VS盗賊団
翌日、ハルトのクラスでは再び埋蔵金の話題で盛り上がっていた。
しかし、話の内容は埋蔵金そのものではなく、それを掘ったという絡繰人形の話である。
「マツシマ・ゴンゾウって男が埋蔵金を潰したって話だぜ」
「勿体無いよね、金貨じゃなくて金の塊になっちゃったから結構価値が落ちるみたいだよ」
という話にハルトは少し耳が痛む思いがした。
さらに隣の席のナカワタセに
「そういえばお前の家も確か絡繰人形の整備を細々とやっているって話だったな。苗字も何となく似ているし何か心当たりがあるんじゃないか?」
と言われたためハルトは少しギクリとしたが、土日はヤマカガシだけでなくトレーラーにも偽装が施されていたためそう簡単にはバレるとは思えず、そもそも絡繰人形に乗る事ができない彼が現場にいるとは考え難い。
おそらく冗談だ、と少し安心したハルトは
「苗字が似ているだけで関係者ってすげぇな」
と微笑しながら言った。
その後一通り授業が終わり、帰ろうとしたところ急遽ショウゾウからハルトに電話がかかってきた。
「グリーンパイソンが盗まれた」
との事である。焦っているのか、かなり声が大きい。
周りに聞こえてしまう可能性を考慮し、ハルトは一度教室から出て、周りに誰もいないところへと移動してから詳しく話を聞く事にした。
「それで、いつ無くなっている事に気づいたんです?」
特別教室棟に移動したハルトは早速状況の確認を始めた。
この時、既に放課後なので特別教室棟の廊下の人通りは少ないが、それでも全くない訳ではなく、誰かが通りかかり話の内容を来てしまう可能性も否めないため電話しつつも周囲の警戒も同時に行なっている。
「昼過ぎだ、三十分くらい飯を食べに行っていて工場を開けていたんだが、その隙に持って行かれたみたいだ」
と、ショウゾウはかなり早口で答える。
「盗むならヤマカガシの方を選びそうですけど、盗まれたのは本当にグリーンパイソンなんですね?」
「昨日の腹癒せに盗んだのであれば、偽装していたから間違えて盗んだのかもしれんな、盗むとなれば迅速に行いたいだろうから機体の確認を念入りにしなかったんだろう」
「何か犯人の手がかりになるような物は残っていますか?」
「手がかりも何も発信機が付いている、奴は港へ向かったようだ。ヤマカガシは偽装を外していないもののすぐに動かせる状態だからそれを使って取り押さえるぞ、すぐに戻って来てくれ」
「…」
(発信機が付いていて犯人の潜伏先も分かっているのになぜ焦る必要がある…)
ハルトは溜息を吐くと早足に工場へと向かった。
ハルトが工場にたどり着くと、既にショウゾウは出発の準備を終えていた。
「ヤマカガシは荷台に積んである、早くコックピットに乗ってくれ」
と、トレーラーの運転席からハルトに声をかける。
「どうやってヤマカガシを出したんですか? あれ、もう一機絡繰人形が無いと倉庫から出せないようになっていたでしょう」
「何かあった時のために倉庫には直接行く事が出来るようになっているから出せないわけじゃない。ただ、いつもの方法の方が出撃までの時間を二十分程短縮出来るから、普段はあの手順を踏んでいるだけだ」
ショウゾウはハルトの質問に答えてくれたものの、かなり焦っており、
「他に聞きたい事があれば移動中に聞くから早くコックピットに乗ってくれ、連中はもう港に到着しているようだからいつ海外に持ち出されるか分からん」
と彼を急かした。
他にもいくつか聞きたい事はあったが、ハルトはトレーラーの荷台に乗り込み、ヤマカガシのコックピットハッチを開いて搭乗する。すると、スタートボタンを押した直後の機体が起動しきっていないタイミングでトレーラーが発進した。この時点ではまだ耐Gシステムは立ち上がっておらず、ハルトもベルトを締めている途中であったため、彼は勢いよく頭をぶつけた。
途中の信号待ちの際に、
「急いでいて運転が荒くなっているかもしれん、その機体を起動させていれば滅多な事では揺れを感じないはずだが気分が悪くなったりしてないか?」
とショウゾウがハルトに聞いた。彼は埋蔵金発掘イベントの際に乗り物酔いをしたハルトを一度見ているため、その事を気遣っての連絡なのだろう。
「工場を出る時の急発進で頭をぶつけましたよ。機体が立ち上がりきってない状況だったんでね」
少し嫌味ったらしくハルトが言うと、
「悪かった」
と、深刻そうなトーンの声がスピーカーから返ってきた。
(変な空気になりかけているな)
場の空気を暗くした事に少し責任を感じたハルトは、話題を切り替えて、
