正義 対 悪
ヨルムンゴールドは地上に降りた。
無論、エネルギーが溜まり切るのを待つためであって、トヨオカのタイガーキールバックの相手などは主目的たり得ない。
タイガーキールバックを動けなくして、そのエネルギーを奪ったとしてもヨルムンゴールドにとっては微々たるものであり、そもそも機体の性能差も違いすぎるため相手としては不十分なためである。
最新鋭のジェット機とレシプロ機で競争をするようなものだろう。
トヨオカにもそれが何となく分かったが、それ故に彼の感に触った。
そのため、敵の襲撃を防げない事も増えていたせいでストレスが溜まっていた事もあってか、少し喧嘩腰に、
「もう、勝った気でいやがるな」
と、無意識にヨルムンゴールドに呼びかけていた。
ヨルムンゴールドは現代の絡繰人形とは違い、失われた技術がふんだんに使われている古代兵器なので、いくらトヨオカのタイガーキールバックが機体の解析を得意としているとはいえ、何かを発言して搭乗者を特定されるという事はない。
故に、
「当たり前のことだ。我々に負ける要素がどこにある」
などと言っても良さそうなものだったが、カナヤ、タナカ、タジマは誰も答えない。
彼等は既に外部スピーカーを遮断して、タイガーキールバックを倒した後の相談をし始めていたのである。
彼等にとって懸念すべき最大のものは艦船から飛んでくるミサイルや戦闘機等であった。
それらは数百キロ以上離れたところからヨルムンゴールドを攻撃できるため、機体のエネルギーが溜まり切らなければ迎撃できない。
そのため、トヨオカ機から奪ったエネルギーを合わせて、どれくらいの時間で再びフルパワーで動けるようになるかを確認する事が何よりの優先事項だった。
その相談をしている間、ヨルムンゴールドは動かない。
それを見てトヨオカは、
(不気味だな)
と、思った。
が、動かないとなれば好機であろう。
トヨオカ機はヨルムンゴールドに向けて発砲した。
弾丸は機体の頭部を目掛けて超音速で進んで行くが、見えない障壁によって防がれた。
(やはり効かないか……)
そう判断すると、左手に銃を持ち替えつつ即座に絡繰人形用の脇差を抜刀し、敵機に接近して行った。
以前の戦闘で射撃武器が効かないという事は把握済みであり、今再び効かない事が確認できたので、発砲を囮にしつつ近接格闘を主体に戦っていく算段である。
斬撃が有効なのはリントヴルムとヨルムンゴールドの戦いを見て確認済みであった。
一応、相手の攻撃に合わせて発砲すれば障壁に阻まれる事なく弾丸を命中させる事ができるという事も彼は知っていたが、そんな芸当をする自信は持ち合わせていない。
リントヴルムやアナザーキールバックなどよりはだいぶ遅いが、片足での踏み込み、腰の推進のさせ方などが、武術の達人のそれであり充分速い。
弾丸、そして間髪入れず放たれた斬撃がヨルムンゴールドを襲う。
弾丸は装甲に触れる事すらできなかった。
が、斬撃は直撃した。
ただ、装甲にかすり傷をつけたに過ぎない。
これでヨルムンゴールドを仕留めるにはあと百回以上まったく同じ箇所に傷をつける必要があるだろう。もっとも、このオーパーツには自動修復機能が搭載されているのだが。
(まさに歯が立たないとはこの事だな)
とても勝ち目はない。
トヨオカはそう思ったが、味方に機体の性能差をある程度であれば無視できる人間がいるカナヤ達はそうは思わなかった。
「強いな、この機体でなければ撃破は間逃れなかった。だが、レーザーを使ってしまっては本懐を遂げられない。他の火器に回すエネルギーも今は惜しい。ここはエネルギーを温存しつつ格闘技で戦わざるを得ないな」
「それなら俺はレーダーだけに集中しておくぜ」
「俺は自動修復だな。まぁ、これだけ頑丈なら必要だとは思わないが」
そのやりとりの後、反撃を開始した。
得物がないため、脇差の分だけリーチではトヨオカ機には及ばない。
しかし、現在のヨルムンゴールドにはサイドワインダーやリントヴルム以上のパワーとスピードがあるため、そんなものは関係なかった。
トヨオカ機はどうにか回避しつつ脇差で反撃を試みるが、機体を取り巻く装甲板、頭部のレドーム、終いには脇差を破壊されてしまった。
何発か機体自体にも攻撃を受けているため、タイガーキールバックは長くは保たないだろう。ただ、トヨオカは、
(拳打は有効打にならないから、もう銃しかない。だが、やりようはある)
と諦めていない。
無論根拠のない希望などではなく、防御障壁の発生源が何となく分かったという事が彼を奮い立たせていた。
注意深く観察しなければ分からないが、ヨルムンゴールドが防御障壁を展開する際に微かに光っているパーツがいくつかあったのである。
それらを全て破壊すれば防御障壁を無効化できるかもしれない。
トヨオカはそう考えてひたすら反撃のチャンスを待った。
すると、致命的な一撃を加えようとしたのか、あるタイミングでヨルムンゴールドの拳打が少し大振りになった。
(ここだ)
そう思うと、拳打が繰り出されるのとほぼ同時にトヨオカ機は防御障壁発生装置の一つを目掛けて発砲した。
ヨルムンゴールドの拳はトヨオカ機の左胸部に命中しそのまま易々と背部に突き抜けて行った。一応コックピットは無事であるが、それでもかなりの衝撃がそこに伝わった。
対して、トヨオカ機の放った弾丸は障壁に阻まれる事なく、見事狙った箇所を射抜いたため、ヨルムンゴールドは一部の方向に防御障壁を展開する事が出来なくなった。
あとは、障壁の欠けた部分から弾丸を浴びせ続ければいずれ倒せるのだろうが、トヨオカがいくら操縦桿を動かしても彼のタイガーキールバックは倒れたまま起き上がれない。
機体に穴が開いても奇跡的にどうにか動くのだが、かなりパワーダウンしている上に、左腕が先ほどの攻撃で動かなくなってしまったので起き上がるのにどうしても苦慮してしまうのである。
(ここまでか……せめてもう一撃だけでも)
そう思うと機体を起こす事を諦め、既にガタガタの右腕で先程開けた障壁の穴に向けて銃口を向けた。
ただ、ヨルムンゴールドは障壁展開装置を一箇所壊されただけで、他はいたって無事である。
そのため、トヨオカ機の右腕を踏み潰して破壊してしまった。
これで、カナヤ達は心置きなくトヨオカのタイガーキールバックのエネルギーを奪う事ができるようになった。
が、彼らはそうはせずに上空への警戒を強めた。
戦闘機が来たからではない。
いつの間に来たのか、黒い竜のような機体が彼らの頭上で滞空していたからである。




