出陣でち
「それでは今から灼熱の火炎竜の討伐に出発するッ! 」
《レッド・ウィング》団長 スカーレットが出発の合図を指示した。
「先発組は《レッド・ウィング》のサキが先導仕切るッス、付いてこれらない人は八つ裂きッス」
先発組は副団長のサキがリーダーとなり《レッド・ウィング》の精鋭40名が固める
中衛組は《レッド・ウィング》団長のスカーレットと野良と団員の20名。スカーレットが全体の指揮を取る。
後衛組はタケルがリーダーとなり10名を指揮する。つまりタケルのパーティー5人と、補給部隊5名パーティーだ。
総勢60名による攻略パーティーになった。
火炎竜がいるのは、始まりの町から北西へ、火山帯にある火山ダンジョン最下層だ。階層は5階層あり下に行くほど雑魚モンスターも強くなっていく。因みに最下層の雑魚モンスター討伐適正Lvは18になる。《レッド・ウィング》のメンバーなら簡単ではないが排除出来る難易度だ。
「各組、転移魔法を展開して転移を開始せよ」
スカーレットの指示により遠距離転移魔法が展開されていく。
「枠からはみでないでね、漏れたら自費で追い付くッスよ」
先発組が先ず転移し、中衛組と続いた。
「よし、俺達も行きますか」
タケルは転移魔法を展開する。地面に魔方陣が描かれ、魔方陣の中が光に包まれていく。
「行くぞッ! 魔方陣から漏れるなよ、自費だと10万円はかかるからな」
それを聞いた10名は円の中心に固まる。光が中央に収束して弾けた。
▷転移完了
もう其処は溶岩と岩肌が広がる赤色の世界が広がっていた。
溶岩から伝わる熱が露出している肌に刺さるいうに熱い。数分で完全に蒸し焼きにされる温度だった。
「各自直ぐにクールポーションを飲んで下さい」
クールポーションを飲むことで、からだの回りに冷気の層を作り出し熱から体を守る効果がある。
「わぁ凄いね、全然暑くなくなった」
「本当でち、全然暑くないでち」
「でも、溶岩には触るなよ、即死ダメージが入るからな」
好奇心から溶岩に触ろうとしていた穂花とユキは、危なく触ろうとして苦笑いする。
先発組と中衛組の姿はもう火山ダンジョン入口に向かっていた。
モニターにスカーレットから連絡の知らせが届く。
『先に進んでモンスターを倒しておきます、ゆっくり来てもらって良いのですがモンスターのリスボーン時間には気を付けて下さい』
モンスターは倒すと復活するまでに時間が空
く、戦闘力と人数が少ないタケル達の後衛組は先発と中衛組がモンスターを倒してモンスターがリスボーンまでの時間内に通り抜けなければ、数で押され対処出来なくなり全滅する可能性があった。
見ると中衛組の最後尾がダンジョンの入口を入っている。
「少し急ぐぞ、溶岩に落ちないように」
タケル達はそれほど道幅のない道を溶岩に落ちないように進んだ。
急いだお陰でダンジョンの入口に着いた時には、なんとか中衛組の50m後方に付ける事が出来た。
ダンジョン内は火山の内部に続いているので、クールポーションがなければ焼け死んでいる熱さだ。所々の岩肌から溶岩が湧水のように流れ、道を塞いでいる。その為タケルはレビデトを全員に掛け溶岩を触らないように移動しなければならなかった。
大きな縦穴や広場が所々に存在し、恐らくモンスターがプレイヤーの進行を邪魔する仕組みになっていた。
しかし、攻略パーティーの移動速度は変わらないのは、先発組の《レッド・ウィング》が順調にモンスターを倒している証拠だった。
「…モンスターに全然出会さないのね」
「先発組が順調にモンスターを倒している証拠でち、流石《逆巻く狂犬》の異名をもつサキちゃんでち、ただ急がないとモンスターのリスボーンに引っ掛かるでち」
以外と状況を考えていたユキに、タケルは少し見直した。
「1、2階層はまだ大丈夫だろう、問題は3階層からだな……」
タケルが以前に攻略したときも、3階層から雑魚モンスターが急に強くなったのを思い出したのだ。
「別に、沸いたって構わねぇぜ、全部ぶち殺して前に進むだけだ」
早く暴れさせろっと言わんとばかりに拳を鳴らす。
タケルは通ってきた道の後方を確認してみるが、まだモンスターがリスボーンした気配はなかった。まだ大分時間の余裕があることに安心する。
そして、1、2階層とタケル達はモンスターに出くわすことなく3階層までやって来た。
「……少し進行が遅くなったな」
タケル達の前を進んでいた中衛組にタケル達が追い付いてしまっていた。それでも、止まることはなく移動しているので、先発組が苦戦はしていないことが分かる。
心配していた3階層を突破、いよいよ4階層まできた。
だが、ここで進行が止まった。
モニター画面にスカーレットから連絡が届く。
『先発組の勢いを抑え込まれました、後方はリスボーンに注意して下さい、これからは中衛組も戦闘に参加します』
タケルは良い意味で裏切られた。3階層で後方組がリスボーンに当たると思っていたが、4階層までモンスターのリスボーンに出会さななかった《レッド・ウィング》の強さにビックリしていた。しかも、まだ《赤い稲妻》の異名を持つスカーレットが攻撃に参加していなかったのだ。
