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工場への襲撃

 警察予備隊の施設が襲撃された後、避難勧告が出されてもマツナガ・ショウゾウは自身の工場にいた。

 彼の工場は過去に泥棒に侵入されて絡繰人形を盗まれかかった事がある。

 故に、混乱に乗じて盗みに入られないための対策であった。

 とりわけ、工場の地下にはリントヴルムと、強化外骨格のような装備によって当時よりもはるかに戦闘向きになったヤマカガシが格納されている。

 それらが盗まれてしまえばさらに被害を広げる事になりかねない。

「杞憂に終わればいいがな……」

 と、グリーンパイソンの操縦席で彼は呟く。

 生憎ハルトは友人の家に泊まりに行っており、シライシは元々ここからやや離れた地域に住んでいるため、仮に襲撃を受けたならば彼が一人で対処しなければならないが、彼には少々自信が無かった。

 人が何も持たずに侵入して来た場合は絡繰人形を起動させて追い返せばいいが、問題は絡繰人形を使って襲撃して来た場合である。

 ここ最近現れる敵は、現在警察予備隊の施設を攻撃している機体を含めて彼の想像を容易に超えてくる。

 自然、

(俺では勝てないのではないか?)

 と思わざるを得なかった。

 が、とうとうその時が来てしまった。

 グリーンパイソンのコックピット内に敵機が接近して来た事を知らせるアラートが響き渡ったのである。

 モニターを確認してみると、かなりの速さで接近してくる機体が一機ある。もしかしたらヤマカガシ以上のスピードかもしれない。

 このスピードだと、ここに到着するまで五分とかからないだろう。

 当然グリーンパイソンでは太刀打ちできない。

「まさかろくなテストもしないままあれを出す羽目になろうとはな……」

 そう言いながら操縦桿を動かし、工場の天井に設置されている小さなボタンをグリーンパイソンのマニュピレーターでタッチした。

 直後、ショウゾウはコックピットから急いで降りる。

 すると、グリーンパイソンは地下に降りて行き、代わりにオリーブドラブカラーのヤマカガシが地下から上がって来た。

 この絡繰人形は外付けのパーツを追加した事により防御力が飛躍的に増し、リミッター解除時でも自身の攻撃の反動で壊れるという事が無くなっているが、排熱がしにくくなったのでそこまで長時間戦う事はできない上に先代のヤマカガシのように武器や飛行機能は持っていないという欠点があった。

 ショウゾウがその機体に乗り込むと同時に、工場の壁が突き破られた。

 ヤマカガシを起動させて壁に開いた穴の方を確認してみると、タイガーキールバックに似た機体がそこにいた。

 ただ、機体から発せられる音が違うので、何か手が加えられているのだろう。

「いよいよ、厄介だな……」

 ショウゾウはハルトに異変があった事を伝えるべく電話をかけた。しかし、話している時間はなさそうなのでワン切りして切羽詰まった状態である事を暗に匂わせるだけのことしかできなかった。

 直後、早々にヤマカガシのリミッターを解除し、その機体に接近して行った。


 リミッターを外したヤマカガシは戦闘用の機体以上のパワーとスピードが発揮できる。

 そのスピードを以って敵機、アナザーキールバックを殴りにかかったが、いとも簡単に後ろに飛んで躱された。

 さらに敵機は躱すと同時に長剣を抜刀している。

 直後、アナザーキールバックは地面を蹴って推進し、その長剣でヤマカガシの腰に当たる箇所に斬撃を加えた。

 ヤマカガシはただでさえ頑丈な機体である上に、現在はなかなか重装甲になっているため斬撃では然程のダメージを受けなかったが、直後に繰り出された蹴りは流石に重くて受け切れず、転倒させられた。

 アナザーキールバックはスピードを底上げした分、自身の攻撃の反動によって自壊しないようにパワーがやや抑えられているが、重量をかけ方によって攻撃の威力を増す事は可能である。

 ショウゾウはすぐさま機体の脚部を旋回させて足払いをし、敵機が近づきかねている隙に自機を起こすが、アナザーキールバックに搭乗しているイサミ・カノンには、今のような攻撃が有効であるという事がバレてしまった。

 その後の戦いは一方的で、ショウゾウがどんな攻撃を繰り出してもイサミはそれを長剣で絡め取られるなどしてあしらった。

 逆にイサミからの攻撃は追加装甲の薄い箇所を狙って剣を突いたり、近くに停められていた軽トラを蹴り飛ばしてぶつける等して彼を怯ませたところに機体の重量をかけた格闘技で攻め立てるなど次第にバリエーションに富んできた。

 結果、ショウゾウのヤマカガシは彼が予想していた以上のダメージを受けてしまった事によって追加装甲の至る所が変形して、機体の可動範囲が殆ど無くなってしまったと言っていいほど狭まってしまった。

 まともに戦うには装甲のパージが必要だろうが、それには一度この機体から降りてグリーンパイソンを起動させ、それを使って剥ぎ取るしかない。当然それだけの時間を敵が恵んでくれる訳がなかった。

