時間が掛かりそうだけど……どうなの? その辺」
薄群青に訊ねる。肩を竦めた彼は淡々と口を開いた。
「俺にもよく分からないッス。ただ、弾を撃ち出す為の力と弾自体は輪力で形成されてるみたいですね。あんな単調な弾を作るだけなら時間なんて掛からないんで、他にもあの一瞬で色々やってるんじゃないスか。弾の飛距離は……主サン達の使う単位で言えば、50メートル弱くらいッスね」
「思ってたよりもずっと短いかも……」
「ま、弾が輪力でさえなければ、もっと遠くから撃つと思いますよ。消費する力がある以上、弾を外したくないからそれなりの近さで攻撃してきてるんだと思います」
それに、あの銃弾は結界を貫通しなかった。魔法に似た力がある世界で、必ずしも銃は最適解の武器ではないのかもしれない。
「主サン、もっと下がって下さい。次、また防げる保証はないッス。この結界ももう、多分保たないし……」
文字通り、身体を張ってプレイヤーを守ろうとする健気な神使の行動にときめきすら覚える。そうそう、キャラゲーと言えばこうこなくては。
などと現実逃避にも似た思考を展開していると、次弾の装填が終わったのだろうか。濡羽がその銃口を再び花実へと向ける――が、ここまでに十分な時間があったようだ。
いつの間にか屋根に上がっていた紫黒が、濡羽へと襲い掛かる。舌打ちした麗しい彼女はバックステップで器用に距離を取りながら、その銃口を紫黒へと向けた。それと同時に響く破裂音。
撃ち出された鉛玉は、回避行動を取った紫黒の腕を抉って飛んで行った。少しばかり派手に血がしぶいたものの、紫黒は眉根を寄せただけでそれ以上のアクションは起こさない。素人目に見て、かなり重傷に見えるのだがどうだろうか。
弾が外れたのを見て、濡羽が肩を竦める。
「あら、残念。風穴を開けてあげようと思ったのに。連れないのね、紫黒」
「容赦なさ過ぎ。それで連れない、なんて無理があるんじゃない?」
クスクスと嗤う濡羽は――何故か、そう。確かに雰囲気がどことなく烏羽に似ているような気がする。何がとは説明が出来ないけれど、怪しげな笑い方だとか、仕草だとかがだろうか。
「紫黒。姉に召喚士を譲るのが、妹というものじゃないの? アンタには黄都の神使を見ておくっていう役目を与えていたはずなのだけれど」
「主様に再召喚されたの。だから、その私と今居る私はほとんど別人みたいなものだね」
「アタシが見てない間にそんな事が……。面倒臭い事になってきたじゃないの」
うんざりしたように、気怠げな溜息を吐く濡羽。恐ろしい程様になっているし、当社にはいない、お姉さん系の神使は普通に新鮮だ。紫黒は大人と少女の間くらいの見た目や振る舞いだし。
そして彼女、斬新なタイプであると同時に今まで遭遇した黒神使の中で一番に殺意も高い。褐返は割と適当な所があったが、彼女からはプレイヤーを必ず排除するという強い意志すら感じる程だ。どうやらガチっぽい黒幕のようだ。
「主サン、どうします? 何か指示を」
目の前に立っている薄群青が、視線だけこちらに寄越してそう言った。
はたと我に返り、打開策を考える。言うまでもないが、烏羽は依然として行方不明のままだ。
まずは現状を整理しなければならない。
プレイヤーである花実は戦闘に参加する力が一切無いので除外。紫黒は既に戦ってはいるが、勝てるのだろうか。自由に動かせる薄群青には結界を任せており、このままでは参戦できない。
もしかして詰んだのでは? いやでも、紫黒と濡羽の力関係が五分五分という可能性もある。
「紫黒、一人でやれたりしない?」
「ええ!? どう考えたって不可能だわ、考え直して! 薄群青を……」
貸せ、と言いたかったのだろうが彼女は口を閉ざしてしまった。そう、薄群青その人は結界の維持管理で手一杯だ。
どうして、折角3人編成で来たのに、結局は1人足りなくて苦しんでいるのだろうか。意味が分からない。
「まあ、時間を稼いでいれば、その内烏羽が来るでしょ」
「どうッスかね。俺、あの人は来ないと思うんだけど」
薄群青は胡乱げな表情をしている。確かに、これだけ騒いでいても顔を見せないあたり、どこかでニヤニヤしながら大慌ての様を眺めているのかもしれない。




