2話
うさ子は走って帰る途中で、池の周りでのろのろと歩く、かめさんを見つけました。
そのゆっくりと歩くすがたが、機嫌の悪いうさ子のかんにさわりました。
「くそ、目ざわりだ、この鈍足かめが」
なんとうさ子は、かめさんを後ろから池へ思い切り蹴り飛ばしました。
これが、うさ子とかめさんの初対面でした。
うさ子は、池へ落ちていくかめさんを放置し、そのまま家へ帰りました。
家についても、うさ子の機嫌は当然なおりません。
「おかえりー……お、おい、どうしたうさ子、もしかして泣いて……」
「うっせー、鈍足くそ兄死ね、話しかけんな」
うさ子は、せっかく心配してくれた兄にまで冷たい言葉をはいてしまいます。
兄うさおは、いつものことなので、するーしてくれますが、ふつうはそうはいきません。
それを考えると、かめさんにしたことは、りふじんのきわみでした。
実はうさ子もそれは分かっています。
うさ子はかめさんに対して罪悪感が芽生えてしまい、自分をせめてしまいました。
そして、それをきっかけに、うさみちゃんたちとのことも、本当は自分が悪いのだと気がつくきっかけになってしまいました。
普通ならここで反省するところですが、うさ子は違いました。
「くそ、うさみのせいで、あのくそかめのせいで……」
うさ子は、自分を正当化するために、全く関係ない、かめさんにまで怒りをぶつけはじめました。
うさ子はどんどん自分が嫌いになっていきます。
「おはよう、うさ子」
どうやらうさ子は、泣き疲れて眠ってしまっていたようでした。
兄はそんなうさ子を気にかけていてくれていました。
「よしうさ子、今日はかけっこで勝負しようか」
兄うさおは、うさ子を元気づけるために、うさ子の大好きなかけっこに誘いました。
「よーし、今日は負けないぞー」
わざとらしく張り切る兄を見て、うさ子はむしずがはしりました。
「勝手に走ってれば? 私は一人で出かけてくるから」
うさ子はそう言うと、家を出て行きました。
あたたかい兄の気持ちは、うさ子には届かなかったようです。
「お、おい、うさ子」
呼び止めようとする兄に、うさ子はこう言い放ちました。
「足なんかはやくたって、それが何になるのよ」
うさ子は、歩きながら、自分で言った言葉に自分でおどろいていました。
足なんかはやくたって、意味がない。そんなことを口にしたのは初めてでした。
うさ子は足がはやいことだけが誇りでした。
しかし、そんなことを口にしてしまったことで、うさ子は自分のそんざいかちが、どんどんと薄れていく気がしていました。
自分には、何があるのだろうか。そんなことを考えながら、消え入りそうな気持ちで歩いていると、昨日のかめさんを見つけました。
知らず知らずのうちに、昨日の池に来てしまっていたようです。
かめさんのまわりには、たくさんのなかまが集まっていて、わいわいがやがや、とても楽しそうな様子でした。
うさ子はなんだか気まずかったので、まわりみちしようと思いましたが、かれらが話している内容を聞いて、びっくりしました。
「ぼくは昨日、ここで空をとんだんだ、本当だよー」
かめさんは、楽しそうにそう話しているのです。
「え、嘘だー」「そんなわけないよー」
かえるさん、小鳥さん、ねこさん、その他色々な動物が集まって、かめさんの話を聞いていましたが、あまりみんな、信じていない様子でした。
なんということでしょう。かめさんは、自分が蹴飛ばされたことに気付いていなかったようです。
いきなり走ってきて、背後から蹴飛ばされたので、当然と言ったら当然かもしれません。
かめは甲羅が硬いので、痛みは感じなかったのでしょうか。
「長く生きていると、珍しいこともあるもんだ、わっはっは」
まわりの仲間が信じていないことなど、全く気にしない様子で、かめさんは笑いながらそんなことを話しています。
まわりの仲間も、話が本当かどうか、さほど気にしていない様子でした。
そんなかめさんの温和な人柄が、仲間を寄せ付けているのでしょうか。
うさ子はそんな様子を見て、ただ憎らしいと感じていました。
うさ子は、人気者が大嫌いです。あんなにたくさんの仲間に囲まれたことなど、一度もありません。
気が付いたら、うさ子は再び背後からかめさんを蹴り飛ばしていました。
今度はもっと高くまで打ち上がるよう、全力で蹴飛ばしました。
「くそっ、死んじまえ」
うさ子は小さい声でぼそっと呟きました。
ざっぱーん、と大きな音が上がります。
さすがのうさ子も、本当に死なれては後味が悪いので、ちゃんと池に入るよう、こんとろーるしました。
もし外しても、そん時はそん時で知ったこっちゃありません。
次話すぐに投稿します




