第42話 残念美少女、風林火山を完成させる
何万という兵士たちを前に、私は、エリュシアス皇帝の鎧を背後からつかんだ。
私は、ダンジョンで手に入れた、滑りどめつきの不思議なグローブを手にはめている。
これからすることには、この道具が必要なのだ。
私は、大声で名乗りを上げた。
「宮本浩二が一子、ツブテ、参る。
尋常に、勝負!」
ポチ(カニ)たち『『『どう見ても、尋常じゃないからっ!』』』
こうして、一対数万の合戦が始まった。
◇
青く輝く自分の前に、エリュシアスをしっかり固定する。
私は、敵陣中央に向け、走りだす。
魔闘士レベル4で強化された身体能力は、二人分の質量を一瞬で軍隊の中央へ叩きつけた。
ゴッゴッゴッゴッゴッ
エリュシアスの鎧にぶつかった兵士の体が、おもちゃのように飛んでいく。
その兵士にぶつかった兵士が、また吹きとばされる。
私が通った跡には、まるで聖書に書かれたモーゼのエピソードみたいに、兵士の海を二つに割る道ができた。
冷静な何人かの兵士が、こちらに魔術を飛ばしてくるが、青い光に触れたそれは、一瞬でかき消えた。
私は向きを変え、兵士という名のオモチャを、再び縦横無尽に蹴散らしていく。
草原には、エリュシアスが着た鎧と兵士がぶつかる音、そして、悲鳴を上げ飛んでいく、兵士の声が響きわたる。
私は、さらに走るスピードを上げた。
「侵掠すること、火のごとく!」
ゴッゴッゴッゴッゴッ
ゴッゴッゴッゴッゴッ
ゴッゴッゴッゴッゴッ
立っている者が半分以下になった頃、やっと兵士たちが逃げはじめた。
「た、た、助けてくれーっ!」
「ひーっ、青い化け物だーっ!」
「ぎゃーっ、魔王が出たーっ!」
気を失い倒れている兵士を除き、全ての兵が、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
エリュシアスを足元に置く。
彼の鎧は、形がベコベコになっており、原形を留めていなかった。
中に入っている彼自身、ピクリとも動かない。
「動かざること山のごとし!」
私が、膝を少し曲げ、人差し指で足元のベコベコ鎧をさし、決め台詞を叫ぶ。
風林火山の完成だ。
ポチ(カニ)たち『『『動かざることの意味が違うからっ! しかも、ジョ〇ョ入りっ?』』』
こうして、キンベラ王城東部で繰りひろげられた合戦は、私とドンの勝利に終わった。気を失っている兵士たちから、金目のものを根こそぎ頂いたのは、言うまでもない。
ポチ(カニ)たち『『『むしろ、盗賊?』』』




