哀しみの島
新作です
あの日、俺は悲しいお別れをした。
高校2年の春のことだ。
俺の通う伊澄高校の2泊3日修学旅行が行われた。
今年はなんと孤島に行くことになっていた。この高校の理由の分からないシステムだ。
飛行機が離陸し、空を泳いでいる。
「ん〜飛んだ飛んだ!」
俺の隣に陣取り大きく背伸びをした華は、そのまま窓から外の景色を眺め始めた。
「凄いね!見て見て!」
「どーした?」
俺はかったるそうに華が見る景色を眺めた。
鼻が指をさすのは、富士山だ。
俺はそんなことよりも彼女から漂う素晴らしい香りに脳を揺らされた。
香水の匂いではない、茶髪のショートヘアーから香るシャンプーの匂いだ。
俺の様子が気になったのか華が少し心配そうに聞く。
「大丈夫?もしかしてまだ気分悪いの?」
「あ、いや、気にするな。ちょっと男としての病みたいなもんだ」
「そっか、って病なんてダメじゃん!」
「大丈夫だよ。言葉の綾だ」
俺は華の心配性を忘れていた。
「よかった...」
一つ息を吐き、胸をなでおろした華は背もたれに深く腰掛けて続けた。
「能力を無くしてからまだ一ヶ月しか経ってないから、まだ体がついていかないのかなって少し心配したよ」
「悪いな、そんな心配させて」
「ううん、気にしないで」
そう、あの戦いから一ヶ月が経過した。
俺はあの戦いの勝利の代償として、能力を失った。
元々の身体能力はそのままだが、神からの授かり能力は全て失ったかたちである。
機関では今もその原因解決に努めているが、まだ成果が出るのは遠い日のようだ。
「ま、でもよかったよ。俺の能力を失う代わりに地球が護れたんだからな。しばらくは結界も壊れないだろうし安心だろ」
「しばらくってあと千年は大丈夫なんでしょ?」
華が眉を八の字にして言う。
「まーな」
俺は手を後頭部に組み、前よりも深く腰掛ける。
すると脇腹にトンと体重が微かにかかる。どうやら華が頭をもたれかけさせたようだ。
「でもあなたが無事でよかった...」
囁くような、優しい声音でそう言うと、強くもたれ掛かる。
「悪かったな、心配ばかりかけて」
「ほんとそうだよ...」
華の顔は見えないが少し安心してるようにも見える。
その時だった。
「ひゅーひゅーお二人さん熱いね〜」
「ん」「え...」
前の席の隼人と志麻が俺たちを馬鹿にした口調で言う。それに気付き、華は俺から離れて窓の方を見た。
「うっせーよっとっ」
俺はそう言いながら、組んでいた手を解いて二人にデコピンをくらわせる。
「いってーな!」「いてっ!」
「自業自得だ」
「心配すんなって、わざわざこの写真をみんなには見せねーから」
隼人はそう言うと、スマホの画面を見せてくる。
そこには俺達の写真が写っていた。いつの間に!?
「おいおい、盗撮かよ。そのスマホ貸せ。二度と使えなくしてやる」
「いやだよーだ!」
そう言うと志麻にパスしてそのまま二人して引っ込んだ。
俺はため息をつきつつも、ちょっとだけ欲に負けた。
隼人のLINEを開いて、メッセージで
『その写真くれ』
とだけ送る。仕方ない。あんな可愛い彼女の顔だからな。
俺はそうすると、隣の華にそっと言った。
「大丈夫か?」