絶滅する毒蛇
後日、ヨルムンゴールドは解体された後、廃棄処分となる事が決定した。
しかし、自己再生する金属に、バリアを展開するという謎の機能、過剰なまでの威力を持ったレーザー等から金の匂いがしないわけがないので、あちこちから処分反対の声が上がっており、結果として半年後になっても森の中に放置されていた。
あの事件以降、警察機と予備隊の機体以外は禁止されてしまったため、何か別の利用目的があるのだろう。
ちなみにヤマカガシの存在は先の一件で色々と派手に動いてしまったのでバレてしまった。立ち入り調査などをされた折にはハルトは生きた心地がしなかったが、ショウゾウは
「以前お渡しした機体の改良型が出ましたのでサンプルが届いていたのですが、タイガーキールバックと違い国内での試運転が済んでおりませんでしたので、お渡しして良いものかどうか判断しかねておりました。犯行グループにこの新鋭機の到着が察知されていたのか襲撃を受けてしまったので、止むを得ずお渡しすべき機体を私が操縦して撃退した次第であります」
と嘘を交えながら誤魔化したので罪に問われる事はなかった。
リントヴルムの事についてもワンオフという性質上、関連するパーツが何も残っていなかったのでバレてはいない。
ただ、絡繰人形の所持が禁じられてしまったため、ショウゾウはヤマカガシを引き渡さざるを得なくなり、グリーンパイソンも国外に売却する事になってしまったため、工場の中は少し広くなってしまった。
「とうとう禁止になってしまいましたね……」
運ばれて行くヤマカガシを見ながらハルトはそう呟いた。
警察に運ばれて使用が継続されるとの事なので、海底に沈んでしまったリントヴルムや国外に流れてしまったグリーンパイソンと違いそれだけは身近に残る事になる。
故に見る事自体はいつでもできるが、もう自分がそれに乗る事はないと考えるとやはり寂しい気がした。
「まぁ、あんだけの事があればこうなっても仕方ないだろう……」
そう答えたショウゾウも寂しそうな顔はしているが、声色にはどこか安心した様子が反映されているようだった。
彼は十年以上も絡繰人形に関わってきているため、此度の禁止で気を落とさなかったわけではないが、ハルトが危険な事件に首を突っ込んで行く心配が無くなるという安心感も感じているのである。
ただ、ハルトも今後も絡繰人形に関わっていきたいと思っていたので、
「今後どうすりゃいいんすかね……」
と、気を落としている。
「絡繰人形に関わろうと思えば、いくらでも関わる方法はあるさ。関わりたいって気持ちがあれば教えてやってもいいが、もう少し自分で他に何がやりたいのかを探してみるのもいいかもしれないな。しばらくは自分で色々見てみることだ」
そう言われはしたが、特に興味がある事は思いつかなかったのでとりあえず周りに合わせて受験勉強などをやっていた。
ただ、進学にそれほど興味があるわけでもないので、自然、集中力は落ちる。
周囲に合わせて始めた事なので、それと接触を断たれた夏休みに入ってからは余計にやる気が無くなった。
(ダメだ、つまらない……)
そう考えて気分転換に工場へと赴く。
しかし、この時既にグリーンパイソンも売り払われているのでそれに搭載されていたシミュレーターも当然使えない。
その事を途中で思い出したので予定を変更して、あてもなく散歩にでも行く事にした。
特に行き先を決めていたわけではなく迷ったら途中でタクシーでも拾えばいいので知らないない道であろうと関係なく進んで行く。
そうして二、三時間あちこちを歩いているとちょっとした高台へとたどり着いた。
そこから少し離れた場所に放置されたヨルムンゴールドの残骸が見える。
「随分と遠くまで来たんだな……」
座りながら、それを眺めていると。
「やぁ、奇遇だね」
と彼は声をかけられた。
声のした方向を見てみるとシライシ・ユウリがそこにいた。
奇遇とは言ったが、彼がいこの場所はあまり人が訪れなさそうな場所である。
