VSアナザーキールバック
炎上する格納庫と、破壊された絡繰人形。
それらをバックにしてイサミ・カノンの絡繰人形は佇立していた。
彼女はカナヤ・カケルの指示を受けてこの格納庫を襲撃に来たのだが、
(この機体の初陣がまさかこんな面白くないものになるとは思いませんでしたね)
と、少々不満だった。
彼女のタイガーキールバックは、ただ修理されただけで無く、性能が競技用の枠では収まらない程のものになっている。
ついでに名称もアナザーキールバックへと変更された。
そんな機体なので、パワーが抑えられた自警団の機体が相手になるわけが無く、結果、弱い者虐めのようになってしまったため、申し訳ないという気持ちさえ生まれている。
そのため、なんとなく今さっき何人か殺害した自警団機の搭乗者を燃え盛る機体の中から回収して葬ってやろうかと思ったが、格納庫を壊滅させた後に来るであろう警察機の撃墜までがカナヤの指示であった。
彼女は今その到着を待っている最中である。そちらには少し期待しており、
(以前戦った時は結構強かった気がしますが、あれからどれくらい強くなったんですかね)
などと考えていた。
レーダーにも反応は無く、視認もできないため、到着するまでにはまだ時間がかかりそうだ。
稼働時間が勿体無いため、一度アナザーキールバックを停止させようかと考えていると、モニターに突然、ロックオンされた事を示す反応が出た。
さらに、そこには警察機の位置情報も表示されており、それは現在彼女が予想していなかった方向にいた。その上、いつの間にか相手の射程距離内まで接近されてしまっている。
(ジャミングしながら近づいて来たんだ……)
そう思った矢先、警察機はハンドガンを発砲しながら彼女の機体へと接近して来たが、彼女は慌てること無く機体を物陰に移動させて様子を見た。
さらに、アナザーキールバックに長剣を抜かせていつでも攻撃できるように準備する。
しかし、警察機はある程度の距離まで近づくと、それ以上接近しては来なかった。
イサミが現在いる地点から警察機までの距離は然程離れていないので、飛び出して攻撃することは可能だろう。
ただ、警察機は突然接近をやめたので彼女は
(何かありそうですね)
と、簡単には突撃を仕掛けなかった。
だが、その数秒後、彼女はここで突撃をしなかった事を少し悔やむことになる。
直後に機体の出力が急激に低下し始めたのである。
突然のことに彼女は動揺したが、よく見ると片方ジェネレーターが停止しただけなので、まだ鈍重なタイガーキールバックとしての運用が可能である。
そのため彼女はすぐに気をとりなおした。
ただ、動揺したのは彼女だけでは無かった。
むしろ、警察機の搭乗者トヨオカの方が彼女以上に動揺したらしく、
「何故、完全に機能を停止しないんだ!?」
と、素っ頓狂な声でアナザーキールバックへと通信を入れて来た。
相手の機体のコントロールシステムを乗っ取って機能を停止させるというのがトヨオカの秘策であったが、通用しなかったので彼は困惑した。
今までこの機能は何度か試して来たが、相手がシステムをいじっていない限り、ほぼ確実に停止させる事が出来たのである。
今回の相手はタイガーキールバックのシステムをそのまま使っているらしい事が傍受したデータから判明したので、問題なく通用すると思ってそれを使った次第だったのだが、あてが外れてしまった。
(参ったな、これで決めるつもりだったから他に作戦を考えていないぞ)
と、彼が焦っていると敵機、アナザーキールバックは物陰から飛び出して急接近して来た。
それは先程彼が行った小細工によって弱体化しており、彼が乗っている警察機よりスピードはやや遅くなっているが、それでも充分速い。
(このままではハンドガンを破壊される)
と、思ったトヨオカは咄嗟にそれを庇いつつ、機体を取り巻く廻し合羽のような装甲板で敵機の斬撃を弾いた。
さらに即座にハンドガンを機体腰部に設置されたホルスターに収納し、代わりに絡繰人形用脇差を抜刀すると、それを使って敵機の斬撃に応戦し始めた。
ただ、得物の長さもさる事ながら、操縦技術の差が歴然であり、斬撃の鋭さや、手数、相手の動きを読む能力など全てにおいてイサミの方が上である。
そのため、脇差で応戦したというよりは、それを使って必死に身を守ったという方が実態に近いだろう。
