第39話 残念美少女、指名手配される
王城、玉座の間にある窓から外に飛びだした私たちは、タリランさんに報告してから、『アヒル亭』がある街まで帰った。
窓から部屋に入ると、早速、ドンにスキル鑑定を頼む。
「あ、魔闘士レベル4だって。
お姉ちゃん、凄いね」
私は、思わずドンの頭を撫でてやる。
全く、よくできた弟だぜ、ドンは。
「今度の呪文は何?」
「ええとね……」
『お食事にする? ご飯にする? それとも、あ・た・し♡』
「なんじゃ、そりゃ」
「だけど、お姉ちゃん、この呪文、詠唱するのが凄く難しいよ。
だって、『お食事にする?』と『ご飯にする?』の間に一拍おかなくちゃいけないし、『あ・た・し』の所でも、半拍ずつおかないといけないからね」
なるほど、さすが魔術の達人だけはある。
これは、練習が必要だな。
そのとき、ノックの音がした。
「はい、どなたですか?」
◇
入ってきたのは、おかみさんと、マイヤーンだった。
「ドン様~、寂しかった~」
ダメ妹属性と化したエルフは、ドンにしなだれかかっている。
「ツブテちゃん、あんた、何したんだい?
兵士風の人が、あんたを探してたよ。
頼むから、危険な事はやめておくれ」
「はい。
心配してくれてありがとう」
私は、二人に、王都で買ってきたお土産を渡した。ポンポコ印のケーキは買えなかったが、焼き菓子やプリンを買っておいたのだ。
彼女たちは、喜んでそれを食べていた。
◇
次の日、朝風呂に入った後、ドンと二人でギルドに行った。
久々に、討伐依頼でもしようかと思ったのだ。
掲示板の所で、ドンに依頼書を読んでもらっていると、入り口からグラントさんが飛びこんできた。
「お、おいっ!
てえへんだっ!」
慌てるグラントさんを尻目に、『赤い稲妻』のパーティメンバーは、落ちついたものだ。
「リーダー、あんたいつも、それだからなあ」
「そうそう、いつものことだから、大変じゃないよ」
「全くだ」
「いや、今回は、マジで大事だぜっ!
おっ、嬢ちゃん、ちょうどいたのか!
えらいことだぜ!」
えっ?
私?
「こ、これを見てくれっ!」
彼が手に持っているのは、羊皮紙のようなもので、誰かの顔が書いてある。
グラントさんが、何か唱えると、その顔が動きだした。
「私ハ、レイチェル姫ヨ!
ケーキ ダイスキ!」
目が吊り上がった黒髪の似顔絵の口が動くと、そんな音が出た。
「動画指名手配とは、国も本気だぜ。
嬢ちゃんも、黒髪だから気をつけな。
間違って狙われるかもしれねえ。
なんせ、賞金は、金貨百枚だぜ」
えっ!?
賞金、日本円で一億っ!
それはいいね。
討伐はやめて、賞金稼ぎやろう。
あれ?
でも、絵の似顔絵が、なにか言ってたわね。
……レイチェル。
……レイチェルっ!
もしかして、私の偽名?
「どうやら、こいつ、ケーキに物凄いこだわりがあるらしいぜ。
国中のケーキ屋は、賞金稼ぎで一杯だそうだぞ」
げっ!
ケーキ屋さんに、行けないじゃん、私。
どうしよう。
◇
ゴリラバッグに入れていた、フード付きローブを被り、銭湯に向かう。
当然、ドンにもフードを着させてある。むしろ、彼の方が目立つからね。
銭湯には沢山の人が来るから、あまり行かないほうがいいだろう。
そのため、業務連絡を済ませておくつもりだった。
あれ?
銭湯の前に、人が集まっている。
兵士風の男たちもいる。
「お姉ちゃん、前にケーキ屋さんの前で、お姉ちゃんが、やっつけた人たちがいるよ」
やばい!
これでは、銭湯に寄れない。
私たちは、銭湯の前を通り過ぎると、『アヒル亭』に向かった。
あと少しで、『アヒル亭』だという所で、帽子を目深にかぶった男が、私たちに近づいてきた。