「話は変わりますがこの機体どれくらいの時間動いていられるんですか? 埋蔵金発掘の際は二時間くらい動かしていたにもかかわらず、まだバッテリー残量は結構残ってましたけど」
と、先程聞きそびれた事を尋ねてみた。
「その事なんだが、バッテリーの消費が他の機体よりも早い事がその機体の弱点だ。グリーンパイソンは十七時間は動けるが、そいつは六時間四十分程しか動けない」
「だけど、今回は能力が大幅に制限された市販品を一機取り戻すだけだから、その弱点もあんまり関係ないっすね」
「だが、海外に機体を売り飛ばすつもりなら俺のグリーンパイソンの他にもいくつか盗んできた絡繰人形があるかもしれん。無いとは思うが、一対十とかになったら流石に苦戦を強いられるだろうから油断はしない方がいいだろう」
確かに、埋蔵金イベントの時は追ってきた三機を振り切る事ができたが、それはヤマカガシの走行能力が優れていたというだけであり、仮にあの場で六機を相手に戦っていた場合、操縦技術が他の参加者に劣るハルトはもしかしたら負けていたかもしれない。しかも、今回はグリーンパイソンを出来るだけ破損させずに捕獲する必要がある。
そう考えるとこれから行う事がかなり難しく思えてきたため、ハルトは少し緊張感を強めた。
港に到着すると、盗まれたショウゾウのグリーンパイソンはかなり目立つ場所に座らされていた。
しかし、起動していないため通信することはできずコックピット内の様子は分からない。
(何かしらの罠じゃねぇのか?)
ハルトは咄嗟にそう思った。
グリーンパイソンの周囲には人影は確認できず、ヤマカガシのレーダーも他に動いている絡繰人形を捉えてはいないが、港の中なのでそれらを隠す場所などいくらでもある。
(俺が囮に引きつけられたのを確認すると、周りで待機している盗んだ犯人の仲間が一斉に絡繰人形を起動させて、束になってヤマカガシを取り押さえて強奪するって作戦だろうか?)
絡繰人形を密輸、密売しているであろう人間がこんな単純な作戦を企てているとは考え難いが、単純な作戦ほど上手くいくということも考えられる。
そこで、ハルトは周囲に怪しい絡繰人形があればそちらを叩き潰してからグリーンパイソンを回収しようと考えた。
が、周囲の調査を始めようとした途端に、
「ハズレをつかまされたと思って落胆していたが、飛んで火に入る夏の虫とはこの事よ」
と、グリーンパイソンから声が聞こえてきた。外部音声を使っているという事は誰か既に搭乗しているらしい。
(ただの囮として置かれているのであれば少しは楽だったが、これでは搭乗者を気絶させるために少し攻撃を加えなければダメだな。厄介な事になった)
そう思いつつハルトも外部音声で
「今すぐ降りて機体をこちらに渡せ、そうすれば怪我をせずに済むぜ」
と無駄だとは思うが警告する。
「確かにその機体の性能は国内で手に入れる事が出来る機体のそれを遥かに凌駕している。が、だからと言って貴様が優位に立てるとは限らないぞ。性能では負けていても数はこちらに分がある」
そう敵が言った直後、ヤマカガシのレーダーが周囲の絡繰人形を一気に捉え始めた。
奪われたグリーンパイソンを含め、全部で十三機である。
とりあえずグリーンパイソンに乗っている人物が今回の盗みの主犯格だと思われるので、ハルトはまずそれを無力化する事に決めた。リーダーを早めに倒して敵を有象無象の集団に変えてしまうという狙いである。
早速ハルトのヤマカガシは腰にマウントされているハンマーを手にとってグリーンパイソンのコクピット付近目掛けてそれを投擲した。コックピット付近に強い衝撃を与えて機体を揺さぶり、一撃でパイロットを気絶させるつもりである。
投げている途中ハルトは
(まさかコックピットが潰れたりしないだろうな)
などと敵を気遣うような事を思っていたが、少々認識が甘かった。
ハンマーは勢いよくグリーンパイソン目掛けて飛んでいったが、敵はその攻撃が来る事を既に察知していたらしく、機体の左腕を使って飛来するハンマーの軌道を逸らしたのである。
(ハンマーの他にももう一手打つべきだったな)
そう考え直し、ハルトはグリーンパイソンに蹴りを叩き込むべくヤマカガシをそちらの方向へと走らせるが、左右からいきなり飛び出してきた二機から逆に蹴りを入れられる事になった。
「こいつら、いつの間に…」
ハルトは苦言を吐いたが、相変わらずコックピットに揺れはなく、ヤマカガシも少しバランスを崩しはしたものの倒れはしない。
体勢を立て直した後、モニターを確認するとグリーンパイソン以外の十二機はハルトが気づかないうちにかなり接近していたらしく、今は全機目視出来る。