 一応、この状態で無理矢理動かすことが出来ないでもない。

 リミッター解除には段階があり、今までハルトやショウゾウが使っていたのは、普段余裕を持たせて回しているモーターを理論値で回す安全水域での解除である。それを危険水域にまで上げて使えばリントヴルムの三割増し程のパワーを発揮できるという目算なので、無理矢理可動させることもできるかもしれない。ただ、機体が大爆発する可能性が高く、仮に爆発しなかったとしても申し訳程度についていた排熱機能も潰されてしまったため、発動後数秒でオーバーヒートしてしまうだろう。

(まさか、ここまで強いとは……)

 ショウゾウは既に勝負を諦め始めていた。

 ここから唯一逆転し得る手といえば、向こうのコックピットの機器類にクラッキングを仕掛ける事くらいだが、今から準備し始めても向こうが彼を倒す方が早いだろう。

 彼がどうすべきか思案していると、アナザーキールバックはそのスピードを以って間合いを詰めて来て、既に歩行も困難な程でボコボコになっている彼の機体を蹴倒した。

 この攻撃によってメインジェネレーターやコックピット等がある背部を晒す事になってしまったが、いかんせん両脚部がうまく動かない上に、両腕も固まってしまっているという状態ではどうしようもない。

 イサミはカナヤ・カケルからこの工場の壊滅という趣旨の指示を受けているため、容赦無く長剣をコックピット目掛けて振り下ろして来た。

 が、現在のヤマカガシは先代とは違い、脱出機能がオミットされているためショウゾウは逃げる事もできない。追加装甲は既にボロボロなので何発か耐えることはできても数分後にはコックピットは潰されてしまうだろう。

(ここまでか……)

 彼が冷や汗を大量にかいて焦っていると、工場の方から何かが凄まじい勢いで飛来してアナザーキールバックにぶつかった。

 その衝撃でアナザーキールバックの右腕は破壊され、剣も落としている。

 ヤマカガシのカメラは地面を向いていたため、その様子はよく見えなかったが、彼には何が起こったのかすぐに判断できた。

 リントヴルムが出て来たのである。

 直後、

「無事ですか? 叔父さん」

 と、それに乗っているハルトからヤマカガシに通信が入る。

「俺はなんとか無事だが、工場は見ての通りだし、せっかく作り直したヤマカガシもこのザマだ」

「俺がなんとかします。叔父さんは避難していてください」

 そう通信を入れた後、ハルトはリントヴルムの長剣を使って潰れた装甲の一部を切開してくれたので、ショウゾウはヤマカガシから脱出してトレーラーへと乗り込んだ。

 ただ、避難場所に行くために乗ったのではなくハルトのサポートをするためである。

 それでも、これでショウゾウはいつでも逃げる事ができるようにはなったのでハルトは少し安心した。

 彼の心の準備が完了するのを見計らったかのように、アナザーキールバックの外部スピーカーから

「待っていましたよ、一対一で戦えるこの時を」

 という声が辺りに響く。

「ん? あんたの機体見覚えがあるな。前はこの機体を見た途端尻尾を巻いて逃げた記憶があるんだが、今回は逃げなくていいのか?」

 と、ハルトも外部スピーカーで返す。

 彼は目の前にいる機体の実力をある程度知っている上に、現在シライシがいないため、正直なところ戦いたくはない。

 逃げるよう遠回しに催促しているのもそのためである。

 が、

「前回は一対多数の戦いの後でしたし、この機体は破損したら修理ができない機体なので逃げましたが、今、私のボスは勝っても負けても終わりの戦いをしているので、それに付き従う私もそのつもりで戦いますよ」

 とのことであった。

 そういうことであれば、アナザーキールバックが撤退する可能性というのは著しく低いだろう。

 ハルトは仕方なく、

「今の言葉、少し訂正が必要みたいだぞ。『勝っても負けても』ではなく、『負けて終わり』にすべきだろう」

 と煽り気味に言った。

 直後、リントヴルムは長剣を構えて敵機へと突撃して行く。


 リントヴルムはリミッターを外したヤマカガシを一方的に蹂躙するほどの機体であり、当然ヤマカガシより多少強い程度のアナザーキールバックでは性能的には相手にならない。

 ちょっと改造したスポーツカーを使ってフォーミュラカーとオーバルコースを競争するようなものだろう。

 ただ、現在のリントヴルムには砲撃手がおらず尻尾のレーザー発生装置と肩のレールガンがデッドウェイトとなってしまっている。

 使える武器は長剣とマニュピレーターの爪だけと言っていいだろう。

 リントヴルムはその長剣を振りかざしてアナザーキールバックに斬りかかる。

(速い、普通には躱せないな)

