1話
※推敲前のこの作品を2chに投稿したことがあり、その作品がいくつかの2chまとめサイトに載っているようです
「ちょ、ちょっと疲れたし、休憩しようかしら、ある程度せっていないと面白くないし」
うさぎのうさ子は、まるで言い訳のようにひとり言をつぶやき、途中の道で横になってしまいました。
しばらくして、かめさんが追いついてきました。
目をつむったまま横になっているうさ子を通り越し、かめさんは懸命に走っていきます。
これは、かめさんの足音ね。
抜かされちゃう……まあ、仕方ないか。
私今、ちょっと足がいたい気もするし、休憩よ、休憩。
かめさんなんて、あとで追いかければすぐに追い抜けるわ。
うさ子はかめさんが先に行ってからしばらくしてから体を起こしました。
「え、えへへ、にんじん畑にでーと」
うさ子はにやけながら走り出します
うさ子の足は非常にはやく、ものすごいすぴーどで進んでいきます。
「足がはやい? それが何?」
「それって何か意味あるの?」
うさ子は走りながら、以前言われた嫌な言葉を思い出してしまいました。
————
「やった、またかけっこ、私の勝ちね」
うさ子は言いました。
「くっ、また負けた」
うさ子の兄、うさおは、悔しそうな顔を浮かべながら言いました。
まわりのうさぎと比べても、兄うさおと比べても、うさ子の足のはやさは頭ひとつとびぬけていました。
「ねね、お兄ちゃん、もう一回きょうそうしよう」
「もういいよ、俺はこれから友達と遊びに行くから」
兄うさおは、そう言うとそそくさとうさ子の前から去ってしまいました。
「友達……」
残されたうさ子は、悲しそうにつぶやきました。
その言葉を耳にすると、なぜだか心がいたむのです。
ある日、草原で3匹のうさぎたちが、わいわいとおしゃべりをしていました。
楽しそうだな、と思ってうさ子が近づくと、なぜだか急にしずかになってしまいました。
「ねーねー、みんな、何してるのー?」
うさ子がみんなに話しかけます。
「いや、別に……」
うさなちゃんが、下をむきながら答えました。
「……? そう」
うさ子がふしぎそうな顔をしてそう言うと、それ以降、誰もしゃべりませんでした。
「……」
ひゅうーときたかぜさんがとおりぬけていきました。
さっきまでの楽しそうなふんいきが、うそのようです。
「そ、そうだ、またかけっこで遊ぼうよ」
うさ子が、提案しました。
「……」
誰も返事をしません。
うさ子は、自慢の足のはやさを過剰に誇示する悪いくせがあり、それが周りとのわだかまりの原因の一つとなっていました。
以前うさ子は、気が小さく足があまりはやくない、うさなちゃんを、遠慮なしにぶっちぎり、「私を抜くまで終わらないよー」とりふじんなルールを強いた上、体力が尽きて周回遅れになったうさなちゃんを後ろから煽り続け、延々と走らせたことがありました。それでも必死に走るうさなちゃんの様子をわざとこっけいでぶざまに聞こえるように、面白おかしくばかにしながら、周りに言いふらしてまわったのです。
ただ、その話を聞いて、笑う人は誰もいませんでした。笑っていたのは話しているうさ子だけです。
「ね、ねえ、うさなちゃん、こないだは楽しかったよね」
うさ子がそう言うとうさなちゃんは、にがわらいをしたまま下を向いてしまいました。
「ねえ、このへん空気わるいからちょっと移動しない?」
いつも気の強いうさみちゃんが、きゅうにこんな提案をしました。
「そうね」「う、うん」
一緒にいたうさなちゃん、うさねちゃんはそう言い、うさ子に背を向けて、みんなでこのばを去ろうとしました。
「ちょっと、なんでむしするのよ」
うさ子は、きれました。
「むしむし、行こう」
うさみちゃんは小声でそう言うと、みんなもだまってついていきました。
うさ子はくやしくて仕方がありません。
「聞いてんのか、おい鈍足うさな!」
うさ子が大声でそう言うと、気の小さいうさなちゃんは、おどろいて振り向いてしまいます。
「え、いや、その……」
うさなちゃんはうろたえます。その様子を見て、うさ子は少しうれしくなったようでした。
「ちょっとやめなよ」
すかさず、気の強いうさみちゃんが割って入ります。
「そうやって、気が小さい子だけにあたりちらすの、こっけいよ」
「っ!」
うさ子は、図星をつかれて何も言えません。
そう、うさ子は、弱いものにしか強いたいどをとれないのです。
「あんた、早くどっか行ってよ」
「あ、いや、あ……」
さっきの怒りはどこへやら、うさ子は何も言い返せずにてんぱるだけでした。
うさ子は、気の強いうさみちゃんが少し苦手でした。
「あ、あんたらなんか、足がおそいくせに」
うさ子は、涙目になりながらこう言いました。
「は? なにそれ、今関係あるの?」
「足がおそいくせに、足がおそいくせにうるさい!」
うさ子は、もうそんなことしか言えませんでした。
心が曲がっている上、あたまのかいてんも、あまりよくないのです。
唯一の心の支えは、足のはやさだけでした。
「足がはやい? それが何?」
「それって、何か意味あるの?」
ちょうど、その支えがくずれていく最中です。
「に、肉食動物から逃げるには、足がはやくないと……」
「は? あんたじゃあ、チーターより早く走れるわけ?」
「い、いや……」
「ほかの同種よりはやいって程度で、意味あるの? 生活の上でそんなに必要? ねえ?」
「……」
うさ子は、もう何も言い返せません。
あふれ出る涙が抑えきれず、ついみんなに背を向けてしまった、その時です。
あの内気なうさなちゃんから、どかっと、むごんの蹴りが、うさ子の背中に入りました。
その一撃が決め手となり、うさ子は駆け出しました。
「わー、すごい逃げ足ね、はやいはやーい」
「ごめんなさーい、生きていく上で必要だったわね」
げらげら、くすくす、とうさ子が駆け出した後ろから笑い声が聞こえてきます。
うさぎは耳が大きいので、走りながらでもいろんな音が聞き取れてしまうのです。
うさ子は、怒りと悲しみで一杯になりながら、目をまっかにして家に向かいました。
この世の全てが敵に思えてきたそんな時です。
出会いは突然やってきました。
次話すぐに投稿します