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サーマルガン

 ハルトの中間テストの結果は何とも言えないものだった。

 一応休みの日にナカワタセや友人数人を集めて何度か勉強会を試みたが、最初の一時間くらいは勉強するものの、いつの間にかゲームをやったりコンビニに出かけたりしてグダグダになり始め、最終的にはファミレスで適当に喋った後に解散という事になりがちだった為あまり効果は無かった。

 結果、学年の中で半分よりやや上の順位という何とも言えないポジションに収まる事となっている。

 テストの結果が返ってきた日の放課後、

「これでも昔は才能の塊なんて呼ばれて、中二くらいまではろくに勉強しなくても学年五位くらいはいけたんだがなぁ」

 と、今回の結果の一因となったファミレスの席で死んだ魚の様な目をしながらハルトは言った。

「赤点が無いだけマシだろ、俺は回答し終わった時に今回はいい点数取れそうだなとか思っていたにも関わらず英語二十四点だったぜ」

 と、ため息を吐きながらナカワタセも言う。

 二人の様子を見て

「あんなに今回のテスト頑張ろうとか息巻いていたのに、結局勉強しなかったの?」

 と、ナカワタセの対面に座っていたシライシが呆れた様に言った。彼女は今回のテストで学年十三位という結果であり、今彼女の隣に座っているトキ・ヨウコも順位や点数こそ三人には言わなかったが、そこまで悪くは無かったらしく、あまり気を落としていない。

「だけど、ナカワタセ君はともかくマツナガ君は家の手伝いがあってあまり時間が無かったんじゃない? この前聞いたけど工場の仕事手伝っているんでしょ?」

 そのトキが言った。しかし、ハルトはハンマーを回収しに行った日以外はここ最近絡繰人形に乗っておらず、やろうと思えばいくらでもできた筈である。

「いや、それにしても時間が全く無かった訳じゃない。過去の栄光ってのも厄介なもんだな、ノー勉でもいけるっていう根拠の無い自信がついちまう」

 ハルトは遠い目をしながらトキの問いに答えた。

 するとその時、ハルトの携帯電話が振動音を鳴らし始めた。今まで話していた内容が内容なだけに、振動音のブーッブーッという音が、クイズ番組で出演者が誤答した時の音の様に聞こえて彼は少し萎えたが、それでもかけてきた人物がショウゾウだった為絡繰人形関連のことかと思い、ほんの少しだけ期待を持ちながら電話に出た。

「ヤマカガシが直ったぞ、まぁ、修理といっても損傷が軽微だったからほぼ強化の為の改造と言った方が実態に近かったがな。それで、早速新しい機能の内の一つをテストをしてみたいんだが帰りは何時くらいになる?」

「分かりました、すぐ向かいます」

 ほぼ、間髪入れずに彼は答えた。

 すぐさま、伝票を持って立ち上がり、

「すまん、用事ができた。先に帰る」

 と言ってハルトはレジへと向かった。

 ハルトが早く帰る時、彼はそれまでの飲食代を全て奢っていくという光景にナカワタセとシライシは慣れていたが、初めて見るトキは悪い気がしたので、彼女は

「えっ、奢ってもらっていいの?」

 と席を立ったハルトに尋ねた。

「先に帰って何だか申し訳ないからな。だが、俺が帰った後に追加注文するんならその分は自分で払ってくれ」

 申し訳ないというのが一番の理由だったが、実際のところ彼にはもう一つの理由があった。

 彼はショウゾウから定期的にバイト代を貰っており、それは月額四十万というかなりの額だった。その額はこのファミレスの時給と比べてもかなり高く、彼も最初に貰った際はこんなに必要ないとショウゾウに言っていたが、話によるとこれでも適正価格よりは少し安いくらいらしいので今は素直に受け取っている。しかし、それにしても自分の為だけに使うのは後ろめたい額だった為、今はこうして友達が大勢いる際は糸目をつけず使うようにしている。

「すまんな、ハルト」

「いつも悪いね」

「ごちそうさま、マツナガ君」

 という声を聞きながらハルトはファミレスを後にした。


 工場に入ったハルトがまず見たものはグリーンパイソンだった。これも、今日戻ってきたものらしい。

 しかし、見たところショウゾウは工場内にいない。

 ハルトが叔父を探しに行こうとしていたところ、

「来たな、ヤマカガシは格納庫にしまってある。早速、自分で出してみな」

 と、背後から声をかけられた。振り返るとショウゾウがいた。

 ハルトは言われるがままグリーンパイソンへと乗り込み、起動させ、それを使って工場の天井に設置されているボタンを押した。

 彼は再び機体を停止させてコックピットから降りた。

 しばらくするとグリーンパイソンが地下へと下がっていく。

「毎回思うんっすけど、高性能機のセキュリティがあの天井のボタンってセキュリティとしては結構ザルじゃないっすか?」

「その対策になる機能も一つ付けておいた。出て来たら説明する」

 そんな事を話しているうちにヤマカガシが倉庫から上がってきた。見た目で以前と大きく変わったところは、腕にレティキュレートのレールガンの様な物が装着されている事だろう。

