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各陣営の日常

 不法なパーツは輸入されてくる絡繰人形の装甲の裏などに隠されている事が多かったが、タイガーキールバックのレドームはそれを探知する事が出来たので、今までトヨオカ達はその機能を使って捜査をしていた。

 しかし、彼の機体はレドームを破壊されてしまったため、それが届くまでの間は正確な探査をする事ができなくなってしまった。

 その隙をついてカナヤはヨルムンゴールドの整備に使えそうなパーツを取り寄せた。

 ちなみにショウゾウもパーツの密輸を考えたが、それ以前に絡繰人形の改造には重機のパーツなどが代用できる事を見出していたので、計画していたヤマカガシに装着する強化外骨格のような装備はなるべくそれを駆使して作成する事に決めていた。故に輸入によるパーツの入手は、警察機のレドームを取り寄せる際に、同時にタイガーキールバックの修繕用のパーツを少し多めに取り寄せて、それを失敬するだけに留めている。

 しかし、パーツの入手を必要最低限に留めておいた彼と違い、カナヤはとにかく大量に取り寄せたので、ヨルムンゴールドが収められている山の格納庫の床にはそれらのパーツが散乱していた。

「こう物が散らかっていると、…………火事になりそうだな」

 そう言いながら整備中のカナヤの元にタナカ・サブロウがやって来た。

 彼の発言に一旦間があったのは、

「燃やしたくなる」

 と、喉元まで出かかったのを無理矢理引っ込めた為である。

「全部燃えにくい素材で作られているから火事にはならないだろ」

 カナヤは素っ気なく返す。

 すると、タナカは凄まじくつまらなそうに

「しかし、そんだけあってもその機体に合うような物はすげぇ少ないんだろ? カノンの機体を強化しまくるのに使った方がいいんじゃないか? 大抵の事はあいつだけで充分だろう」

 と、言った。

「アナザーキールバックはいくら改造しようとも、都市を壊滅させるほどの力は持ち合わせていない。しかし、この機体にはそれを成せるほどの力がある事が整備を進める度に分かってきた。この機体でなければ俺の本懐は遂げられない」

「本懐ねぇ……」

 タナカは少し思い(ふけ)った。

 考えてみれば彼の目の前で骨董品を整備している男は競争に疲れ果てた結果、世界を滅ぼそうとしている自分以上の変人だが、何故、自分はこの男の事を怖がったりしないのだろうかと。

 答えはぼんやりとしたものがすぐに見つかった。

 自分とイサミ、そしてカナヤは変人具合に差異はあれど、思想の薄っぺらさや破壊衝動等似通った点がいくつもある。お互いの最大の特徴である炎や煤などに性的興奮を抱くことや、世界を滅ぼして悦に入ろうとすることですら元を辿れば自己満足という一点に帰結する為、付き合っていくうちに同族意識のようなものが彼らの中で芽生えたのだろう。

 そんな事をタナカは考えていたのだが、

「ああ、この機体で世界を火の海にして、貯蓄という概念も焼き尽くす」

 というカナヤの一言で、彼はもう炎の事しか考えられなくなった。

『火の海』『焼き尽くす』という言葉が引き金になったらしい。

 その発言をした彼が微笑を浮かべているところを見ると、謎の親近感を抱いていたのはタナカだけではなかったようである。

(バレていたのか……)

 辛うじてそう思う余裕があったが、今はアナザーキールバックに残っているであろう自警団の格納庫と絡繰人形、さらにそれに搭乗していた人物が焼けていく映像が見たくて見たくてたまらない。

「じゃあ、頑張れよ。何か手伝える事があったら俺に言ってくれ」

 そう言い残すと、タナカはイサミに機体に乗せてもらえるよう許可を取りに行った。

 彼は彼女からも、

「何に使うつもりです?」

 と、訝しげな表情で問われた。

 結果、彼女は

「仲間とはいえ自分の機体に人を乗せるのはあまり気が進まないので」

 と言って彼の懇願を断ったが、代わりに爆発シーン満載のアクション映画のDVDを彼に貸した。


 ハルト達の学校では十月の中盤に修学旅行がある。

 彼はできれば古都と呼ばれる場所に行きたかったが、中学時代にそこに行っていないのは彼の学校くらいなので選ばれるとは思っていない。

 そのため、第二希望だったフタナを第一希望に据え置いてアンケート用紙を提出したところ、どういう訳か彼の意見が通ってフタナへと行くことになった。

 因みに古都周辺は二番人気であった。

(何ゆえ?)

 彼自身もまさか通るとは思っていなかった為、不思議に思って何人か知人に尋ねてみたところ、修学旅行の定番と呼ばれている地域よりは混んでおらず、地元からちょうどいい距離にあるからという話であった。

 その二日目の自由行動でハルトが同じ班のナカワタセ達と昼食をとっていると、別行動しているシライシ・ユウリから彼にメールが入った。

(途中、抜けて来れる?)

 とのことである。

 彼の班は別の班と出会した際、そちらと行動を共にするために既に何人か離脱していたので、今彼が抜けても問題はないだろう。

 そこでハルトは

(分かった、何処に行けばいい?)

