残念美人の伯爵令嬢の祖母は未来の夫と出会いました
エヴェリーナ・シュブルトヴァー男爵令嬢はある時、パーティで出会った男性に心を奪われる。その男性はのちに彼女の夫となる男性だった・・・。
「残念美人の伯爵令嬢は婚約破棄を望んでいます」のリーディエ=ラドミラの祖父母が出会ったときのお話です。リーディエ=ラドミラの恋バナが読みたいという感想をいただきましたので、似合わない残念美人ではなく、ロマンスの祖父母の話を書いてみました。
私は今日も壁の華となって、あの方が来るのを待っている・・・。
私はエヴェリーナ・シュブルトヴァー。このベェハル国のシュブルト男爵の長女です。美人家系と言われるシュブルト男爵家の歴史の中でも一番と言われている私は、本当は自分の容貌に自信が持てない引っ込み思案な男爵令嬢でした。
よく招待されるパーティには、本当は行きたくはないのですが最近の私はよほどどうかしているのでしょうか、むしろ積極的に出かけています。兄であるクリシュトフにエスコートしてもらい、会場で兄とダンスをした後、私は兄と共に壁に退きました。兄も本当はパーティは好きではないはずですが、私の頼みを聞いてくれて、婚約者ではなく、私をエスコートしてくれています。
私が作り笑いをしながらも、パーティに出ているのはあるお方とお会いしたいからです。
『・・・エヴェリーナ・シュブルトヴァーと言われるのか、あなたは』
私が苦手なパーティで、兄とはぐれてしまい、そんなときに限って私に絡んでくる貴族の放蕩息子がしつこくてどうすることもできなくなっていた時に、突然手を取り、救い出してくださった方が、いました。救っていただいたにもかかわらず、私は心得違いをしていて、私をあの放蕩者と同じように慰み者にしたいと絡んでくるのではないかと怯えていたのです。
ですがあの方は私に対して、何もすることもなく、反対に傍らに兄がいないわたしに絡もうとされた他の男の方々からも庇っていただいたのです。その途中で兄を探してくれたあの方に名前を問われて答えました。
『・・・なるほど、そうか、納得した。確かに『美しき虐殺将軍』の家系なら、その美貌は当たり前だな』
私の家である男爵家のとある異名を知っているこの方は、ひょっとすると・・・。そこまで考えた私はあの方に呼び掛けられて、考えるのを止めました。
『エヴェリーナ嬢、あなたの兄上がいたぞ』
兄の容貌を教えても居ないのに、あの方は私の兄の居場所を教えてくれたのです。
私の兄はその時、哀れにも周りを貴族令嬢に囲まれていて、身動きができなくなっておりました。確かに兄もその美貌で幾人もの令嬢を虜にされており、パーティに出れば人だかりができるほどになっております。貴族の令嬢は兄に婚約者がいることも分かっておられるはずですが、今の様に婚約者をエスコートしていないパーティなどは兄と一晩だけでも遊んでもらおうと考えるのか、人だかりができるのです。
『クリシュトフ・シュブルト殿、お探しの妹君をお連れした』
『す、すまない』
慌てた兄が私の傍にと駆け寄ります。
『大丈夫だったか、エヴェリーナ』
『では、私はこれで』
兄が私に声をかけたとき、あの方は私の手を取り、洗練された仕草で甲に口づけをされました。
『またいつかお会いしましょう』
『は、はい』
颯爽と去って行かれる後ろ姿をじっと見送っていると、兄が私の手を取り、壁まで引っ張っていきました。
『あれは誰だい?』
『兄様も知らない方なの?』
『知らないな』
『・・・あの方は兄様のお名前もご存知でした』
『まさか・・・』
このようにして、あの方に会いたい一心で私はパーティに出ているのです。
兄が私のために軽いお酒を持ってきてくれましたので、口をつけます。
