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6話

「うさぎさん、頑張れー」


 うん、私頑張るよ。


 うさ子は声援を受けて、ぐんぐんすぴーどを上げていき、いたちくんに大差をつけてごーるしました。


「やったー」

「くそ、負けたー」


 うさ子の勝利でみんな大盛り上がりです。


「うさぎさん、はやーい」

「いたちくんも頑張ったねー」

 仲間が声をかけてくれます。


 うさ子は嬉しくて、楽しくて、仕方がありませんでした。

 これはきっと、勝負に勝ったからというだけではありません。


「うさぎさん、くやしいけど完敗だ」

 いたちくんが、うさ子に声をかけます。


「ううん、いたちくんもはやかったわ。いい勝負だったわね」

 うさ子は、自分の口から出た言葉に、自分で驚きました。

 これまで、競争で負かせた相手にこんな言葉をかけたことがあっただろうか。


 負かした相手はとことんけなす、というのがいつものうさ子が無意識にとっていた行動でした。

 無意識だから、たちが悪かったのです。


 うさ子は、自分の力を誇示するためでなく、純粋に競争を楽しめたのです。


「へへっ」

「ふふっ」

 うさ子といたちくんは、あつい握手をかわしました。

 今日初めて会ったとは思えません。


 この仲間とずっと一緒にいたい。

 そう思えば思うほど、うさ子は不安で仕方がありませんでした。


 自分が、自分なんかが、一緒にいさせてくれるだろうか。

 仲間にしてくれるだろうか。


 うさ子は、競争で相手をぶっちぎってしまうと、次からはみんな勝負をしぶったりすることが多いことが多かったのです。

 そこを無理やり付き合わせるのが、今までのうさ子の日常でした。


 競争が楽しければ楽しいほど、また競争してくれるだろうか、という不安が大きくなります。


「ね、ねえみんな、良かったらまた……あの……」

 周りは大盛り上がりでしたので、 うさ子の小さい声はみんなには届きませんでした。


 良かったらまた競争して。

 私を仲間に入れて。


 ぷらいどが人一倍高いうさ子が、そんなすとれーとに好意を伝えられるはずがありませんでした。

 今声をかけようとしただけで、今までのうさ子からしたらすごいことです。


 そうやってうさ子がもじもじしていると、ふとかめさんと目が合いました。


「また別の日、りれーでもやろうか。僕はうさぎさんちーむに入りたいな、わっはっは」

 急にかめさんが、こんなことを提案しました。


 うさ子は驚きました。

 競争で誰かを負かせたら、相手は次から勝負をしぶるもの。

 そんなうさ子の中のじょうしきが、くつがえりました。

 まさか、そんな楽しみ方があったとは。


「あー、それいいね。いたちくんちーむと、うさぎさんちーむでやろう」

「おもしろそうー」

 まわりは再び盛り上がりました。


「えー、でもかめさんが入ると、いつも負けちゃうじゃーん」

 そんな声が上がると、うさ子はすかさず言いました。


「大丈夫よ、かめさんの分くらい、私がかばーしてあげるわ」

 うさ子は思い切って、そんなことを言いました。

 すると、わーっと周りが盛り上がりました。


「わっはっは、これはありがたい」

 かめさんは、嬉しそうに笑いました。


 私、またここに来れるんだ。またみんなと遊べるんだ。

 そう思うと、うさ子は嬉しくて仕方がありません。


 ただその反面、うさ子には思うところがありました。

 本当に自分なんかが仲間に入れるのだろうか、と。

 あまり無理に混ざろうとすると、迷惑がかかるんじゃないか、と。

 うさ子は、自分が他人に受け入れられる自信がありませんでした。


「じゃ、じゃあ、りれーをやる時はくるね」

 そんなおもいから、うさ子はこう言ってしまいました。


「いつやるの? そのときだけは、また遊ぼうね」

 そんな言葉を言った後、うさ子は自分自信に嫌気がさしました。

 これをきっかけに仲間に入れたかもしれないのに。

 なんでこんな、意味のない強がりをしてしまうのだろうか。


 うさ子は、自分の言った言葉でひそうかんにさいなまれました。

 目に少し涙がたまってしまいます。


「じゃあ、毎日やろうか、わっはっは」

 かめさんは笑いながらいいました。


「うさぎさんがいると、僕も一緒に走れるから嬉しいんだ、わっはっは」

 かめさんのそんな言葉を聞いたとたん、うさ子は嬉しくて、嬉しくて。

 感情がわっと湧き出してしまいまいした。

 うさ子の目から、涙があふれ出します。

 かめさんには、私の本当の気持ちが分かっているのだろうか。


「う、うさぎさん、大丈夫?」

「あー、かめさん、泣かせたー」

 仲間たちが色々と声をかけてくれます。


 そんな心配する声も嬉しくて、少しの間、うさ子は恥ずかしがって顔を隠すようなこともせず、小さい子供のように思い切り泣きじゃくりました。


「うさぎさん、もしかして、嫌だった?」

 そんな声があがると、うさ子は勇気を出して答えます。

「ち、違うの、本当は、今日すごく楽しかったから、その……」

 うさ子が誰かにこんなに素直に気持ちを伝えたのは、家族以外では初めてでした。


「また何度もみんなと遊べるのが……仲間に入れたみたいで嬉しくて……。」

 うさ子が涙ながらにそう言いました。

 仲間たちは安心したようにやったー、とかよろしくーとか言ってくれ、みんなで笑い合いました。


 ふとかめさんを見ると、かめさんもにこにこと笑っています。

 うさ子は、とても暖かい気持ちになっていくのを感じました。

 素直に気持ちを伝える喜びを感じました。


「でもさー、毎日りれーじゃあきちゃうよ」

「そうだ、川の向こうに、すごく足のはやいきつねさんがいるんだって。こんど勝負しにいこうよ、うさぎさん」

 なんだか面白そうな提案が上がっていくと、うさ子はわくわくしました。

 うさ子は不思議と、涙を流したまま、笑顔になっていきました。


 うさ子は、かめさんには自分の心が透けて見えているんじゃないか、と思っていました。


 かめさんがきっかけを作ってくれなかったら、私にはとてもこんなに素直に気持ちを伝えるなんて出来なかった。

 いや、そもそも、かめさんがいなかったら、みんなと出会えなかった。

 今日のような最高の1日に出会えることはなかった。


 うさ子は、かめさんが前に言っていた言葉を思い出しました。


 "うさぎさんの足のはやさは、最高の才能だよ。もらった才能には、必ず意味があるものさ"


 そうか、私の足のはやさのには、そんな意味があったのか。


 ふと、うさ子がかめさんの方を見ると、かめさんはにこっと笑顔で返してくれました。


 うさ子は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔のまま、とびっきりの笑顔をかめさんに返してやりました。

「えへへ」


 うさ子の心が一瞬でみたされていきます。胸が高鳴ります。

 今、心に湧いた感情はなんというか、うさ子は知っていました。


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