 と、尋ねたところ、シライシが地図を送信して来たので彼は仲間に

「ちょっと、行きたいところがある。後で合流するから先に行ってくれ」

 と、言ってそこへと向かった。

 喫茶チェーン店で合流後、二人はあちこちを見て回った。

 ただ、回り方にも気をつけている。

 例えば、近くには天守と御殿が両方残っている城があるのだが、そちらに行ってしまっては知人と鉢合わせになる可能性が高くなるので、あえてぱっと見普通の山にしか見えない別の城を見学したりしていた。集合場所をチェーン店にしたのも、遠出した先でチェーン店を使う者は少ないだろうという考えに依っている。

 二人は一通り回った後、再度、喫茶店に戻って来た。

 そこでハルトは、

「しかし、何でいきなり俺を呼んだんだ? 確か、ユウリもトキ達と一緒に回っていたはずだろう?」

 と、シライシへと尋ねてみた。

「パートナーだから親交を深めておこうと思ってね。ハルトは私と一緒じゃ嫌だった?」

「いや、そんな事はない。また知人に見つかって妙な噂を立てられはしまいかと、少しヒヤヒヤしたが、お前とあちこち歩き回るのは結構楽しかった」

「そう、良かった」

 そんな会話をしていたのだが、誰かに聞かれていたらしく、ハルトは宿に帰ってから散々質問責めに遭った。

 確かに彼と彼女の間には信頼関係は日の日に強くなっていっている。ただ、その関係性にどんな名前をつけていいのか当の二人もまだよく分かってはいない。

 それにしても、少なくとも彼の友人達が思うような関係では無いのでその事を説明しようとしたのだが、弁明すれば弁明する程何故か怪しまれた。

 ナカワタセに助けを求めても、

「こう何度も噂になっては流石にどうしようもねぇよ……」

 と、今回は擁護してくれなかった。

 シライシの方でも同じような状況らしく、夜になって彼に

「ごめん、油断した。まさか誰かに聞かれているとは流石に気付かなかったよ」

 と電話して来た。

 彼は室内にいる仲間にバレないようにそそくさと退室しながら、

「俺の方は、いつから付き合っていたんだ? とか、きっかけは何だ? というような事を散々質問されたんだが、そっちはどういう状況だ?」

 と、返す。

「私の方は下の名前で呼び合うようになっているって本当? みたいな感じの噂が事実かどうか確認する質問がいくつかあったけど、大抵は噂を出汁に勝手に盛り上がっている感じだからそっちよりは楽かも。ただ、私とあまり仲良くない層の視線や、ヒソヒソ話す声が煩わしいかな、あんた結構人気あったんだね」

(お前が言うか……)

 と、ハルトは思った。

 彼も交友関係は広い方だが、彼女には流石に及ばない。

 その上、可愛らしさの需要が高くなってしまった昨今、どちらかといえば綺麗な容姿の彼女は、男子生徒からの人気でトップにこそはなれないものの、それでも充分な人気があると彼は聞いている。

 そんな彼女と噂が立ってしまっては、彼女のファンから恨みを買いそうだったが、もう鎮火はできそうになかったので、

「いっそのこと交際するか? そうすればそのうちみんな飽きて鎮静化するかもしれん」

 と、言ってみた。

「いや、確かにあんたの事は信頼しているし、好きか嫌いかで言えば当然好きだけどやめておくよ。周りに流されて自分達の事を決めるだなんて釈然としないからね」

 そう言って彼女は電話を切った。

 ハルトは信頼しているだの、好きだのと言われて少し照れくさくなったが、よくよく考えてみれば、それくらいの事は彼も思っていた為、その後、特に何も考えずに布団に入った。

 そして、三日目になってクラスで数カ所回った後、地元へと戻って行った。

 その際も、ハルトは友人に何度か茶化されたが、昨晩よりは苦戦しなかった。


 トヨオカはオサベと、さらに先日の戦いで軽傷だったエンドウという自警団メンバーを連れて居酒屋に来ていた。

 自警団は数人死亡し、さらに数人が入院が必要なほどの怪我をしてしまった為、無事に動ける者はかなり少なかった。トヨオカはその残った者を呼んで、間に合わなかったお詫びをしようと思っていたのだが、殆どが別の仕事だったり、入院しているメンバーがいるのに自分だけ何かをご馳走してもらう気持ちにはなれないと断られた為、エンドウしか来てくれなかった。

 居酒屋というチョイスはそのエンドウによるものである。

「しかし、申し訳ありませんでしたね。もっと早く到着していれば、私が足止めしている間にあなた方が叩くという方針で何とかなったかもしれないのに」

 トヨオカは素面の状態で申し訳無さそうに言った。

「いや、あんた方が早く到着していたところであれはどうしようも無かっただろうな。そもそも、奴に気付かれないように急接近して、動きを鈍らせたところまでは良かったが、それ以降は押されっぱなしだっただろう」

 そう言いながらエンドウは酒を一口飲むと、重ねて

「とは言え、あんたは商売敵のような側面もあるが、高性能機に対する希望だ。そのあんたが撃墜されなくて良かったとみんな言っていたし、俺もそう思っている。だから、元気を出してくれ」

 と、言った。

 本来、本拠地が壊滅的な状況に陥ったエンドウこそがかけられる言葉だろうに。

 トヨオカは何とも言えないような表情をしながら、

「おそらく、あの機体は実行犯で、その裏には我々の戦力を削ぐように指示を出している首謀がいるはずです。私がどちらも捕まえて見せます」

 と返した。

 これはエンドウに向けた言葉ではあるが、自分の決意表明も含意している。

 その後、始終沈んだ空気で飲み会は進行し、エンドウが、

「馳走になった。明日は朝から山で作業しなけりゃならんからもう行くよ」

 と、言ったことでお開きとなった。

 帰り道、何杯酒を飲んでも酔った様子がなかったオサベが、

「エンドウさん、いい人でしたね」

 と、トヨオカに声をかけてきた。

 彼は居酒屋ではほとんど会話に入ってこなかったので、元々の細い目つきも相まってトヨオカには寝ているようにしか見えなかったが、どうやら二人の会話をずっと聞いていたらしい。

 トヨオカはかなり酔っていたが、相方のその言葉にははっきりした口調で、

「ああ、だからこそあのタイガーキールバックを次は必ずとっ捕まえてやる」

 と、答えた。

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