しかし、全ての攻撃を受けきる事はできなかったため、装甲板には刀傷が無数につき、脇差も少し刃が欠けてしまった。
「なんて事だ、遭遇してまだ数分だのにここまで押されてしまうとは。しかも、相手はさっき自警団機と戦って消耗しているはずな上に、コントロールジャックでこっちの機体よりも能力が低くなっているというのに…」
そうトヨオカは弱音を吐いた。
どうにも光明が見えないのである。
彼は既に、相手が以前工場跡で戦ったタイガーキールバックの搭乗者であると気づいていた。さらに、彼女に唯一勝つ方法が前回みたく咄嗟に動けない状態にした後に不意打ちをかける方法くらいしかない事にも。
しかし、その作戦は現在の彼には取れそうにない。
そこで、彼が破れかぶれの突撃を掛けようとしていると、以前一度だけ見た竜のような機体が飛来して、彼を援護するかのようにレールガンでアナザーキールバックへと発砲した。
弾丸は前回みたく当たりはしなかったが、流石にイサミはその機体、リントヴルムの攻撃力を警戒して自機を物陰に隠す。
リントヴルムはトヨオカにとっては敵に近い立ち位置の機体ではあったが、この状況での援護は有り難かったため、
(助かった……)
と、僅かながら思ってしまった。
リントヴルムのコックピットにいる二人には、トヨオカやイサミのような緊張感はあまり無く、
「トヨオカさんに通信したいけど、ボイスチェンジを使っても俺だってバレるよな。叔父さん曰く、解析をする事に長じた機体らしいし」
「じゃあ、レドーム壊しちゃえば? あれさえなければ、ただの汎用性が高いだけの競技用の機体になるんでしょ? それにあれを残しておいたら、工場に戻る時にこの機体に私達が乗っている事を割り出されちゃうんじゃない?」
「確かに、レドーム自体はもう量産されているらしいから破壊しても問題ないかもな。しかし、この機体でレドームを攻撃すると恐らく首まで取れるぞ。頭部の修理は変えのきくレドームと違って手間がかかるから、その間警察が工場に出入りする機会が増えるかもしれない」
「じゃあ、私が長剣で何とかするから今回はハルトが火器担当をやってよ。まぁ、今回はレールガンもレーザーもたぶん使わないけどね」
と、小声ながらも敵前で会話をしながら、座席の交代までしている。
リントヴルムが何もせず立ち止まっている間、トヨオカはアナザーキールバックへと威嚇射撃をし、イサミは警察機とリントヴルム両方の様子を見ていたが、座席の交代を終えて動き出した途端、二人の視線は一気にリントヴルムへと集中した。
リントヴルムはスラスターを使ってまず警察機に急接近すると、長剣を抜き放ち、剣道でいうところの刺し面の様な攻撃でそのレドームだけを破壊した。
何も反応できずに立ち尽くす警察機をその場に捨て置き、そのまま即座に上空へと飛び上がると、日の光を背にアナザーキールバックへと接近して行く。
そして、それに突きを繰り出したが、警察機のレドームが破壊された事によってコントロールジャックが途切れた結果、アナザーキールバックはスピードを取り戻しそれを回避した。
しかし、いくらアナザーキールバックの性能が復活しようとも、リントヴルムの性能には遥かに及ばない。さらに、イサミは今の数秒で、
(今回の『竜』を動かしている人物は前回のそれとは違うようですね。今回の方が遥かに強い)
と、見抜いていた。実際、彼女とシライシの操縦技術は彼女の方がやや上手ではあるが、ほとんど差はないので、このまま戦闘を継続すれば、機体性能の優劣が勝敗の決め手になるだろう。そのため、
(このまま戦っても勝ち目はありませんね)
と判断し、
「待ちやがれ、コラ」
というトヨオカの呼びかけを振り切って撤退を始めた。
警察機は追っても追いつけず、リントヴルムは燃料が持たないのでそれを追う事はできなかった。
イサミが逃げた後、トヨオカはリントヴルムに
「そいつも違法改造が施されているはずだ、調べるからおりてこい」
と、通信を入れたがハルトとシライシは何も答えずに逃げた。
そのため、その場にはトヨオカとトレーラーにいるオサベしか残っていない。
格納庫の炎は赤々と燃えて続けているが、トヨオカ達では消すことができなかったので消防を呼びつつ、無事だった者の保護活動を開始した。




