第９話 残念美少女、覚醒する
体重増加を気にして青くなった私は、再び教会にやってきた。
教会の入り口では、白ローブを着たコーティスさんが待っていてくれた。
「お帰りなさい、もう準備ができているわよ」
彼女は、私とヌンチを教会の中に招きいれると、ホール奥にある祭壇の前に私をひざまずかせた。
ヌンチは、信者用の椅子に座っている。
ホールの奥にある扉が開くと、金属製の洗面オケのようなものを両手に掲げた少女が入ってきた。彼女も白いローブを着ているから、それが教会の色なんだろう。
コーティスさんが、何か唱えると、水盤がうっすらと光った。
「それでは、『水盤の儀』をとりおこないます」
彼女はそう言うと、かなり長い言葉を唱えた。
「神樹の名において、この者に祝福を与えん。
ツブテ、汝の手を水盤にかざせ」
最後の所だけは、私にも分かった。
少女が持った水盤に手をかざす。
水盤が眩しいほど白く光った。
「おおっ！
この光はっ！」
コーティスさんが、感動している。
すうっと光が消えると、何か文字が浮かびあがった。
「えっ！？」
コーティスさんの顔が、感動から、驚き、そして落胆へと変わるのが分かった。
「光が強かったので、聖女様がご誕生になったかと思いました。
えーっとですね、ご職業は、まあ、『魔闘士』ってとこ」
どうして、人の職業を、そう投げやりに言うかな？
マトウシって何？
ハズレなの？
振りかると、ヌンチと目が合った。
彼は、気の毒そうな顔をしている。
えっ、私、可哀そうなの？
痛い子？
「では、ヌンチ、お布施を忘れないように」
コーティスさんは、そう言い残すと、そそくさと奥の扉に消えた。
水盤を掲げていた少女が、それを祭壇に置くと、ヌンチが彼女に何枚かの銀貨を渡した。
えっ？
この儀式って、何万円もするってこと？
「さあ、ツグミさん、立っていいですよ」
私が立ちあがると、ぽんぽんと背中を叩いてくる。
「がっかりしないで。
職業が全てではありませんよ」
「ヌンチ、私の職業について教えて」
「……『魔闘士』は、凄く珍しい職業ですよ」
えっ！？
レアなの？
いいじゃん。
「勇者や聖女と同じくらい珍しいと言われています」
おおっ、凄いぞ。
「ただ、珍しいだけで、最も役に立たない職業とも言われています」
「ど、どういうこと！？」
「魔術には、遠距離攻撃の他に身体強化というのがあって、自分の身体機能を一時的に高めることができます」
「それって、役に立つじゃん」
「えー、魔術師は誰でも身体強化の魔術が覚えられるんですが、魔闘士は、身体強化の魔術しか唱えられないんです」
「えっ！？
あんた、身体強化の魔術、唱えられるの？」
「もちろんですよ。
一番基本的な魔術ですからね」
「……とういことは？」
「ええ、魔闘士は、最も残念なレア職と言われています」
「げっ」
私、残念！？
作者「嬢ちゃん、残念がこれで済むと思うなんてケーキより甘いな」
ツブテ「ビクビクっ」
作者「次話は、しょっぱなから残念全開だぜー」
ツブテ「ひいっ！」
