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僕の隣にヤマダくん  作者: 結城太郎
僕とヤマダ君 第一部
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歩道橋の鬼 後日談

江戸の話。

ある火消しの組頭が宴会を開き、そこへおもしろい話をすると言う同心を招いた。しかし、いつまで経っても来ない。

やっと来たかと思えば「急用があるから行かなくてはいけない」と言う。

そんな同心を引き止め、詳しく事情を聞いてみると「首をくくる約束をした」などと言い出す。

その場にいた全員で、説得し、なんとか事なきを得たが、後日、喰違御門で別の者が首を括ったと言う。


その同心が言うには、喰違御門のもとへ来た時「首をくくれ」と言う声が聞こえて来て、何故か拒否できず「組頭に断りを入れてからにしたい」と答えたところ「早く断ってこい」と言われたので、それに従ったのだそうだ。


この声こそ鬼である。

『縊鬼』と書き、いきやいつき、くびれおになどと読む。


数日前に、ヤマダ君はこれと似たような経験をしたのだと言った。


ヤマダ君の日課である、深夜徘徊をしていたところ、例の歩道橋に人影を見た。こんな時間におかしいな……と思い、近付いてみれば、それは若いOL風の女性だった。

うつろな眼差しで、歩道橋の下を眺めている。


「どうかしましたか?」


ヤマダ君が声をかけても、彼女は微動だにしない。因みに、声をかけたのは、心配からではない。何か面白そうな匂いを感じたからだった。


その時、大型トラックのライトらしき眩しい光が前方から近付いて来るのに気付いた。歩道橋まで、あと数十メートルにトラックが来た時、突然、女が歩道橋の欄干から身を乗り出した。


さすがのヤマダ君も、目の前で人が死にそうな状況を楽しむほど狂ってはいない。慌てて、彼女の腰をつかみ、歩道側へ引きずり下ろしたのだそうだ。


「その後は、警察を呼んで一件落着。警察が来るまでの間、その女の様子を見ているうちに縊鬼の話を思い出したのさ」

「そんな話、聞いてないよ」

「言ってしまったら実験にならないだろ?」

「えっ……ちょっ……実験って?」

「俺が彼女の自殺を止めたからね。もしかしたら、別の奴を引きにくるかも知れないと思ってさ」

「それで、僕を……」


と言いかけてやめた。抗議したところで、砂を噛む様な気持ちの悪い思いをするだけだ。


「今回は間に合わなかったな……」


ヤマダ君は、実に悔しそうに言った。

今回はと言うことは、次回があるのだろうか。

あるのだろう。


僕はため息をついて窓の外を見た。最近、秋を感じさせる過ごしやすい日が続いていたと思っていたが、夏に逆戻りしたかの様な暑い日差しがジリジリと道行く人を焦がしているようで、気分が一層落ち込んだ。

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