「先発組の勢いが止まった、みんな後方のリスボーンに注意して、中衛組も攻撃に参加してる、直に移動も始まる」
皆がは来た道を振り返ると、先発組が壁に掛けた松明の光に写し出されたモンスターの影が壁に踊っていた。
「……まだ距離があるが、気付かれないように静かに」
辺りが静寂に包まれる。
カサカサと何かが近付いてくる音が大きくなる。
「……追い付かれたッ!くるぞッ!」
全員が身構えた時だった、通路の影から突如それが襲い掛かってきた。
ジャイアント(巨大蟻)討伐適正Lv15
「ファイアボールッ!」
姿が見えた瞬間、タケルの攻撃魔法がジャイアントの頭に命中。まるで生き物の様にジャイアントの体に襲い掛かる真っ赤な炎が、その餌を包み込むように燃え上がり食らい尽くす。
動かなくなった屍を苗床に燃え盛る炎は、新たな蟻の姿を鮮明に照らす。無表情な蟻の目に写し出された炎の影は《侵入者》への怒りのように見える。
空かさずベルがタケルの横を駆け抜けると、正面にいた蟻の頭部を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた頭部が横壁に張り付いていたもう一匹の頭部を粉砕する。
しかしその動かなくなった仲間の死体を踏み潰して新たな蟻が姿を現す。それは《絶対に逃がさない》と言っている様にタケル達には感じられた。
「ふざけやがって」
前線にタケルとベルが立ち、襲い来る蟻を次々と倒していく。倒せない敵ではないが数が多すぎる。
「チッ! 切りがねぇ、消耗戦になったらヤベェぞッ! 」
時間を掛ければ掛けるほど、先発組が倒したモンスターがリスボーンしてくる。これ以上時間を掛ける訳にはいかなかった。
「ベル、少し時間を稼いでくれ」
そう言うと、タケルは一歩下がり魔法の詠唱を始めた。
「くそがッ! 」
▷赤き炎と汝との契約により、我の前に立ち塞がりし全ての者に等しく滅びを与えん
「【バーストフレア】」
タケルの突き出した手から炎の玉が連続で発射されていく。発射された玉はジャイアントに当たると周囲を巻き込む爆発を起こした。
狭い場所での炸裂系火炎魔法は、リスクを伴うが効果は抜群だった。弾け飛ぶジャイアント達、さっき来た道が奥の方まで火の海となった。
「うゎ……これは一溜りもありませんでちね」
「キャロ、やり過ぎじゃない?」
「そんなことありませんよ、キャロットさんのお陰でこれでまた暫く後方から襲われる心配が失くなりましたから」
光四郎の言う通り、この火は暫く燃え続けてジャイアント達の行動を止める事が出来る。タケルはそれも計算して上位魔法を使ったのだ。
モニター画面にスカーレットからの連絡を報せる音が鳴った。
『少し戦力が落ちましたが、モンスターを排除しましたので、これより5階層に降ります、予定には有りませんでしたがタケル様には申し訳ありませんが前線で加勢をお願い致します』
当初の予定では、バルモ討伐は《レッド・ウィング》のみだった筈じゃ……それが出来ない状況に追い込まれている。タケルは一抹の不安を感じた。
バルモ討伐において、厄介な事はバルモ本体だけでなくその取り巻きがリスボーン時間関係無く沸き続ける。だから、本体攻略組と取り巻き処理組に人数を割かなければならない。
これが、バルモ討伐が大人数で編成される大きな要因の一つだ。
しかし、タケルはそれを一人でやってのけてしまう。ただそれは、一人でなけれな使用出来ない魔法。辺り一面を灰燼と化す魔法を使用したからだ。だが今回それは使用できない。
タケル達後方組が奥へと進むと大きく拓けた空間でた。部屋はサッカー場ほどの大きさで天井はドーム状になっている。壁や床にはここでの戦闘の激しさを物語る無数の傷跡があちこちに残されていた。既にモンスターの姿は無かったが、部屋のあちこちでは傷付いたプレイヤーが手当てを受けていた。
補給部隊の団員が回復ポーションを渡して回り、ユキがそのうちの一人に駆け寄ると回復魔法を掛ける。
「大丈夫でちか……何があったでちか?」
「アイツら天井や床から一斉に沸いて襲い掛かってきやがった、サキさんが一人奮闘してたけど、スカーレットさん達が来なかったらヤバかった……」
傷の手当てを受けているプレイヤーの殆どが先発組の人達だ。彼等もそれなりのレベルと装備をした熟練のプレイヤースキルを持っていたが、それでも対応しきれない程のモンスター達が襲ってきたということだ。
やはり自分が先発組に入っていれば、こんなにも損害を出さないで済んだかもしれない。タケルは申し訳ない気持ちと先に進んだスカーレット達が気になった。
ここにいる負傷したプレイヤーの数から、5階層に降りれたのは、凡そ35名弱だろう。
「無理かもしれない……」
タケルは胸騒ぎを感じていた。ここの時点でアドバイザーとして参加していたタケルはスカーレットに攻略中止を提案すべきだったことを後で後悔する。