進路
冬休み直前になってハルトは重要なことに気がついた。
一応、周りの様子を見て受験勉強なるものをしてはいるが、彼は今後の進路について特に何も考えていなかったのである。
数ヶ月前に進路希望調査なるものが行われた覚えが微かにあるが、彼は既に自分が何と書いたかすら覚えていないという具合だった。
一応、絡繰人形の操縦は続けていきたいという思いはあるが、ジパングでの絡繰人形需要を考えると職業にするのは難しいだろう。彼の叔父のショウゾウも絡繰人形の開発に携わっているがあくまで副業としてやっており、その主な取引先は外国である。
かと言って他にやりたいことがあるわけでもない。
ただ、漠然と
(どこか適当な大学へ進学しておいた方がいいだろうか)
という考えがあるだけだった。
自分では考えがまとまらなかったためナカワタセに相談してみたところ、
「俺はここの近くのそこまで必死にならなくても行ける学校へ進学するよ」
とのことであった。
ただ、彼と同じくナカワタセも大学卒業後の明確な方向性についてはまだ決まっていないらしかったのであまり参考にはならないだろう。
そこで、シライシに尋ねてみたところ、
「自分で考えなさいよ」
と、流されてしまった。
ややドライな対応だったが、機嫌が悪いわけではないらしく声色は怒気を含んでいない。
ただ、やや疲れた表情をしているので、彼女も進学希望であり現在勉強中なのであろうという事はハルトにも何となく分かった。
友人二人が進学希望であり、自身もぼんやりと進学を考えていたのでとりあえず近くの学校へ見学に行ってみることにした。
ただ、基本的に夏で終了するオープンキャンパスではなくあくまで見学なので、誰かと一緒に行かなければ気まずいと思いその二人を誘ってみたところナカワタセは
「推薦を使うから評点を上げないといけない」
ということで冬休み中は勉強に専念するらしく、シライシは
「ヨウコに似たような事を頼まれていてそっちに出ないといけないんだよね」
とのことだった。
他にも何人か当たってみたところ、
「進学をする予定はないけれど行っても構わないよ」
とムトウが言ってくれたため、ハルトは彼と同行することになった。
当日の朝、二人は喫茶店で待ち合わせをするとすぐに電車に乗った。
この日は土曜日だからか、車内はやや空いている。
同じ学校に通う学生もいない。
そのためハルトは思い切って、
「そう言えば進学しない理由って何なんだ? 大抵の奴が俺みたいに勉強したいことがあるわけでもないのに、ただ何となく進学するイメージがあるんだが」
とムトウに尋ねてみた。
すると、
「ああ、今まで稼いだバイト代でしばらく世界を見て回ろうかと思ってね……」
と、ムトウは自身の考えをし話し始めた。
彼は人口減や労働の価値の低下等によって就活においての学歴至上というものは長くは持たないと睨んでいるらしく、そもそも最近では法人そのものを凶器にした斬新な暴行・殺人などに遭遇する確率が高くなっているので人の下について仕事をするつもりなどさらさらない。
故に、進学はしてもしなくてもどっちでもいいと考えているとの事であった。
それならば、その数年間でジパングにあって他国にないものを自身で調査して流行りそうなアイディアが湧けばそこで開業し、その後人脈の開拓などで必要になれば、その事業で稼いだ金で学校に通えばいいだろうという趣旨である。
「まぁ、上手くいくかどうかは分からないけどね。何か事業を起こしても、金持ったジジイにアイディアをパクられでもしたら、展開力で負けて終わりだろうし」
と、彼は説明を終えた。
やや説明が長引いたからか、丁度電車が降車駅で到着したところである。
「これから見学に行こうとしてんのにお前の話を聞いたからか、何だか行くのが億劫になってきたな……」
「ごめん、配慮に欠けていた。お詫びと言っては何だけど帰りに何か奢るよ」
とやりとりをした後、二人は電車を降りた。
休日故、大学内の人通りは少なかった。
そのため動きやすいというメリットはあったが雰囲気を掴むにはあまり適さず、特殊な散歩のようになってしまった。
それでも、ムトウには得るものがあったらしく、
「これ、大教室なら勝手に講義を受けてもバレないんじゃ……」
「宗教の勧誘があるのか……」
などと頻繁に呟いていた。
対してハルトは特に何も考えないまま校内を見て回っていたが、サークルの張り紙の前で足を止めた。
絡繰人形のサークルがあるらしい。
(ひょっとして、今まで遭遇した絡繰人形の搭乗者の中にはここ出身の奴もいるんだろうか……)
ふと、彼はそう思った。
思えば彼は絡繰人形絡みのイベントや事件に首を突っ込む事が多いからか、結構な数の絡繰人形に遭遇している。
自分の叔父、トヨオカとオサベ、埋蔵金発掘イベントで親切にしてくれた人、チョコメロディと思い出していくうちに、
(あの三人組がここ出身の人間って事はないだろうか?)
という考えが頭を過ぎった。
この学校は自分たちの住む町からさほど離れていない上に、絡繰人形を扱うサークルはそこそこ珍しいので、ここのOBだったとしてもおかしくない。
少し気になったが、
「何してるんだ?」
と、ムトウに言われたのでハルトはそこを後にした。
後ろ髪引かれる思いもあったはあったが、
(トヨオカさんがとっくに調べているか)
と、無理矢理納得した。
以降も色々と見て回るが、特に気になる物は無かったのでそのまま二人は大学を後にした。
帰りに喫茶店に寄り、
「どうだった? 何か得るものはあった?」
とハルトはムトウに質問されたが、正直ピンと来ない。
一応、絡繰人形のサークルのは少し関心が湧いたが、現時点で既に戦闘までこなしている彼にとっては退屈になりそうだとも思ったので、
「いや、まだ分からないな」
としか言いようがなかった。
「そうか、あまり時間がないとは言え、まだ数ヶ月ある訳だからもう少しじっくり考えてもいいかもね」
「しかし、数ヶ月ってすぐに過ぎていくぞ。そう簡単に決まるだろうか……」
「まぁ、普段は基本的に学校に行く以外の事をしていないのに、やりたい事や行きたい学部を探せってのもなかなか難しい話だよね。とりあえず、図書館にでも行ってみたら? 外界の事や自分のやりたい事を知るには役立つかもしれないよ」
「ありがとうな、参考にする」
その後、コーヒーを飲み終えた二人は帰路に着いた。
この日の支払いはムトウだった。




