凛ちゃんの怖い話 後日談
あの日、ヤマダ君は帰って来なかった。もし、ヤマダ君が帰ってくるまで粘ると言われていたらと思うと、僕にとってはもう一つの怖い話である。
後日、僕はヤマダ君にこの話をした。
「怖い話って言うからさ、その男の子が幽霊なのかと思ったじゃん」
「だけど、どっこいガチもんでしたって事か」
「普通思うよね?幽霊話かって……」
「いや、そりゃオカルトマニア限定。一般的に怖い話って言えば、犯罪やら災害、不景気とかでしょ?」
確かに、ヤマダ君の話は一理ある。ごく普通に生きていく上では、お化けなんかよりずっと現実味のある事に恐怖を覚えるのは当たり前のことだ。
「しっかし、そりゃガチだな。うん。色んな意味で本当に怖い話だわ」
と、ヤマダ君は笑った。
よくもこの話で笑えるなと、僕は呆れる。
僕なんて、この話を聞いてから、警察に言うべきか否かをずっと悩み続けているのに……
つい押し黙った僕をヤマダ君も呆れ顔でチラリと見た。
「なあ、本当に怖いのは生きてる人間って言うけど、お前もそう思う?」
言われて僕はうーんと考え込む。
「さあ、どうだろ?この話はもちろん怖いけれど、お化けとか幽霊とかももちろん怖いよ」
ヤマダ君に対して、さりげなく抗議したつもりだった。
それに気付いていないのか、それとも気付いていてあえて無視したのか、ヤマダ君は「そりゃそっか」と笑う。
「でも、まあ、お前が悩む事はないんじゃないか?本人たちが言わないって決めたんだから、万が一何かあってもお前のせいにはならない」
なんだ、その事にも気付いてたのか。まあ、僕は分かり易い人間だから、悩んでる事が、思いっきり顔に出ていたのだと思うけど。
でも、ヤマダ君にそう言われて、少し救われた気がした。
「それに、その話に神妙性なんてないし」
「え……ヤマダ君信じてないの?」
「うん。俺は自分が見た事しか信じない」
見たことって……つまり、僕が体験した事を傍目で見るってことじゃ無いか。
僕にとって一番怖いのは、お化けよりも、人間と言うか、ヤマダ君。
そんな思いがふと浮かんだ。
これが冗談なのか本気なのか、自分でもわからないところがまた怖い。
「ところで、あの子なんの用事だったの?」
「さあ、あれ以来、顔見せてないから。多分、お前にした話がしたかったんじゃないか?」
「そうなのかな?」
「絶対、そうだよ」
自信満々に言い切ると、ヤマダ君は断りもなく僕のケータイを弄り始めた。
「ちょ、ヤマダ君。そろそろ自分のケータイ買ってよ!」
「いいのいいの。俺は自分が見た物しか信じないから。電子情報なんて以ての外だ」
「じゃあ、僕のケータイ返してよ」
「いや、地図は別。次行く場所の地図だけ確認させてもらうよーっと」
「次行く場所って……ヤマダ君……僕が一番怖いのは君だよ……」
タイミングを見逃さず、なんとか冗談っぽく告白できたけれど、ヤマダ君には全く効き目なしだ。
「ありがとう」
ときたもんだ。
僕は深い溜息をついた。
ケータイを奪い返す気も、ヤマダ君に抗議するのも、この辺りから諦めていたのだと思う。
ところで、凛ちゃんだが、この時点では、まさかヤマダ君の彼女なのかな?と僕は疑いつつも聞けずにいた。
それが違うと知るのも、凛ちゃんとヤマダ君の出会いを知るのは、もう少し先のこととなる。
ただ言えるのは、残念ながら、僕もヤマダ君も凛ちゃんと親密な仲になることは後にも先にもなさそうだ。




