4話
「あ、昨日のうさぎさんだー」
みんながうさ子に気が付きました。
「ねえ、うさぎさん、昨日のきっく力、すごかったね。誰がやっても昨日見たく勢いよく飛ばなかったんだー」
はあ? 誰がやっても?
あんなこと、何回もやったの?
あんたら、きちがいよ。
いつもなら、そんな冷たい言葉を平気ではいていたうさ子でしたが、なんだか自分が褒められているようで嬉しかったので、それは口にはしませんでした。
「ねー、もう一回やってみせてよ」
ねこさんがうさ子にそう言うと、うさ子は少し照れながらうなずきました。
ぼっちゃーん、とかめさんは、ねこさんがやったよりもずうっと勢いよく池へ滑っていきました。
「おおおー!」
場が一気に盛り上がりました。
「あんこーる、あんこーる!」
そんな声が上がると、うさ子もだんだんと楽しい気持ちになってきました。
「こ、こんどは私いいかしら」
かめさんよりずうっと重そうな、すっぽんが、滑りたがりました。
ええぇー、こんなのやりたいの?
滑りたいの? ええぇー?
うさ子は、のりとは恐ろしいものだと感じました。
それと同時に、なんだか楽しい気持ちが増してきました。
仲間と一緒に、のりというものを感じるのも、うさ子は初めてです。
うさ子がきっくの体制に入ると、まわりの注目が一気にうさ子に集まります。
「すっぽんは重いから池までは難しいよー」
「頑張れ、うさぎさーん」
そんな声がかかると、うさ子がみんなに、ぴーすさいんを見せました。
「こんなの、らくしょーよ!」
実はこれが、うさ子がここの仲間に向けてまともに話した、初めてのことばでした。
どっちゃーん、と池で大きな音が上がりました。
「わああ、すごぉい」
拍手と歓声が入り混じり、大盛り上がりです。
「えへへ」
うさ子は笑顔でみんなに手を振ります。
それを見て、またみんなで大盛り上がり。
どうやら、ここの仲間は、なんでも楽しい遊びに変えてしまうようでした。
これもきっと、才能なのかな。と思うと、うさ子はほんの少し、悲しくなりました。
かめさんが、満面の笑みで近づいて来ます。
うさ子は、思わず目をそらしてしまいました。
私にはとても、こんな才能はない。
みんなを楽しくさせるような。笑顔で人を集めるような。
そんな才能は。
どうせ私は、憎まれ口しかたたけない。
楽しいことなんてしゃべれない。
攻撃することでしか、だれかと関われない。
「君はなんて楽しいうさぎさんだ。わっはっは」
うさ子のゆううつは、かめさんの言葉と笑顔に一瞬でかき消されました。
「は? え、は?」
うさ子は意味が分かりませんでした。
楽しい? 私が?
私が何をしたの?
ぽかんとしているうさ子に、仲間たちからも声がかかります。
「そうだよー、こんなに楽しい遊び、どうやって考えたの?」
「おもしろーい、うさぎさん、おもしろーい」
みんな、笑顔でうさ子に近づいて来ます。
いやいや、違うでしょ。
私が楽しいんじゃなくて、みんながこうやって笑顔で楽しい雰囲気を作っているからよ。
「ち、違うわよ、みんなが笑顔で楽しい雰囲気を作っているからで、私が楽しい訳じゃ……」
そうよ。私が楽しいはずないじゃない。
笑顔で楽しい雰囲気、なんて作れたためしがない。
「そういううさぎさんだって、そんなに笑っているじゃないか、わっはっは」
「え?」
うさ子はびっくりしました。
カメさんに言われて初めて、自分が笑顔でいることに気が付きました。
「ねえ、そんなことより、もう一回やろうよー」
「う、うん」
うさ子は、その笑顔のまま、声をかけてくれたねこさんの所へ行きました。
なんて言ったらいいのか。
自分が笑顔でいることに気がついてから、笑顔が止まらない。
こんなに笑ったのは、いつぶりだろうか。
いや、そもそも、こんなに笑ったことが今まであっただろうか。
うさ子はもう、楽しくて、楽しくて仕方がありませんでした。
楽しくて、楽しくて、楽しくて。
楽しくて、楽しくて、楽しくて。
いくつ並べても足りないくらい、楽しい、が溢れ出してくるのです。
笑顔がずっとおさまりません
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