 そう判断したイサミは後方に飛ぶでも、横に飛ぶでもなくアナザーキールバックをリントヴルムの方へと推進させた。

 剣というものは柄に近づく程切れ味が悪くなり、且つ当たってもダメージが軽くなりがちだが、それは絡繰人形用に拵えられた剣でも基本的には変わらない。

 イサミはそれを知っていて懐に飛び込んだのである。

 彼女の思惑通り、リントヴルムの斬撃は柄が敵機に引っかかって振り切れずに終わった。

 一応、凄まじくパワーのある機体なので柄が当たった頭部を叩き潰す事には成功したが、敵機は沈黙に至らず、リントヴルム側には一瞬隙ができてしまった。

 イサミはその隙を逃さず、アナザーキールバックの切られた右腕以外の四肢を全て使って、関節を破壊する事を主旨に置きながらリントヴルムへと攻撃を加え始めた。

 が、どんな攻撃を繰り出してもリントヴルムにはさほど効かない。

 関節を断ち切るにはあと数十回はまったく同じ箇所に斬撃を加える必要があるだろう。

 かと言って、関節以外の箇所への攻撃は仰け反りすらしないので無意味でしかない。

 イサミは、

(これは想定外だな。ここまで頑丈だったなんて)

 と少し焦ったが、逆にハルトは

(これは勝てる)

 と確信した。

 ただ、剣は先ほどの攻撃で完全ではないにせよ対策される事が分かったので、それは一旦納めてステゴロで戦う事にした。

 リントヴルムはまず蹴りを放ち、それをわざと敵機に回避させると回避した方向へとスラスターを使って推進して行きラリアットを食らわせた。

 凄まじいスピードだった為、イサミが対応できてもアナザーキールバックが対応できず、彼女の機体はそれをもろに受けた。

 アナザーキールバックは胴体が半分程潰れ、右足の関節が逆に曲がり、後方に勢いよく吹っ飛ばされたが機能停止には至らない。乗っていたイサミもなんとか無事である。

 そこでハルトは追撃を仕掛け、倒れている敵機の脚部にギロチンドロップを食らわせた。

(負ける。ただ、このまま負けるものか)

 そう思ったイサミは無事な方の脚を旋回させてそれを躱してリントヴルムの尾に蹴りを叩き込んだ。

 尾は構造上他の箇所より脆くならざるを得ない。

 故に、それは叩き壊されはしたが、アナザーキールバックも右足が完全に分断された為動けなくなった。

「降りて来い。あんたはもうどうする事も出来ないはずだ」

 そうスピーカーを使ってハルトが呼びかけると、イサミ・カノンは降参して機体から出てきた。

 彼女はとりあえずショウゾウがトレーラーへと連れて行き、彼がそこで色々と質問をしたが、

「私から話す事は特に何もありませんよ」

 と言って頑なに仲間を売らない。

 ショウゾウは仕方なく彼女を監視しつつ、ハルトにリントヴルムが充電をするように伝えた。

 本来であればこの機体の充電は一晩かかるのだが、今回は十五分程で肩がついたので一時間半程で再びフルで動く事ができるようになる。

 ハルトは機体をトレーラーの荷台に乗せて充電を開始した後、トレーラーヘッドにいる二人の様子を見に行った。

 トレーラーには鍵が刺さっており、さらに窓も開いた状態だが、彼女が逃げ出す様子はない。ここで、トレーラーとリントヴルムを強奪して、カナヤ達と合流するという選択肢を取ってもよさそうなものだったが、彼女にはそんな気はさらさらなかった。

 彼女のしたかった戦いは先程、自分が敗者になるという形で決着がついており、負けた自分が勝者の機体を奪って、彼女自身の戦いではない戦いに赴くという事は、たとえ味方の助けになることであってもしようとは思わなかったのである。

 それはハルトも、

(勝っても負けても終わりの戦いって言ってたが、動かないところを見るとこの人の戦いは終わったのかもしれないな……)

 と、なんとなく感じ取っていた。

 すると、似たようなことを考えていたからか、ハルトとイサミの目が合った。

 彼女はショウゾウの話には「特に答える事はない」の一点張りだったが、外にいたハルトには、

「今、向こうにいる機体と戦うつもりならやめておいた方がいいよ。正義を志すのも結構だけどね」

 と、別のことを話しかけてきた。

 彼女が言っている事も一理あるだろう。

 それを裏付けるかのごとく、現在ヨルムンゴールドと交戦中の警察機が劣勢であるという情報をショウゾウがキャッチした。出動回数が増える毎に腕を上げていっているトヨオカを苦戦させる程なので本当に危険な相手なのだろう。

 ただ、イサミの言葉はハルトにとって違和感があるものだったので、

「俺のどこが正義だよ。正義は俺の知り合いであって、俺はあんたの仲間とはまた別の悪だ。邪魔だから叩きに行くってのが一番近い」

 とやや早口で返した。

 その後、しばらく経ってシライシ・ユウリが工場へと到着したので、ハルトが先程の戦闘の事を説明すると、

「私も参加したかったな……」

 と彼女はやや不満気であった。

 ただ、まだ本丸が残っている。

 充電し始めて少し経った後にリントヴルムはその本丸の機体を倒すべく、警察予備隊の施設へ向けて飛び立って行った。

 これだけの性能を持った機体なので普段であれば特に心配することはなかったが、今回は警察機に助力するため必要最低限の充電しかしていない。

 それに加えて、今回の機体は規格外の機体であるという話なので、ハルトは一抹の不安を感じていた。

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