第49話 残念美少女、厄介払いされる
例の「銭湯泡吹き事件」から二週間、この世界では十二日だが、『青の店』にいた私の所に、ギルドから呼びだしがあった。
私はドンを連れ、ギルドにやって来た。
扉から入るなり、ギルマスが私に駆けよる。
「ツブテ、ちょっとこっちに来い」
私とドンは、すでに見慣れた個室に連れこまれた。
「ツブテよ、お前、何が起きてるか知ってるか?」
「えっ?
知りませんけど」
「お前、最近、ヌンチや『赤い稲妻』のメンバーを見たか?」
「……そういえば、ここしばらく見ていませんね」
「ここだけの話だが、ヤツらはな、ノイローゼのようになってる」
「えっ!?
なんでです?」
「はっきり言うぞ。
原因は、お前だよ。
やつらが気持ちのはけ口にしていた唯一の行為を、お前は禁じただろう」
「別に禁じてませんけど」
「馬鹿者っ!
禁じてなくても、あんな事の後で、また同じことができるかっ!」
「そうですかねえ」
「ああ、もういいよ。
とにかく、お前、しばらくこの街を離れてくれ」
「えっ!?」
「手続きの方は、こちらでしてある。
いいか、しばらくは、絶対に帰ってくるんじゃないぞ。
それから、カニは置いていけ。
ヌンチたちのリハビリに必要だ」
「まあ、それはいいですけど」
「ここを出たら、すぐに『アヒル亭』に行け」
「えっ!?
なんで、『アヒル亭』に?」
「とにかく、そこにいる人物にお前を任せるからな。
さっきも言ったが、しばらくは、絶対に帰ってくるなよ」
「ドンは、どうしたらいいですか?」
「どうせ、お前とは離れんだろう?
だから、こっちで上手い事しておいたぞ」
「……そうですか」
「それから、向こうにいい毛生え薬があったら買ってきてくれ」
「毛生え薬?」
「ああ、これを見ろ。
ストレスで薄くなってんだよ」
トリーシュさんが、頭のてっぺんを見せる。
確かに頭頂部の頭髪がとても薄くなっている。
「じゃ、もう行け!」
ギルマスはそう言うと、頭を抱えてしまった。
ここは、退散した方がよさそうね。
すぐにドンを連れ、『アヒル亭』に向かった。
◇
「おばさん、こんちはー」
「あら、来たね。
ギルマスから聞いてるよ。
すぐに呼ぶからね。
アレクー、ツブテちゃんが来たわよー」
奥からおばさんの息子、眼鏡少年アレクが出てくる。
「ツブテさん、ギルマスから話は聞いてます。
明日向こうに出発しますから、準備しておいてください」
「ちょ、ちょっと待って。
じゃ、ギルマスが私を任せたっていうのは、アレク君?」
「まあ、正確には学園にですけどね。
明日朝早くここを出発して、『タルス魔術学園』に向かいます」
「タルト?」
「タルスです。
向こうでは、ボクのように寮生活となります。
今日中に、必要なものを準備しておいてください」
「お姉ちゃん、タルスって何?」
「ああ、学校のようなものかしら。
私にもまだよく分からないから、向こうに着くまでにアレクから教えてもらいましょう」
「うん、分かったー」
こうして、ドンと一緒に魔術学園に入ることになった。




