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ハルト、カナヤと警察機

 その後、トレーラーは戻って来たものの、数ヶ月間に発生した事件はトヨオカ達が自警団と協力して全て迅速に解決してしまったため、ハルトはリントヴルムを動かす機会を悉く逃していた。そもそも絡繰人形が絡むトラブルは少し増え始めたとはいえ依然少なく、そのトラブルの対策が業務であるトヨオカとは違って、学生でもある彼はどうしても後手に回らざるを得ず、夏休み中や二学期に入って何度かあった連休ですら一回も出撃できなかった。

 さらに、彼等は改造機の発生を未然に防ぐため、密輸ルートについて調査を強化しており、国内では使用不可なパーツの入手が困難になった。

 そのため、タイガーキールバックをヤマカガシに改造し終わったショウゾウも、その新装備の製作が滞っている。

「暇っすね」

 この日、学校が休みで朝からシュミレーターに入っていたハルトは、昼食中にそんなことを言った。

 向かいの席に座っていたショウゾウは特に矛盾には突っ込まず、

「お前は学校があるし、友達と遊んだり、試しに部活に入ってみたりとやろうと思えば色々できるからまだいいだろ。俺は金入りも楽しさも皆無な金属の加工の依頼しか入ってこないから本当につまらん」

 と、言った。ここ最近はシュミレーターで得たデータしかオート・エト・ロタイ社に送れる物が無く、そこからの金入りも徐々に減少しているため、彼の精神衛生はハルト以上に深刻だろう。

「二年の二学期終盤に部活に入っても居場所がない気がしますがね」

「何をするにも遅すぎるなんて事は無いさ、俺だって平均寿命まであと十年以上ある。どこも体調は悪く無いから実際はそれ以上時間があるだろうしな。それだけあれば、大抵の事はできるはずだ」

「それなら午後はちょっと街に出て興味が湧く事を探してみます。シュミレーターでレティック・スパイダーに負け続けるのにも些か飽きた」


 彼はナカワタセ達と行動を共にする時は娯楽施設に、シライシと行動を共にする時は商業施設に行く事が多かったので、この日は趣向を変えて町外れの寺社仏閣巡りをしてみた。

 彼が住んでいる地域は寺社仏閣が多かったが、今まで行く機会が無かったのでこの機会に行ってみようかと何と無く思ったのである。

 五社程巡った辺りで、自然と調和するという事がどういうものかが見えて来た気がするが、同時に飽きてきてしまった。寺社の造形は見事であり、景色は綺麗な事に違いは無いが、似たような景色が続いてしまうと、どうしてもそれを汚す何かが欲しい。

 伝統がある街に、まだ使用に耐える家を潰して景観もクソもあったものでは無い掘っ建て小屋を建てようとする家主は、案外こういう感性なのかもしれないと考えていると、微かに機械の駆動音が聞こえ始めた。

 彼はその音の発生源へと向かって行くと、森林や池という景観の中で絡繰人形が戦闘をしていた。片方はリンガルスⅡで、もう片方はシーサーペントという機体だった。

 シーサーペントというのはリンガルスⅡとは別のメーカーが最近になって製造した機体だが、それにも潜水能力が搭載されていた。こちらは、リンガルスⅡの水中での使いやすさに対抗して速度と潜水能力を売りにしている。

 ハルトはそれを見るのは初めてだったので、どれ程の性能を持っているかが気になり、景観の事を一瞬で忘れると、物陰に隠れて観察を始めた。

 しかし、二機の戦闘は見れば見る程面白く無かった。

 どちらも動きが拙いのである。

 そもそも水中で使用できる事が持ち味である機体を山の中で使っているところを見ると、玄人ではなく、両機が持つ高級機という側面に惹かれて購入した層なのだろう。

 高級車のオーナーは自分の所持しているメーカーの車を持ち上げ、ほぼ等価の他メーカーの車を蔑むという事がしばしばあり、この戦闘も似たようなところに原因があるのかもしれない。

 ただ、興奮が冷めた事によって気づいた事もある。

 警察機や自警団の到着が遅い事だ。

(トヨオカさんのタイガーキールバックには既に修理し終わったレドームがついているから、この戦闘を察知しているはずだ。いつもなら駆けつけて両機を止めているところだが今日はやけに遅いな)

 と、思い始めた矢先に彼の機体が走ってきた。

 そして二機に警告すると、リンガルスⅡの搭乗者は大人しく降りてきたが、シーサーペントの方はそのまま彼の機体の方へと自機を走らせ、そのまま殴りかかった。

 しかし、いくら高級機といえども競技用の機体を改造したものに勝てる訳もなく、一瞬で取り押さえられた。

 その後、二人の搭乗者はトレーラーへと連れて行かれる事になるが、その頃には既にその森にハルトの姿は無かった。

 彼は帰りの電車の中で、

(町の外の事件へ駆けつけるのにはトヨオカさん達も時間がかかる。それが分かった事が今日一番の収穫だな。たまには外に出ているのもいいものだ)

 と、思いながら先程まで自分がいたであろう山を見ていた。


(警察の機体が何かと邪魔だ)

 と、思っていたのはハルト達だけでなく、カナヤも同じ悩みを抱えていた。

 彼も基本的にはパーツを密輸しているのだが、絡繰人形を索敵することができるあの機体が配備されてからというものの、密輸に対する警戒が強まってしまったため、ヨルムンゴールドに合いそうなパーツの入手が少し困難になってしまったためである。

 故にヨルムンゴールドは未だ修理が完了していないが、一方でイサミに頼まれていたタイガーキールバックの修理と強化は既に終えていた。

 彼がヨルムンゴールドの修理のために取り寄せていたパーツは高性能なものばかりだったが、中には合わないものもあり、そういった余り物をタイガーキールバックの強化にどんどん回したため、最早それは競技用とは思えない性能を発揮する事ができるまでになっている。

 一応、ジェネレーターを上半身に一基、下半身に一基と計二基つけたことで乗り心地が少し低下し、稼働時間も四時間程しかなくなったという弱点もあるが、ヤマカガシを凌ぐスピードとパワーを発揮できるようになったので、現在この近辺では最も強いヨルムンゴールドやリントヴルムの次に強い機体であろう。

 ただ、パワーに関してはタイガーキールバックのフレームだと攻撃時に逆に潰れてしまう事があるので意図的に少し抑えられている。

 それでも、イサミ曰く

「充分ですよ」

 との事だった。

 彼女に改修し終わった機体を見せた後、マンションに移動すると、そこで彼は彼女に

「その機体で警察機と自警団を少し片付けてきてはくれないだろうか?」

 と、頼んでみた。

 当然、良くない事だと彼女は思っているが、それ以上にこの機体を使って戦ってみたいという気持ちの方が圧倒的に強いため

「分かりました。ただ、向こうの装備のレドームと追加装甲が復活してからあまり時間が経っておりませんので、それに向こうの搭乗者が再び慣れるまで待って頂けませんか?

できれば万全の状態の警察機と戦いたいんです」

 と、言った。彼女は先程新たな姿となった自機を見て、より強い状態の相手と戦いたいという気持ちが強くなってきている。

 長い付き合いであるため当然カナヤは彼女のそうした心情を理解してはいたが、できれば敵が操作に慣れていない内に倒して貰いたいという気持ちもある。ただ、その条件を飲まなければやってくれないであろう事も知っていたため、

「やり方は全てお前に任せるが、できれば確実に倒しておいてくれ」

 とだけ言った。

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