プロローグ 大和撫子？ いえ、戦国武将です。
残念美少女、ツブテの世界へようこそ。
彼女があなたを異世界と笑いの世界へといざないます。
では、どうぞ。
「スキルクラッシュ」、「ポータルズ」を読まれた方は、面白さ倍増です。
夕日が校舎を赤く染めていた。
雨上がりの六月、高校の中庭は紫陽花が咲きみだれ、湿った植え込みの香りが体に巻きつくようだった。
ドンッ
サッカー部のエースであり、三年生の牧野が、私の顔をかすめるように校舎の壁に手をついた。
もう片方の手で、茶色に染めた自分の前髪を触りながら話しかけてくる。
「俺、中学二年の時からお前の事が、ずっと好きだったんだ」
壁に着いた腕を震わせながら、彼はそう言った。
「他に？」
「へっ？」
私の問いかけに、牧野が間抜けな声を出す。
「他に言いたいことは？」
「あ、ああ、俺はスラリとしたお前の体も、つぶらな黒い瞳も、桜貝のような唇も、長い黒髪も全部好きだよ」
「げっ！」
「えっ？」
「だから、『げっ！』って言ったのよ。
なに、あんた？
中学二年から？
その時、こっちは小六だぜ。
お前、ロリコンだろっ、いや、間違いなくそうだな」
「ど、どうしたの？」
「どうしたのも何も、あんたみたいなナンパ野郎、あたしが好きになるわけないじゃん」
「ね、熱でもあるの？」
牧野は、私の額に手を当てようとする。
私は、その動きに合わせてヤツを校舎の壁に叩きつける。
ドンっ
「ぐべっ！」
「誰が、お前なんかと付き合うか！
気色悪い！」
古武術で鍛えた私の掌底が、ヤツの頬をかすめて校舎にぶち当たる。
ドーン！
ベキン
あれ、これ、ヤバくね？
木造校舎の壁板が割れちゃってるぜ。
「ひ、ひいい」
震える牧野の足元に、水たまりが広がる。
こいつ、漏らしたな？
「では、牧野先輩、ごきげんよう」
私は、いつも通りの優雅な礼をすると、その場を離れかける。
「おいっ、お前らっ！
今の事、黙っとけ。
いいか、壁を壊したのは、牧野だぞ」
植え込みに向かって声を掛ける。
サッカー部の男子数人、あと牧野のファンクラブを自称する女子数人が、紫陽花の陰から、こちらを覗いているのは知っていた。
私は、気配が読めるのだ。
とりあえず、隠れているヤツらに釘を刺しておいたっていうこと。
「返事は？」
「「「ひ、ひゃいっ！」」」
数人のギャラリーが、腰を抜かしたようだが、イライラしている私にはどうでもよかった。
「では、皆さま、ごきげんよう」
彼らにも、丁寧に挨拶してその場を去った。
私、宮本ツブテ、十五歳の出来事だった。
いや～、ツブテちゃん、まさに残念ですねー。
