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残念美少女ツブテ  作者: 空知音
49/58

第48話 残念美少女、お説教をする。      


 

 水辺に似せた水槽の前で、私は背後からおじさんたちに話しかけた。


「へえ、その『悪魔』って、ホントひどいんですね」


「ああ、ひどいなんてもんじゃないぜ。

 まさに悪夢、いや、『悪魔』だね」


「そうそう、ありゃ、『キンベラの恐怖』、いや『世界の恐怖』だね」


「ちげえねえ。

 綺麗な顔してるから余計にな、残念だ」


「へえ、残念ですか」


「ああ、残念……」


「あれ、グラントさん、どうしたんです?」


「ヌンチの言う通りだぜ、どっか悪いのか?

 まっ青になってるじゃねえか?」


「おい、片手吊ってる兄ちゃんも、青くなってるぜ」


「本当に、どうしたん……」


「「「……」」」


 全員が私の方を振りむく。

 まっ青になっている、ヌンチとおじさんたちに声を掛ける。


「あなたたち、今から銭湯の二階に来なさい」


 ことさら優しく話しかける。


「お父さん、このお姉ちゃん、『悪魔さん』の人形に似てるね」


「これ、こんな偉い方が、ここにいる訳ないだろう。

 どうも、息子がすみません」


「お母さん、カニが全部泡を吹いてるよ」


「カニは、そういうことをする生き物なんだよ」


「お父さん、このおじさんたち、顔がすごく青いよ」


「こらこら、そんなことを言っちゃだめだぞ。

 みんな悪いモノでも食べたんだろう」


「あなた、そう言えば、ここにはお湯が溜めてある場所があるっていうじゃない」


「おお、そうだな。

 そこに行こうか」


「うん!

 行ってみよう!」


 親子連れが出ていき、部屋は私たちだけになる。

 

「さあ、みなさんも、銭湯の二階へ行きましょうね」


 肩を落としたおじさんたちが、とぼとぼと部屋から出る。

 部屋を出る時、私はクリスタルの向こうで一列に並んでいるポチ(カニ)たちの方を見た。


「いい子たち~、今日は、特別訓練がありますよ~、楽しみにね」


 ポチ(カニ)たち『『『ぞくぅっ……(泡)』』』


 ◇


 親子連れが銭湯で気持ちよく入浴している、その二階では、仁王立ちした私の前に、おじさんたちが背筋せすじを伸ばして座っていた。


「さあ、あなたたち。

 言い訳を聞きましょうか?」


 私の静かな声が、大広間に響く。一般のお客さんには、遠慮してもらっているから、ここには私たちしかいない。


「まず、G団子の人から」


「ぐっ……べ、別に、G団子じゃなくとも、何とかなったんじゃないかと、はい」


「言いたいことは、それだけ?」


「は、はい」


「次、『赤い稲妻』の皆さん、言い訳をどうぞ」


「「「も、申し訳ありませんでしたーっ!」」」


「ヌンチ?」


「ほ、ほんの出来心だったんです。

 一度、あの体験をしてから、その快感が忘れられなかったんですっ!」


「何かの中毒者がする告白みたいね」


「ご、ごめんなさいーっ!」


「いいのよ、いいの。

 私は、怒っていませんよ~。

 すごく、冷静ですよ~」


(((ぞくうっ……)))


「ケーキ屋で問題を起こした人、草原で私にはねられた人、一度にどうぞ」


「ボ、ボクも、べ、別に言い訳はありません。

 ごめんなさいーっ!」

「私が悪うございましたーっ!」


「いいのよ、いいの。 

 謝ってくれたしね。

 それほどひどい罰は、考えていませんよ~」


「ツ、ツブテさん、どうすれば許してもらえますか?」


「ヌンチ、いい質問ね。

 私はネチネチタイプじゃないし、軽~い罰で許してあげようと思ってるの」


「えっ、それで許してもらえるんですか?」


「ええ、ええ、そりゃもう許すわよ」


「ど、どんな罰を受ければいいんでしょう?」


「そうねえ、ちょうど、ここは板敷だし、座ってもらおうかしら」


「「「へっ?」」」


 全員が意外な顔をする。


「あのう、座るだけでいいんですか?」


「ええ、そうねえ。

 半日ぐらい座ってもらえたら、許そうかしら。

 夕食時には終わりそうね」


「そんなことでいいなら、座ります。

 座らせてください」


 ヌンチが、すがるような目で私を見る。


「いいですよ。

 でも、足の組み方は、私が指示します。

 途中でそれを崩した人は……覚悟してください」


(((ぞくうっ……)))


 私は、全員を正座の形にさせた。

 初めての正座、しかも板の間での正座だ。

 五分もしないうちに、全員の顔色が変わってきた。


「こ、これはっ!」

「あ、足がっ!」

「だ、だめだっ!」


 私は細工物の材料として利用しようと考えていた、細い茎植物の束を、マジックバッグから取りだした。

 束ねたそれで床を叩く。


 バシーンッ


「「「ひいっ!」」」


「まだ、始まったばかりですよ。

 お湯が沸く時間すらたっていません。

 ……ぐだぐだ泣き言を言うなっ!!」


 バシーンッ


「「「ひいいいっ!」」」


 こうして、おじさんたちの地獄が始まった。


 ◇


 一時間もたつと、全員の顔がまっ赤になる。


「「「うー……」」」


「やかましいっ!」


 バシーンッ


「「「(ひっ)」」」


 夕方になる頃には、全員の顔が紫色になっていた。


「「「……」」」


 すでに、うめき声さえ出せる者はいない。

 私は手を叩いた。


 パンパン


「さあ、最後の仕上げですよ~。

 動かないこと。

 動くと最初からですよ~」


 全員が力なく、コクコクと頷く。


「最後は、皆さんと一緒に楽しんだ、この方たちにご登場願いましょう」


 たった今、下から連れてきた、ポチ(カニ)たちをポーチから出した。


「さあ、それでは、皆さんの足の上に乗りましょうね」


 おじさんたちの後ろから、足の裏にカニを乗せていく。


「さあ、みんな。

 訓練で身に着けた最小出力を忘れず、そしてできるだけ長い間、維持するように。

 では、ビリビリ、始めッ!」


 おじさんたちは、飛びだすほど目を見開き、痺れた足の裏に流れる電流で全身をブルンブルン震わせている。


「まだまだーっ!

 根性入れろっ!

 ビリビリ魂、見せてやれっ!」


 ポチ(カニ)たち『『『ビリビリ魂って、何やねん!』』』 


「何か言いましたか、ポチ君」


 ポチ(カニ)たち『『『ひーっ!』』』  


 ◇


 その日の夕方、銭湯の二階を掃除するために上がってきた少女は、あまりの惨状に腰を抜かした。

 広い板の間には、紫色の顔色をした男たちが口から泡を吹いて横たわり、なぜか同じく泡を吹いたカニたちが、甲羅を下に動けなくなっていたのだ。


  この出来事は、その後、『銭湯泡吹き事件』と呼ばれ、『青い悪魔』の伝説として後世まで伝わることになる。  

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