第26話 残念美少女、お姫様抱っこされる
「うわー、綺麗ねえ」
私はドンにお姫様抱っこされ、空に浮かんでいる。
足元には、森と青い水が広がっている。
水は私が最初にこの世界に現れた青沼だ。
「ドン、あなた、空に浮くだけでなくて、移動もできるの?」
「うん、お姉ちゃん、できるよ」
その時、あるアイデアが湧いた。
「じゃあ、あちらの方へ行ってもらえるかしら」
「うん、いいよー」
ドンに抱えられた私は、空中散歩を楽しみながら目的地へ向かった。
◇
ドンドン
「妹よ、お姉ちゃんが来たよー!」
鑑定師にして、妹属性エルフ、マイヤーンが住むログハウスの扉を叩いた。
「マイヤーン ハ イマ ルスデス」
ロボットのような声が、扉の向こうから聞こえる。
「ドン、この扉、開けられる?」
「簡単だよ」
ドンは私をお姫様抱っこしたまま、呪文を詠唱した。
魔法陣が扉に浮きあがる。
私が扉に軽く触れると、それは何の抵抗もなく開いた。
扉の向こうにいたマイヤーンが、驚いた顔をしている。
「ど、どういうことじゃ!?
レベル30の魔術師に、封鎖魔術を掛けてもろうたのに」
そこまでツンするとは、この後のデレが怖いわ、お姉ちゃん。
「妹よ、お姉ちゃんの頼みを聞いてもらえるかな?」
「もう金輪際、あんたの頼みなんて……」
マイヤーンが急に動かなくなる。
顔を見ると、目と口が大きく開き、頬がピンクに染まっている。
いいっ!
その表情、いいっ!
私の心に永遠の写メ、カシャリ。
ポチ(カニ)たち『『『この人、残念!』』』
「ツブテ、いや、ツブテ様、いや、ツブテお姉さま」
ほらっ、ツンデレ来たーっ!
それに、この娘、二回も言いなおしたわ。
愛いやつよのう。
「どうしたのじゃ、我が妹マイヤーンよ」
「こ、こ、こちらの方は、どなたでしょう」
上目遣いに、マイヤーンがちらちらとドンの方を見ている。
「最近知りあった、ドンだよ」
「ドン様……なんて素敵なお名前」
おいおい、このエルフ、瞳がハート形になってるよ。
ぐふふふ、心の写メに、永遠の一枚を……カシャリ。
ポチ(カニ)たち『『『やっぱり、残念!』』』
「お姉ちゃん、この人、誰?」
「ああ、ドン、こいつは私の妹だよ」
「ふーん、お姉ちゃんの妹かー」
「ツグミお姉さまの妹、マイヤーンでございます。
以後、お見知りおきを」
妹エルフが、初めて見せる優雅な礼をする。
いいね、いいね。
「マイヤーン、私の身体、また光ったんだよね。
鑑定してもらえる?」
「お姉ちゃん、鑑定って?」
ドンが尋ねる。
「ああ、スキルレベルや呪文を調べる魔術だね」
「あれ?
それなら、ボクができるよ。
簡単だよ、その魔術」
えっ!?
そうなの?
「妹よ、悪いが鑑定はしなくてよい。
さらばだ」
「お、お姉さまっ!
お待ちを、お待ちをーっ!」
マイヤーンが私の足にしがみつく。
「なんじゃ、妹」
「鑑定を、私に鑑定をさせてくださいっ」
「だが、お主のところで鑑定すると、金を取られるからのう」
「お金は要りません!
もう少し、もう少し、ここにいてください!」
おや、妹エルフの視線は、ドンに釘づけだな。
これは、あれですか? 落ちてますか?
落ちてますね。
ぐへへへ。
ポチ(カニ)たち『『『この人、怖ひ!』』』
「ふむ、どうしようかのう。
妹のくせに、態度悪いからのう」
「マイヤーンは、お姉さまの忠実な下僕です。
なんでも、お言いつけください」
「うーん、どうしようかのう」
「か、鑑定させていただけたら、私がお金を払います」
「うーん、旅で疲れてるから、喉が渇いたのう」
「お茶も、すぐにお出しします」
「お腹も、ちょっとすいてる気がする」
「すぐにお食事もご用意を!」
「お肌が、かさかさじゃ」
「お風呂のご用意を!」
「すこし眠気もあるのう」
「お泊りをっ!」
「そうじゃのう、お風呂とお泊りをお姉ちゃんと一緒してくれるなら、考えんでもないのう」
「もちろんです!」
ポチ(カニ)たち『『『お巡りさん、恋心につけこむ鬼畜がここに!』』』
こうして、私とドンはマイヤーンの家に滞在することになった。
作者「極悪!」
カニ『極悪ですね!』
ツブテ「誰が?」




