表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の隣にヤマダくん  作者: 結城太郎
人物紹介的なお話
30/30

対決!H&C超常現象相談所 後日談

霊感はうつるらしい。そう考えれば、あの日、霊感が強い千尋くんの近くにいたために霊感ほぼゼロの僕にもあんなにハッキリとあいつの姿が見えたのかもしれない。とは言っても、やはり幽霊には僕は半信半疑という体制を貫きたいのだけれど――

 

後日、千尋くんと二人で話す機会があった。


「いやあ、あの時はビビったね」


大分、間が空いていたので、あの時のことも僕はこんな風に笑いながら話せるようになっていた。

「ですね」と千尋くんも笑う。

多少慣れたとはいえ、コミュニケーション能力に難アリの二人である。油断すると、会話が途切れてしまう可能性が高い。


「でも、千尋くんはああいうの見慣れてるんじゃないの?」


話を広げようと慌てたせいか、僕はなんの考えもなく、そう言ってしまった。千尋くんの顔が一瞬、曇るのを見て、後悔してももう遅い。


「いや、そうでもないですよ」


それでもなんとか、取り繕うと、千尋くんは遠慮がちに笑う。


「俺も怖いものは怖いです。慣れるなんてとんでもない」


無難な返答から、痛々しさすら感じる。対して信じてもいないくせに好奇心だけで突っ込んでくる奴は多いのだろう。中には馬鹿にするように、または粗捜しをするように――それに腹を立てる訳でもなく、むしろ見えてしまう自分が悪いのだと経験則から刷り込まれているように僕には思えた。


「いや、確かに僕は幽霊とか半信半疑だけれど、千尋くんが見ているものとかは否定する気ないからね」


そう付け加えたけれど、なんだか凄く言い訳がましくて、自分が嫌になった。

それでも、千尋くんは少しホッとしたように「わかってます」と言ってくれた。そんな千尋くんの優しさにつけ込んで、僕はもう少しだけ聞いてみたくなった。


「これは完全に興味本位だけれど、あの時、ひよりさんと話していたこと、凄く気になってたんだよね」

「話してたことって、なんのことです?」

「ほら、元は人間だからとか、人の多いとこの方が安心するとか……」


僕の言葉に千尋くんは「ああ……」と口の中で呟いてから、困ったように眉間に皺を寄せて黙り込んだ。


「あ、言いたくなかったらいいから!ごめんね」


沈黙に耐えられずに、僕が慌てて言うと、同じくらい慌てて千尋くんが「あ、いや、違うんです」と掌を向けて振って見せた。


「あれは、なんつーか、ひよりさんがしつこく心霊スポットだとか夜の学校だとかに俺を連れていくんで、常々俺の持論を解いているだけで――」

「いい、いい!それを聞かせて欲しい!」


鼻息荒くする僕に、千尋くんはややひき気味で「えぇ〜」と言いつつも、持論を語ってくれた。


「なんて言うか、僕が見ている限り、幽霊って呼ばれている存在も普通の人が多いんですよね。普通に歩いているし、普通に公園のベンチで昼寝したりしてるんです」

「昼寝?幽霊なのに?」

「そうです。さすがに公園のベンチで昼寝は笑いましたけど。まあ、それが死んでいることに気付いてないとかそういう類のやつなのかは確かめていないのでわからないですが、とにかく普通に生きている人と同じ行動を取っていることが多いんです」

「へぇ……」

「そこで思ったのが、死んだからと言って、誰かを呪ってやろうとかそう思う人って中々いないんじゃないかなって……いや、いたとしても行動に移せる人ってごく僅かなんじゃないかな?って思ったんです」

「なるほどね。だから、元は人間なんだしって事を言ってたんだ」

「そうです。例えば死んだことに気付いてないのなら尚更で、気付いたとしても女湯覗くとかその程度で、呪うとか頭に過ぎっても一体、どうやってやるの?みたいな感じになって、結局日常の生活送っちゃうみたいな」

「うわ、凄いわかるわ。僕がもしそうなったら……うん、多分、女湯覗く程度……です。はい」

「だから、わざわざ山奥の心霊スポットでいつ来るかもわからない人を待って驚かすなんて労力のいることもやらないんじゃないかなって……実際に、俺の見えている限りでは人気のないところは、変な言い方ですけど幽霊っけもないです」


なるほど、凄い納得のいく説明であった。例えば、物騒な話だが、誰かを殺してやりたいと思ったとしても思うだけで行動に移す人はなかなかいない。それは、単に法律で禁じられているからというだけではないはずだ。性善説とか、そういうのはわからないけれど、ある程度生きていれば、道徳観やら常識が備わってくるもので、例え死んで法律の届かない所に行ったとしても植え付けられた道徳観やら常識から逸脱する行動を取るのはよっぽど勇気のいることではなかろうか。

でも――


「でもさ、心霊スポットって、事故とか戦争で大量に人が死んでいたりするじゃん?そういう所には、沢山いるんじゃないの?あと、なんつーか地縛霊的なやつでそこから動けない的なやつは?」


別に粗捜しをしているわけではないが、千尋くんの持論だけでは説明のつかないものも中にはいるのではないかと僕は考えた。

大分ノッてきたらしい千尋くんも、今度は粗捜しかと警戒もせずに「うーん……」と首を捻ってから続けてくれた。


「これも確かめたわけじゃないので、俺の予想なんですけど、事故や事件があった場所って、絶対誰かが花を供えたりするじゃないですか?」

「ああ、どんなに辺鄙な場所でもニュースでやっている時には花とか置かれてるよね。誰がやってるんだろ?って思ってた」

「そうです。多分、遺族とか関係者だとは思うんですけど、それってつまり供養しているってことなんですよ。だから、死んだことに気付かずさ彷徨っているのが霊ならば、供養されることによって死んだことに気付いて成仏?よく分からないですけど、消えてしまうと思うんです」

