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悪 対 悪

「なぁユウリ、仮にこの機体でトヨオカさんの機体相手に戦ったら無傷で勝てたりするか? 俺は無理だ」

 ハルトはヨルムンゴールドと大破したタイガーキールバックの様子を見ながら、同じコックピットに乗っているシライシ・ユウリに問いかけた。

 先程、頑丈さが売りの一つである愛機の尾を斬り落とされたばかりなのでいささか彼には自信がない。

 相手にバリア等の破格の機能が搭載されている事は既に把握済みであるため余計に不安であろう。

 しかし、シライシは敵機の装甲に所々傷があることや、ショートしているパーツがあることを発見している。

「戦う前から気を落とさないでよ。それに敵は無傷じゃないみたいだよ、傷もあるし壊れている部分もある」

 彼女はそれらの傷が自動的に直り始めている事にも気がついていたがそれについては言っていない。

 それでも、ハルトの不安を少し払拭する事はできた。

 腕の良い彼女がポジティブな事を言うというだけで彼は安心できるのである。

 ただ、色々な光明を見いだし、操縦技術も卓越している彼女と言えども今回ばかりは余裕をぶっこいてはいられなかった。

 燃え盛る施設を見て目の前の機体の最大火力を推測することができたからだ。

(抵抗した様子が無さそうなところを見るに一撃でこの大火事を引き起こしたらしいな。どういう装置か知らないけど、これだけは当たらないようにしないと)

 操縦はハルトではあるが、火器担当の彼女もそう決意した。

 ただ、分析ばかりしていても何も始まらない。

 とりあえず、このまま滞空した状態だと的になる事は必至なので、ハルトはリントヴルムを急降下、急接近させて近接格闘を仕掛ける事にした。

 この機体のコックピットはヤマカガシほどの耐衝撃性がないので、激しい挙動をするとやたらと揺れる。

 畢竟、舌を噛み易くなるのだが、そういった状況を顧みず、

「ハルト、近接戦を仕掛けるなら土を蹴り上げて!」

 と、指示を出した。

 目眩しという意味合いもあるが、バリア展開の有無を確認するためである。

 急な要求ではあったが、ハルトは言われた通り土や瓦礫を敵機へとぶつけた。

 ヨルムンゴールドの防御力であればバリアなど張らずとも耐えることができ、多少土がついたくらいではカメラの視認性も落ちる事はないが、あくまで動かしているのは人間である。

 カナヤ・カケルもその例外ではなく、反射的にバリアを展開した。

 ヨルムンゴールドへと飛来した土や瓦礫はほとんどバリアに弾き返されるが、一部それを通り抜けて機体へと到達している。

 ハルトもシライシもそれを見逃してはいない。

 元々腕の良かった彼女はともかく、一年間でそこそこ場数を踏んだ事で彼も成長している。

「大腿骨辺りの障壁が完全じゃないみたい。そこを攻撃して!」

「分かっている」

 リントヴルムは間合いを詰める勢いを殺さないまま、敵機の腰部目掛けて突きを繰り出す。

 が、カナヤは機体を退かせつつ、その体勢を捻らせた。

(これで、障壁の端っこに剣が引っかかって躱せるはずだ)

 そう判断しての事だったが、剣が障壁の中に僅かに介在してきたため、完全に躱す事はできず、かすり傷を負った。

(なんて事だ、僅かとはいえバリアを貫通する程のパワーがあるとは……)

 障壁発生装置の故障がまだ直っておらず、エネルギーも溜まりきっていないとは言え機体性能ではヨルムンゴールドの方が依然上である。しかし、カナヤは不安に思った。

 対して、ハルトとシライシには希望が出てきた。

 考えてみれば今まで弾かれていたのは全て射撃武器であり、近接装備を用いてのバリアへの攻撃はこれが初めてである。

「バリアを貫通できるなら光っている装置を攻撃して。あれが多分バリアを発生させているから」

「分かった、しかし、ピンポイントで狙えるような技術が今の俺にはない。だから、俺なりに考えた方法で一旦敵の動きを止める」

 ハルトは機体を加速させた。

 左右に飛びながら接近して来るその動きに、カナヤはともかく兵装担当のタナカは対応できず、止むを得ず使ったレールガンも当たらない。

(これは何かあるな)

 そう警戒し、カナヤは機体を退かせて間合いを取ろうとした。

 しかし、見誤った。

 ハルトの考えた方法というのはシンプルこの上なかったのである。

 重量とスピードを乗せた重い一撃。

 その作戦というよりは力押しに近いものが彼の至った結論だった。パワーもスピードも彼の機体の方がやや劣っているにもかかわらずである。

 リントヴルムは退いてしまったヨルムンゴールドへと全力でラリアットをぶち込んだ。

 当然、若干勢いで押されているカナヤはバリアを展開して防ごうとする。

 確かに傷を負う事はなかったが、バリアを張っているとはいえ先程の斬撃とは違い今度の攻撃は衝撃を消しきれず後方に吹っ飛ばされた。

 しかし、一撃加えただけではすぐに体勢を立て直されてしまうだろう。そうなってしまっては、パワーはヨルムンゴールドの方がやや高いため千載一遇の勝機を失う。

 故にその後もニーキックやフロントキック、エルボーバット等を反撃の隙を与えない程の速さで連続で叩き込み、どんどん後方へと追いやっていく。

 とうとうヨルムンゴールドは未だ燃え盛る施設内の建物の残骸に足を取られすっ転んだ。

(転んだ相手に攻撃ってのも少々ズルい気がするが、謎の障壁に高火力なんてものを持っている向こうの方が元々ズルい筈だ)

 ハルトはそう自分に言い聞かせると、すかさずリントヴルムに剣を引き抜かせ、敵を突く体勢へと入る。

 今なら障壁発生装置などとケチなことを言わず、バリアを展開できなくなっている箇所から本体を突き刺し撃破することもできるかもしれない。

 その事がハルトをより急かさせたが、敵機は切り札をもう一つ持っている。

「待ってハルト! 敵機がこっちと向き合う形になってるから、もしかしたらレーザーの射線上に入っているかもしれない。少し下がってまずは脚を狙って!」

 既に長剣を振り下ろす途中だったが、シライシの声によって飛び退いた。

 ただ、少しタイミングが合わなかった。

 直後、施設を壊滅させた時程ではないがかなり巨大なレーザーがリントヴルムの上半身を通過した。

 火力でリントヴルムは吹っ飛ばされ、施設の外の森へと吹っ飛ばされた。

「すまねぇ、カケル。レーザーを撃っちまった」

 レーザーを発射したタナカは申し訳なさそうにカナヤへと告げた。

「いや、構わない。バリアじゃあ既にどうしようもなかった。しばらく攻撃にエネルギーを割く事は出来そうにないが、逆に言えば回復するための時間が稼げそうだ。タジマは自動修復装置の操作をしてくれ」

「分かったが、壊された障壁発生装置一角は直すには時間がかかるかもしれないぞ。修復にもエネルギーが必要みたいだからな」

 コックピット内でそのようなやりとりが行われた後、ヨルムンゴールドはその場に留まって発電と回復を始めた。

 この機体は現行のどの機体よりも多機能且つ高機能ではあるが、一度回復に徹してしまえば流石に無防備になる。

 故に現在は隙だらけだったが、リントヴルムが森から飛び出して攻撃して来るという事はなかった。

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