「今日も居なかったみたいだな、お前の『あの方』は」
兄がそう言います。兄は会場を見回しています。
「そう・・・」
私はお酒を飲み干すと、兄の方を向いて口を開きかけました。
視界の端にふっと男の方の姿が映りました。私は自分でも驚くほど機敏に向き直りました。
「エヴェリーナ・シュブルトヴァー嬢、クリシュトフ・シュブルト殿、お久しゅう、一別以来ですね」
あの方が私達に笑いかけながら立って居られました。
「エヴェリーナ嬢を、今日はお守りしないでも良さそうです」
「・・・あなたは?」
兄が何も言えないでいる私の代わりに聞いてくださいました。
「おや、名乗っておりませんでしたか?これはとんだ失礼を致しました」
あの方は、一歩下がると胸に手を当て頭を下げられました。
「エヴェリーナ・シュブルトヴァー嬢、クリシュトフ・シュブルト殿、私は隣国のプシダル国の伯爵で、名をマトウシュ・カシュパーレクという者です」
「マトウシュ・カシュパーレク・・・様・・・」
「カシュパーレク伯爵様でしたか」
突然、私の手を取られた伯爵は、私の手の甲に口をつけました。
「エヴェリーナ嬢をどこかで見たことがあったように思っておりました。よく考えれば隣国とは言え隣り合わせた男爵領に私の父と私とで商談に行くことがよくありましたし、男爵邸にもお邪魔した事があったにもかかわらず、以前のパーティの時には直ぐには思い出せなかった」
私の家の異名は、我が国であるベェハル国と同盟国であるプシダル国が共通の敵であるクバーセク国に出兵したときに、男爵としてご先祖様が従軍したときの事で、男爵家の兵を率いた当主がクバーセク軍に対したときに美貌の将軍として、クバーセク軍の兵を撫で切りにしたことから、プシダル国の将兵が呼んだのが初めです。もちろん、ベェハル国ではご先祖様をそう呼ぶことはありません。呼ぶのはご先祖様と共同作戦をした隣国の隣り合わせの領地の兵を率いて参戦したカシュパーレク伯爵の将兵のみです。この名を言われたときに私は気づかなければならなかったはずです。
「昔、男爵邸であなた方に会っていたのです。あなた方の御父上が紹介してくださってね。あなた方御兄弟は私を覚えていなかったのだろうと思いますが」
「も、申し訳ない」
兄が慌てています。
私はと言えば何も言えず、ただ視界がぼんやりとしてきています。
「またお会いしたいと思っていました。私の領地に近い地方のパーティにお出になられているのかと、私はそちらのパーティにばかり出ていたのです。ですが一向に出会えませんので、ひょっとすると王都の方に行っているのかと思って来てみたところ、やっと会うことができた」
まさか信じられないことをおっしゃっていただけるなんて。私だけに向けられた笑顔が徐々に涙で霞んでいって・・・。
こうして私は運命の方、マトウシュ・カシュパーレク伯爵と出会い、そしてプロポーズされるのです。嬉しい反面、伯爵という貴族位のお方に私のような下級貴族の娘が嫁いでいいものか迷いに迷ってしまい、伯爵様が如何に私が必要かを何度も何度もお話しいただくのですが、その話は別の機会にお話ししましょう。
いかがでしたでしょうか。おばあ様は残念美人ではなく、絶世の美女なので、恋バナに似合うと思ったのですが、ただなぜか言い寄ってくる男は全員まともじゃないんですね。まともだったのはカシュパーレク伯爵だけだったというわけです。だからと言っては何ですが、おじい様は点数が高いわけです。おばあ様は自己評価が低いので、暗く見られていて、それが言い寄る人間の質に影響しているというわけなんですが、おじい様が口説き落とした後は自己評価も上がり、それはもう輝くような美女になるのです。ベェハル国の男共、逃がした魚は大きいぞ!なんて書けばよかったでしょうか。