「はぁ〜、そっか!」

「いや、本当に僕の予想ってだけですけどね」


僕が大袈裟なまでに感心しているので、千尋くんはどこか照れ臭そうで、どこか嬉しそうだった。

興味本位とはいえ、ここまで真剣に常識では説明出来ない話を聞きたがる者はいなかったのだろう。ここまで聞いてもどこか全肯定出来ていない自分を申し訳なくさえ思った。

そんな僕に気付かず、千尋くんが続ける。


「で、ここからが怖い話なんですけど――」


千尋くんの声のトーンが下がり、室内が少しだけヒヤッとした気がした。


「え?怖い話……?」


日常的に一般に言うところの怖いものを見てしまっている千尋くんが語る怖い話――オカルト好きとしてはすごく興味があるけれど、聞くのもものすごく怖い気がした。


「現実世界にも見るからにヤバい奴っているじゃないですか?見るからにイってる奴。見た目からイってるからって、全員が全員他人に危害を加えるかって言ったらそうじゃないと思うんですけど、出来れば目を合わせたくもないじゃないですか?」


ですか?と同意を求められれば「うん、まあね」と答えるしかない。僕が頷くのを見て、千尋くんも一度頷く。


「俺が見えている中にはそういうやつも当然いて、そのひとつがあの時見たあいつみたいなやつです」


あの時の光景がフラッシュバックして、僕は全身が粟立つのを感じた。だから、さっき、千尋くんは怖いものは怖いですと言ったのか……そう納得した所に千尋くんが「それよりも――」と話を継いだ。

まだあるの!?と、すっかりビビってしまった僕は、思わず口を挟む。


「もしかして、死んだことを分かっていて悪さをしようとしているやつがもっと怖いとか!?」


引きつってはいたが、なるべく軽く明るく正解を取りに行ったつもりだった。だが、千尋くんは「ああ、それも厄介ですけどね」と苦笑する。どうやら、正解ではないらしい。


「もっと怖いのは、そこに縛られているやつなんです」


その回答に、僕は拍子抜けしてしまった。あれ?縛られているやつも大抵、供え物をされて供養されることで成仏しているって言わなかったっけ?と思ったけれど、揚げ足を取るみたいなので言わないでおいた。

僕が黙っていると、千尋くんは当然のごとく解説を始めてくれる。


「これは俺の持論と言うより、ある人から聞いてそれを信じているだけなんですけど……例えば霊感って物があるとして、死んだからと言って、それが身につくわけじゃないんですって。だから、自殺の名所と言われる所には、沢山の地縛霊みたいのがいるにも関わらず、そいつらはお互いにお互いを認識出来ないそうなんです」

「幽霊には幽霊が見えないってこと?」

「つまり、そういう事です。だから、ここに来れば仲間がいるかもしれないと死んでみたけれど、いざそうなった時にひとりぼっちだと思うそうなんです。それで寂しくて呼ぶのだとその人は言ってました」

「……呼ぶ……って、生きている人間を……?」

「そうです。先程、供養されていれば云々の話をしましたが、あまり頻繁に自殺者が出る場所って“またかよ、迷惑だな”って感じで、形こそ花は供えるけれど、ろくに供養されもしないって事もあると思うんです……ましてや人知れず身を投げたりして、死体も上がらないなんてなれば……」


そこまで言って、千尋くんは押し黙ってしまった。鳥肌どころじゃなく、僕の指先は氷のように冷たくなっていた。ここから走って逃げ出したいような気にもなっていた。

その後、千尋くんとどんな話しをしたかは覚えていない。

 


さらに後日。

ヤマダ君にこの話をしてみた。

 

「そういう解釈も面白いな」


と、割りと熱心に聞いていて、最後に千尋くんの思う一番ヤバイやつ。つまり呼ぶやつの話をした時は、さすがのヤマダ君も

 

「おお、そりゃあ怖いな」


と、ひとつ身震いした。


「だって、考えてもみろよ。蜘蛛の糸に群がる亡者の如く、谷底やら森の奥では人影がひしめき合っているのに、そいつらには隣のやつが見えていない。頬触れ合って重なり合っているのに、隣のやつがわからないんだ。全員が全員、自分はひとりだと思ってるんだぜ?」


あの時、怖すぎて想像するまいと封印したことを、ヤマダ君は皆まで言いやがった。多分、言うことによって、僕が青ざめる様を楽しんでいるに違いない。相変わらず、いい根性をしている。

「どんな地獄だよ」という、とんでもないセリフとは裏腹に楽しそうな顔で言ってから、今週のヤンジャンに視線を戻した。

それを眺めながら、ふと、最後に千尋くんが言ったことを僕は思い出していた。


――ヤマダさん……多分、見えてますよね?考え方が違うだけで、ヤマダさんも俺と同じくらい見えてるんじゃないかって、俺には思えるんですよ――


そう言われて、初めて、あの時千尋くんにした珍しく素敵なフォローについて納得出来た気がした。

だが、ヤマダ君にはこの事は話さなかった。


霊感はうつるらしい――もしかして、僕が変な体験やものを見たりするのって――


聞くのが怖いと言うよりも、確かめるのがただただ怖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