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僕の隣にヤマダくん  作者: 結城太郎
僕とヤマダ君 第一部
6/30

連れてって

ヤマダ君は幽霊を信じている様で、存在については否定的だ。

矛盾した考えに聞こえるだろうが、俗に言う心霊体験をした者には、こういった考えを持つ人が多いのだとなんとなくわかった。


「トリックアートが成り立つように、人の脳は騙されやすい」


それが、彼の持論だ。だから、何か面白い話(一般的には怖い話)を聞く度に、その真相を確かめるべく、事情を知らない僕を連れて行く。


ヤマダ君曰く、僕はうってつけなのだそうだ。僕は何かと感じやすいからだと言う。

それは、決して霊感などと言うものではない。

ヤマダ君は明言しなかったけれど、僕は流されやすく、人の顔色ばかり伺うタイプだから、微妙な雰囲気を察知しやすいのだろう。馬鹿だし単純で怖がりなくせに、好奇心ばかりは旺盛。

うん。まさにお誂え向きなのである。


自分で分析しておいて、少し落ち込んだ。


出会ってからはもっぱら僕を、その前は手近な誰かをいわく付きの場所へ連れて行って、自分は傍観者を決め込むと言うのがヤマダ君のスタイルだけれど、実際に自身が体験したものもいくつかあるようだった。


その一つが、ヤマダ君が高校生の時の話だ。


今ほどオカルトにのめり込んでいなかったヤマダ君。免許を取ったのをきっかけに、一人で行く先も決めずにバイクを走らせるのにはまっていた。

学校が休みだったのか、サボったのかは忘れたが、その日も朝からバイクに跨り、気の赴くまま流していた。

心地よい風を感じながら、行ったことのない場所へ、ない場所へと曲がり角を曲がる度に、ヤマダ君の気分は高揚していった。


そうこうしているうちに、ヤマダ君は全く見知らぬ場所へと辿り着いていた。

走行メーターをリセットし忘れていたから、どのくらいの距離を走ったかわからないが、確認しなくても、大分遠くへ来てしまったことくらいはわかる。


——夢中になりすぎたか……


と、少し反省しつつ、辺りを見渡せば、荒れ野と言う表現がぴったりの枯れかけた草ばかりが一面に広がっていた。その間にポツポツと家があるようだが、どれも土壁はヒビだらけで、ガラス窓は割れてなく、みすぼらしいトタン屋根は一層みすぼらしく錆びて傾いていた。


人の気配は一切ない。廃村かなと、ヤマダ君は思った。

この先にも、道は続いている様だったが、直ぐに行き止まりか立ち入り禁止区域になるのだろうと、経験から容易に予想出来た。

仕方ないが、引き返そうとバイクを反転させた時、目の前に人影が現れて面食らう。


「わっ」と、思わず声を上げると、目の前の人物は、おかしそうにクスクスと笑った。


よく見れば、それは自分と同い年くらいの女の子であった。

奥二重だけれど、パッチリとして印象的な瞳、すっと通った鼻筋、薄く形のいい唇。体格は小柄であるが、顔立ちは可愛いと言うより美人であると言えた。

こんなひと気のない場所に、しかも、気配もなくいつの間にか後ろに立たれ、状況としてはかなり不気味だったが、彼女の頬は血色も良く、まだ日が高かった事もあり、彼女自身に恐ろしさは感じられない。

ただ、一つ気になるのは、彼女がやけに古臭いデザインのセーラー服を着ていた事だった。


「もう帰るんでしょ?」


突然の事に何言えずにいるヤマダ君に、彼女は涼しい顔で言った。


「どうせなら、村の外まで連れてってくれない?」


村?ここが村か?

違和感を覚える。それでも、やはり服装以外は彼女に妙な事はなく、きっともう少し行けば、人々が暮らす様な場所があるのだろうと、ヤマダ君は自分に言い聞かせた。


「別にいいよ」


多少、不審に思いながらもヤマダ君はリアシートを叩いた。

彼女はニコリと微笑み、礼を述べると、リアシートを跨ぐ。腰に彼女の細い腕が回されると、流石のヤマダ君もドキドキしてしまったそうだ。


二人乗りは初めてだった。

バイクを走らせてみてから、色々と思い出す。


「足元熱くなってるから気をつけてね」

「うん。大丈夫」

「あ、やべ。メット!」

「村の外に連れてってくれるだけでいいから!人通りのある所に着く前には降りるからお願い!」


彼女が腰に回した腕を更に強く締めた。先程まで、あんなに飄々としていたのに、彼女の必死さが伝わる口調と行為に、ここで降りてくれとはもちろん言えない。

村の外までと言うのなら、すぐに着くだろう。少なくとも、5分ほど走らせた国道に行き当たるはずだ。


となると、また一つ疑問が湧いてくる。


そこまでの道沿いには、建物もなけりゃ畑らしきものもない。もし、その先に行きたい——例えば、国道からは、ヒッチハイクなりなんなりする予定だとしても、こんな所で俺みたいな迷子バイカーを待つより、国道までなら歩いていった方が早いのではないか。

元来、気になった事をそのままにしておけない性分だったヤマダ君は、思い切って引っかかること全てを聞いてみようと声を上げた。


「あのさー」


風に阻まれるため、大声で問いかけた時、彼女の腕にまた力が込められた。苦しいくらいぎゅっと締め付けられて、ヤマダ君は「うっ」と呻く。

だが、次の瞬間、あれほどキツく締め付けていた彼女の腕がパッと離れた。


——落ちた!!


感覚は、まさにそれだった。まるで引っ張られる様に、彼女の重みが一瞬で遠のく。

ヤマダ君は、急ブレーキをかけ、サイドスタンドもそこそこに、バイクを投げ出した。

あまり速度を出していなかったとは言え、タダでは済むまい。

慌てて彼女に駆け寄ろうと踏み出したが、勢いをつけたのはその一歩だけで、ヤマダ君は駆け出すことが出来なかった。



彼女がいない。



ヤマダ君は呆気にとられた。

走行して来た道はもちろん、念のため、脇の草むらを捜索してみたが、彼女の姿は一切見当たらなかった。


ふと、横を見ると朽ちかけた立て札が草に埋れた状態で立っていて、殆ど読めないが村の名前らしきものが記されている。それを確認した瞬間、ヤマダ君は背筋に薄ら寒いものを感じ、逃げる様にその場を立ち去ったのだそうだ。


「一番とは言わないが、あれは相当怖かったな……」


話し終えるなり、ヤマダ君はケラケラと笑った。


僕はと言えば、全く笑えない。

万が一、その村に連れて行かれる事になったら……と、どうしても考えてしまう。

それを阻止する為に、村の場所や道筋なんかをさりげなく聞き出さなければ。と、以後数日間はそのことで頭がいっぱいだった。

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