(あっという間に囲まれた、戦いってのはこうも短時間で状況が変化するものなのか…)
ハルトが少し焦っていると、
「状況は確認した、一旦右側に思いっきり走れ。囲まれてはいるが、そこは少し手薄だから上手くすれば突破出来るだろう。追いかけてきた機体とタイマンに持ち込むか、隠れながら不意打ちの機会を狙え」
と、ショウゾウから通信が入った。どうやらヤマカガシのカメラはトレーラーにも同じ映像を映しているらしい。
それを聞くなりハルトは、ヤマカガシを右へと方向転換させ一気に駆け出した。
右側には二機の黒い絡繰人形がおり、ヤマカガシの進行を阻止しようと走り寄ってきたので、ハルトのヤマカガシはそのうちの一機目掛けてドロップキックを繰り出して倒すとすぐに立ち上がり、そのままその場から全速力で離れた。
当然、ヤマカガシを囲んでいた絡繰人形達は逃げたヤマカガシを追いかけて来るが、元々の距離や、機体性能、操縦者の腕によって追いかけて来るスピードに差がつき始める。
ハルトは追いかけてきた機体が一機になったところで振り返って応戦し、他の機体が合流したら再度逃げたり隠れたりするという手法を使って戦った。本来、ヤマカガシの性能であれば、五機くらいなら同時に相手をしても勝てない事は無いが、いかんせんハルトにそれ程の技術が無いため一対一でなければ安心して戦えない。応戦する時間も一回三十秒程度と決め、なるべく相手に合流のための時間稼ぎをさせないような工夫もしている。
機体性能とその作戦が功を奏し、敵より腕が劣るハルトでも十三機のうち十機を無力化する事ができた。
が、後の三機が問題だった。
後の三機は盗まれたグリーンパイソンと、カウンターで蹴りを入れてきた二機である。
グリーンパイソンに搭乗している人物はグループのリーダーだと思われるため、その操縦の腕が優れている事は想像に難くなく、後の二機の搭乗者もハルトが今まで倒した十機の絡繰人形の操縦者よりもおそらく腕はかなり上である。
「腕利きの三機相手に戦う方法って何かないっすか?」
とりあえずハルトはショウゾウに尋ねてみるが、最初のカウンターキックを見る限りおそらく相手の腕はショウゾウよりも上であるため、有意義な回答が得られるとは思っていなかった。
「一応、リミッター解除ボタンを押せばその機体の性能を数倍上昇させる事ができる。それはかなりのエネルギーを使う機能だから使った後は一時間程度しか動けなくなる、ついでに使った後はいちいちオーバーホールして整備しなけりゃならなくなるが、最悪それを使え」
ショウゾウはそう言ったが、ハルトにはまだ扱えそうな代物では無い。
仕方なく、
「そんなんまだ使えそうに無いっすよ。それよりも取り巻き二機の機体の情報を教えてください。あれは、グリーンパイソンではなかったし、俺が倒した十機とも少し違った機体っすよね?」
と、質問を変えた。しかし、
「あれはリンガルスIIって機体で、お前がさっき倒したリンガルスの後継機だ。民間機ながらもパワーが高いが、最大の特徴は民間機では初めての水中で使える機体だというところだろうな。動力源もヤマカガシのようなバッテリーではなくディーゼルだったり、機体の中に海水槽が組み込まれていたりと潜水艦、潜水艇との共通点も多い。当然、潜水中の水圧に耐え得るようにかなり頑丈に作ってあるから、ひょっとしたらリーダーが乗っている俺のグリーンパイソンなんかよりも厄介かもしれない。殊更あの二機は密輸した物だろうからパワーも海外で販売されている物に準拠しているだろうな」
と、気落ちするような返答が返って来た。要するに強いということである。
「なんか勝てる気がしなくなってきたんですけど」
「高性能とはいえ民間機は民間機だ、対してヤマカガシは一応、名目上は競技用の絡繰人形だが、スピードもパワーもどちらかと言えば軍事用に近いから性能で負けることはないだろう。十機を相手にして何となくコツを掴んできたであろう今のお前なら案外大丈夫じゃないか? ただ、水の中には何が何でも落とされるな。ヤマカガシも一応水の中には入れるが、水中で自由自在に動ける向こうとは違って、入ったところで移動するだけが精一杯だ、とてもじゃないが水中では戦えん」
三機の事で頭が一杯で気づかなかったが、ショウゾウの言う通りハルトはリンガルスを先程十機倒している。さらに、性能は遥かにヤマカガシの方が上だという事でハルトは少し自信を取り戻した。
「まぁ、頑張ってみるか」
そう呟くと、ハルトは元の場所に戻るべくヤマカガシを進ませた。
モニターに表示されている三機の位置は最初の地点から動いていない。