 完全にヤマカガシが上がりきったところでショウゾウは機体の説明を始めた。

「新しく追加した機能は今のところ二つある。サーマルガンと脱出機能だ」

「サーマルガンってのはその腕に付いている装置の事だ。レールガンの電磁誘導とはちょっと違ってこっちはプラズマの膨張を使って弾丸を射出する装置なんだが、正直結構危険な代物だ。全力で撃ったらヤマカガシの装甲にすら亀裂が入るだろうから、普段は威力をかなりセーブしてある。全力で撃つにはリミッター解除機能みたくコックピット内のボタンを押せばいいが、使いどころには気をつけてくれ」

「次に脱出機能だが、こっちがさっき言っていた対策ってやつだ。作動させればコックピットが機体から射出される。自分が使う時になったらシートの横のレバーを、他人に機体を奪われた時とかは携帯電話のアプリを使えば射出されるが、コックピットがどこに落ちるかは分からん。危なくなったからといって、むやみやたらに使ったら余計に状況が悪化するかもしれんからこっちも慎重に使ってくれ」

 一通りショウゾウの説明が終わったが、ハルトは『今のところ』という一言が気になった。

 まだ機能を追加するつもりなのだろうか。

 その旨を尋ねてみたところ、

「非常時に空を飛んで逃げられるように、スラスターをつけようかと思っているんだがそっちはまだ開発中だ。それと、さっき言い忘れたがサーマルガン用の大型コンデンサを積み込んだり、コックピットの射出機能を追加しているうちに機体から水中適正が無くなった。それも変化と言えば変化かもな」

 との事であった。

「今回はそのサーマルガンって装置のテストをすればいいんすか?」

「ああ、低威力で撃った時と高威力で撃った時の威力の差や電気の消費具合を確認したい」

 しかし、そんな法に触れそうであり、且つ、音が近所迷惑になりそうな物の性能を工場で確認する訳にはいかないので、二人はヤマカガシをトレーラーに乗せて山の中の練習場へと向かった。

 練習場には廃車となった自動車、絡繰人形のパーツ、巨大な岩などがあったので、持参していたヤマカガシの装甲の素材へと射撃する前に、試しにそちらを撃つ事になった。

 ハルトはまず、低威力モードでそれらのものへと弾を撃ち込んだ。

 結果として、自動車は半分ほど潰れたが、絡繰人形のパーツは僅かに凹むくらいであり、岩も貫通する事はなかった。以上のことから察するに低威力モードでの射撃はおそらく、普通車が事故を起こした時くらいの衝撃だろうという事が分かった。これは、国内で流通している低パワーの絡繰人形に当たれば転倒させる事ができる程の威力であり、消費電力もそれほどではないので、普通の絡繰人形相手なら使いやすいだろう。

 問題は高パワーの方だった。

 ハルトがサーマルガンの制限を解除して高威力モードで同じ的を射撃してみたところ、自動車は破裂したような形状で大破し、絡繰人形のパーツは簡単に貫通し、岩は粉々に砕け散った。

 最後に、ヤマカガシの装甲に使われている素材をセットし、そこに弾を撃ってみたところ貫通こそしなかったがヒビが入った。

 ハルトがサーマルガンの威力を目の当たりにして少し呆然としていると、

「データではなんとなく分かっていたが、実際に見るとまずいものを作ってしまった気がしてならないな…」

 という通信がトレーラーのショウゾウから彼に入った。さらにショウゾウは重ねて、

「しかし、レールガンってのはサーマルガンよりも高威力にする事ができるらしい。ヤマカガシの防御力強化も必要かもな」

 とも言った。

 先日戦ったレティキュレートは威力こそまだ然程のものではなかったが、そのレールガンを装備している。既に完成したと思われていたこのヤマカガシですら発展の余地があったため、グリーンパイソンを素体としているであろうあの機体も今後強化される事は充分に考えられるだろう。

(次に戦う事になったら果たして勝てるんだろうか…)

 一抹の不安がハルトの頭の中をよぎった。

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