第27話 残念美少女、エルフをもてあそぶ
お風呂で、散々妹エルフを撫でまわした後、私は彼女からマッサージを受けていた。
ベッドに裸でうつ伏せになった私の上に、マイヤーンが馬乗りになっている。
「お姉さま、どうですか」
「うむ、妹よ、もう少し強く頼む」
「……分かりました」
マイヤーンに全身を隈なくマッサージさせた私は、いい気分になり、リビングに出てきた。
当のマイヤーンは疲れはて、私のベッドで寝てしまった。
冷蔵の魔道具箱から飲み物のビンを取りだし、ラッパ飲みする。
「ぷはーっ、うめえな、こりゃっ」
ポチ(カニ)たち『『『この人、おっさんだ!』』』
ドンはソファーに座り、湖を見ている。
「お姉ちゃん、お腹減った」
「おう、すぐに何か作ってやるから待っとけ」
調理場に立ったが、魔道調理具の使い方が分からない。
マイヤーンを起こしてもよかったのだが、もっと簡単な解決策を選んだ。
「そら、これがケーキだぞ」
「綺麗だね。
お花が付いてる」
「それも食べられるんだぞ。
これですくって食べてごらん」
「うん……うわっ、甘くておいしいね!」
「そうだろう、そうだろう」
こうして、私とドンは、マイヤーン家にあるケーキを全て食べつくした。
◇
「ケ、ケーキが、王都から取り寄せた、秘蔵のケーキが……」
翌朝、目を覚ましたマイヤーンが青くなっているが、お姉ちゃんとしては、そんな表情もまた見逃せない。
マイヤーンが作った朝食を食べた私は、いよいよ、彼女に鑑定してもらうことになった。
私とドン、マイヤーンが鑑定用の部屋に入る。
「ドン様は、お部屋から出ていてください」
「えーっ、ボクお姉ちゃんと離れたくないな~」
「わ、私が気になって鑑定魔術に集中できないんです」
マイヤーンが頬を染めている。
「ドン、少しだけリビングに居てくれる?」
「お姉ちゃんが言うなら、仕方ないね。
うん、分かった」
ドンが部屋から出ていくと、鑑定が始まった。
横になった私の上に、魔法陣が現われる。
それを目にしたマイヤーンが驚いた顔をした。
「ツ、ツブテ、いや、ツブテお姉さま、この前、鑑定してから、何をしたんです?」
「え?
特に何もしてないよ。
ダンジョンを一つクリアしたけど」
「魔闘士レベル3になっていますね。
ええと、呪文は、『いや~ん、こんなところでぇ♡』です」
なんじゃ、そりゃ。
「スキルの効果は?」
ちょっとワクワクして尋ねる。
「身体強化だけですね」
わずかでも期待した私がバカだった。
「でも、称号が付いてます。
ええと、『魔宮の覇者』と『魔人の主』ですね」
ははあ、ドンが魔人だから、そんな称号がついたんだね。
そうすると、ドンがいたダンジョンは魔宮っていうことになるのか。
その部分だけは、ギルドに報告しておこう。
「あと、昨日頼まれていたモノの鑑定ですが……」
マイヤーンは数枚の紙を取りだした。
「私の鑑定でも何か分からないものが、半数ほどありました。
これはアーティファクトの類でしょう。
特に、この鏡は逸品です」
預けていた箱からマイヤーが取りだしたのは、小さな赤い手鏡だった。
「こうして顔の前に持ってくると……」
マイヤーンは鏡を私に向けた。
それがピカリと光る。
「なんと、全身が映ります」
そこには、太った少女が全裸で映っていた。
「ぎゃーっ!」
私は飛びおきると、鏡も含め、預けていた箱の中身をゴリラバッグに突っこみ、部屋を走りでた。
「ドン、討伐行くわよ、討伐!」
「お姉ちゃん、いいよ。
でも、トウバツって何?」
「いいから、とにかくベランダに出て!」
「うん、分かった」
ドンがベランダに出る。
「じゃ、来た時のように私を抱えて、ギルドへ行って」
「うん!」
ドンはさっと私を抱えると、宙に飛びあがった。
「ドン様ーっ!」
マイヤーンの悲鳴が私たちを追ってきたが、ここは無視でいいだろう。
◇
マイヤーンは一目惚れの相手が消えた空を、しばらく呆然と眺めていたが、やっとノロノロと動きだした。
「な、なんで、こんな事に……」
ツブテが手にした鏡は、古代魔術王国のアーティファクトで、顔を写した者の全身を太った姿に変え映しだす。これは、当時、太っている女性が美しいとされており、太っていない女性は、自分の太った姿を鏡で眺め悦にいったという残念道具だ。
その由来は知らないマイヤーンだったが、ツブテに散々もてあそばれた意趣返しのつもりで、それを使ったのだ。ところが、そのために愛しのドンが去ってしまった。
「おのれ、ツブテめ。
ドン様は、私のモノ」
緑色の瞳に狂的な炎を燃やし、エルフの少女はつぶやくのだった。




