5話
「ねー、うさぎさん、きっく力もすごいけど、足もとってもはやかったよねー」
そんな言葉がかかり、うさ子は胸が痛くなりました。
「そ、そう? でもね、足なんかはやくたって意味がないのよ」
「そんなことないさ、わっはっは」
カメさんがすかさずこう言いました。
「うさぎさんの足のはやさは、最高の才能だよ。もらった才能には、必ず意味があるものさ」
その時、うさ子はかめさんの言葉がふにおちませんでした。
足のはやさを才能というならば、私はかめさんのような才能が欲しい。
みんなと仲良く出来るような才能が。
「ちょっとまったー」
みんなの陰にいた、いたちくんから、急に声がかかりました。
「足のはやさなら、ここじゃ僕が1番さ。うさぎさんには負けないさ」
「そうそう、いたちくんのはやさも立派な才能だな、わっはっは」
うさ子はその話にはあまり興味がありませんでした。
どっちがはやくたっていいよ。だって、足なんかはやくたって……。
そんなうさ子の気持ちとは裏腹に、こんな提案が上がりました。
「じゃあさ、いたちくんとうさぎさん、どっちがはやいか競争してみようよ」
「いいねー、楽しそう」
周りが急に盛り上がります。
いたちくんもやる気です。
ただ、うさ子はあまりやる気がありませんでした。
そんなうさ子の目の前を、いたちくんはとととっと走ってみせます。
「どうだい、はやいだろう」
その走りを見て、うさ子は一瞬で心が惹かれました。
何あの走り方。ちょっとかわいい。
実はうさ子は、いままでうさぎとしか競争したことがなかったのです。
この子と競争したら楽しそうだな。どんな勝負になるんだろう。
うさ子は急にわくわくしてきました。
「いいわよ、競争しましょう」
「やったー」
いたちくんも、ほかの仲間も大喜びでした。
うさ子は、またもや不思議な感覚にとらわれました。
今まで私と競争するのを、こんなに楽しみにしてくれる仲間がいたかしら。
「よーし、競争だー」
みんなで盛り上がりながら、わいわいと準備をします。
準備と言っても、すたーとと、ごーるの場所を決めるだけですが、うさ子はいつもこれを自分だけでやっていました。
あまりやる気のない相手に、はいこっからここまでねー、と言って従わせる。相手もしぶしぶ従う。
大体こうでした。
そんな競争よりも、こういう競争の方が楽しいに決まっています。
でも、今までうさ子には、こういう競争はできませんでした。
うさ子には、競争を楽しみにしてくれる仲間も、わいわいと盛り上げてくれる仲間も、いなかったのです。
準備の最中、いたちくんとふと目が合いました。
「ん、どうした? 僕は絶対に負けないぜ」
そんな声が、嬉しくて嬉しくて、勝負の前なのに、涙が出そうになってしまいました。
「いちについて、よーい、どん!」
いたちくんとうさ子は一斉に走り始めます。
すたーとだっしゅは、いたちくんが優勢でした。
とととーっと細かく素早いはしりでかけ出しました。
ぴょーん、ぴょーん、とうさ子も本気の走りをみせます。
いたちくんがとととーっと細かい走りで進んだ所を、ぴょーんとうさ子はひとあしで追い抜いてしまいます。
そこをいたちくんがととーっと追いかけ、ぴょーんとうさ子が追い抜く。
そんな勝負でしたが、だんだんとうさ子のひとあしに、いたちくんが追いつかなくなってきました。
「いいぞー、うさぎさん」
「いたちくんも頑張れー」
周りからは声援と歓声で大盛り上がりです。
いたちくんは、だんだんとうさ子に離されていきます。
「く、くそっ」
いたちくんは、走りながらどうやってうさ子においつこうか必死に考えているような様子でした。
ただ一方うさ子は、全く別のことを考えていました。
楽しい。楽しい。
競争って、こんなに楽しかったの?
走り方が違うから? 応援してくれる仲間がいるから?
次話すぐに投稿します