大方、街中でふらついている自分を見つけた彼女が暇つぶしに後をつけて来たというところだろうという予想はハルトにも出来た。
彼女は彼の横に来ると、放置された残骸を眺めた。
「まだ残っていたんだねアレ。しかも、破壊した筈の箇所が復活しているみたいだし」
「勝った筈の俺たちの機体はもう海の底に沈んでいるってのにな」
自然、絡繰人形の話になる。
二人は絡繰人形が規制されてからは休日お互いに会って共通の事をするということが無くなってしまったため、信頼関係こそ薄れてはいないが、以前よりも話す機会は減ってしまっている。故にこうして、休み中に会って絡繰人形の話をするというのは久々だった。
「あの後すぐに絡繰人形は規制されちゃったけど、あのシミュレーターだけでも残っていたりしない?」
「引取先があの機能を大層気に入ったらしく、あれがないと引き取らないって言うもんだから一緒に売り払ったってよ。もう一度作ろうにも、パーツがもう売っていないらしいから無理だそうだ」
「そうなんだ……。それじゃあ、私の青春の切れ端はもう完全に切れたままになったんだね……。まぁ、切れた分だけ新しいものをくっつける事は出来たけど。あんたの叔父さんとか、ムトウ君とか、敵だったとはいえあの四人もそうかな」
さらに彼女は重ねて、
「何よりもあんたとこれだけの信頼関係が築けるとは思わなかったよ」
と言った。
「その事なんだが、もう一度スポッターになってくれないか? 叔父さん曰く、他に興味が湧くものがなければアドバイスをくれるらしいんだ」
彼は気づいていないようだが、彼女はショウゾウがどんなアドバイスをするのかなんとなく気づいていた。
警察機はそのままトヨオカ達が継続して担当する筈であり、予備隊機に関しても高機動戦闘車とヘリで事が足りてしまうため、その運用は縮小して行くだろう。
故に、絡繰人形と関わり続けるには国外へと行くしかなくなる。
ショウゾウはおそらく関係のある企業からスカウトか何かを受けており、ハルトがその気になればそれに同行させようというのだろうが、周りに知らない人しかいない知らない土地でテストパイロットをさせていいものか悩んでいて言い出せないのだろう。
パイロットと改造の両方を齧っている上に、彼のことも知っている彼女がついていけば良い後押しになるかもしれない。
彼女は受験をする予定であったが、進学先を海外に変更すれば良いだけだ。
アーリーアクション方式もレギュラー方式もたぶんまだ間に合うだろう。
(まぁ、私も絡繰人形にはちょっと関わりたかったし丁度いいかもね)
本当はもっと別のものに関わり続けたいが故に協力する事を決意したのだが、散々理由付けをした所為もあってか、彼女自身自分の本意に気づかず、
「構わないよ、スナイパー君」
と答えた。
その後二人はアルバトロスに行き、そこで珈琲を喫した後、それぞれの家へと戻って行った。
帰宅した後、ハルトはショウゾウに他に興味が湧くものがないので絡繰人形関係の事を続けたいという旨を伝えた。
ショウゾウはハルトが戻って来る前にシライシから電話で先程の話を聞いており、その事によって安心する事ができたので、散々出し渋っていたアドバイスをし始めた。
その後時が経過し、ハルトの進路もシライシの進学先も確定したので、二人は高校卒業後異国へと向かって行った。
数年後、リントヴルムを少しデチューンしてコストを抑えた競技用の機体を三人は協力して開発した。
それは開発後十年ほどあらゆる競技で好成績を出し続けることとなる。
三人はそれを開発した人間としてジパングで一時的に取り上げられる事があったが、ジパングは既に絡繰人形を規制していたので話題が長く続く事はなく、それ以降ジパングで絡繰人形の話題が上がる事はほとんど無くなった。
ヤマカガシについてもカナヤ達が引き起こした事件以降、数年間犯罪に対抗するために警察に置かれていたが、絡繰人形絡みの事件ゼロ件が数年続いたのでひっそりと破棄されている。




