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天狗の面

 十月に入って間もない頃に、自警団のメンバーからトヨオカへと一件の連絡が入った。

 今まではトヨオカの方から自警団に依頼する事はあっても、自警団の方からトヨオカに連絡が入るという事は少なかったため不思議に思いながら彼は電話に出た。

 電話の内容は自警団の格納庫が襲撃されて、抵抗虚しく全機大破させられてしまったという話であった。

 早速、タイガーキールバックを起動させて状況を確認してみると、確かに自警団の絡繰人形の反応が次々と消えている。

 しかし、襲撃されている格納庫はトレーラーで一時間程かかる位置にあり、その上、遠い位置にあるためか自警団の中でもあまり接点がない団体なので合流しても連携が取りにくいだろう。

 だからと言って断る事も出来ない。

 一応、そんな事が出来る機体に一機心当たりがあったので、

「もしかして、髑髏のようなデザインで、普通の絡繰人形よりも大きい機体でしたか?」

 と、聞いたが違うとの事であったため、少し安心して

「分かりました、ただ、到着するまでに少し時間がかかると思います。それまで何とか持ちこたえてください」

 と、電話で伝えると、ここ最近事件が無かったためかすっかり気が抜けて昼寝をしていたオサベを起こして、通報があった場所へ向かっていった。

 道中、オサベはやや寝惚けた顔をしながら

「しかし、いくらうちの機体でも取り押さえる事が出来るんスかね。一機で自警団を壊滅させているんでしょう?」

 と、荷台のトヨオカへと通信を入れた。

「分からん。ただ、いくら改造機とはいえこの機体以上の機体などそうはいないだろう。以前手痛くやられた機体ではなさそうだから、大方、密輸されたタイガーキールバックといったところだろうな。まぁ、それでも充分脅威なんだが……」

 彼は以前タイガーキールバックと戦って蹴飛ばされた挙句、関節をズタズタにされた事を思い出しながらばつが悪そうに答えた。

「でも、前回の戦いでのダメージは殆ど『矛と盾』から受けたものじゃ無かったっスか? もし、向こうがタイガーキールバックだけだったなら、たぶんその機体の装甲板すら破壊できませんでしたよ」

 そう言ってオサベはトヨオカを元気付けようとするが、その言葉には説得力があまり無かった。

 工場跡で戦ったタイガーキールバックは、トヨオカの操縦技術を遥かに凌駕する腕前であったため、どちらにしたって負けていたであろうことには変わりない。

 今回の敵機の搭乗者があのタイガーキールバックに乗っていた人物と同一だった場合、関節と同様に装甲板の接合部を狙って攻撃を繰り出して、瞬く間にそれを剥がしてしまうだろうという事は二人とも分かっていた。

 トヨオカはそれに返答する言葉を考えていたが、モニターに映った反応が頭に浮かんできたフレーズを全てかき消した。

 現在、襲撃を受けている格納庫へと、彼等とは別の方向から接近している機体の反応が表示されたのである。

 その機体の速度はかなり速く、ひょっとしたらトヨオカのタイガーキールバック以上のスピードがあるかもしれない。

「オサベ、もう一機新たな反応があったぞ。かなりの速度で俺たちが向かっている場所へと接近している」

「マジっすか? このままじゃ鉢合わせになるんじゃないっすか?」

 トヨオカは工場跡地で出会した二機の絡繰人形の事を思い浮かべる。

(せめて、『矛と盾』でない事を祈ろう)

 そう思ったが、不安は募る一方だった。

 全機倒し終えて、格納庫に用は無くなったはずだが、犯人と思われる機体の反応はまるで彼を待ち受けるかのように先程から微動だにしていない。


 自警団の格納庫が襲撃されて、現在トヨオカ達がそこへ向かっているという情報はショウゾウも得ていた。

 いくらリントヴルムがあるとはいえ、自警団の機体を全機倒すような相手とハルトを戦わせる事は気が進まなかったが、不幸にも傍受した通信を彼は聞いてしまっていた。

 さらに、現在シライシが工場にシュミレーターをやりに来ているので、出撃しようと思えばいつでも出れる状況である。

 案の定ハルトは、

「夏に戦った機体が犯人なら、トヨオカさん撃墜されちゃうかもしれないっすよ。あの会社とは若干関係が薄れ始めてますし、次にあのタイガーキールバックが大破でもしたら修理出来なくなるんじゃないっすか?」

 と、ショウゾウに詰め寄ってきた。

 仕方なく彼は、

「分かった。ただし、リミッター解除は使うな。下手したら帰って来れなくなるぞ」

 と、釘を刺しながらも許可した。

 そうと決まれば早速、グリーンパイソンの中にいるシライシを呼び出し、二人でリントヴルムに乗り込むと、リントヴルム用に新たに作ったトレーラーへとそれを乗せた。新しく作ったトレーラーは大きさが変わっただけでなく、機体を収めたまま充電出来るようになっているため、リントヴルムも稼働時間を消費せずに起動した状態を維持出来るようになっている。

 ショウゾウはトレーラーヘッドに乗り込み、荷台を通常の物からそれに付け替えると、練習場へと向けてそれを走らせた。

 移動中、

「ハルト、今回も私が兵装担当で大丈夫?」

 と、シライシはハルトに尋ねた。

 前回、工場跡で対峙した相手は機体が不完全だったり、不意打ちで倒したりと、相手が万全ない状態の戦闘だった。そのため、リントヴルムのパワーのゴリ押しで勝利する事が出来たが、パイロットの中にはそれが通用しない相手というのもたまにいるため、その事を心配しての発言である。

 しかし、彼女みたく相手の攻撃と寸分違わないタイミングで自分も射撃をするという芸当はハルトには出来ないため、操縦と攻撃のどちらかを向上させればどちらかが低下してしまう。

 結局、

「このままでいこう。敵が『矛と盾』だった場合、ユウリじゃないと攻撃を当てる事が出来ない」

 という事になった。

 山上の練習場に到着し、リントヴルムをトレーラーから出すと、ハルト達は一度真上へと飛び上がった。

 リントヴルムであればソニックブームが発生する程まで加速する事も出来るが、今回はそこまでのスピードを出すつもりはないので、専ら地上からは見つかり難くする事が目的である。

 国際線が飛ぶ高度よりもやや低い高度まで飛び上がると、そのまま自警団格納庫へと向かって行った。

 トヨオカ達と比べるとかなり出発が遅れたが、この機動力であれば到着するタイミングはさして変わらないだろう。しかし、リントヴルムの索敵能力は警察機よりも遥かに劣るためハルト達にはトヨオカ達のトレーラーがどの辺を走っているのかは分からない。

 それゆえ、リントヴルムのスピードを今まさに体感している彼等は、自分達の方が先に到着してあわよくば敵を倒してしまおうなどと考えている。

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