リントヴルム
「タイガーキールバック一機はもう動けないらしいな。今、一機撃墜したから残りはあの正体不明機だけだ」
と、リントヴルムの操縦席でハルトは状況を確認する。しかし、シライシは更に気づいたことがあり、
「ねぇ、ハルト。残った一機どこか私達の機体と似ているところが無い? リントヴルムじゃなくてヤマカガシとレティック・スパイダーのことね」
と、兵装担当の席で彼に問い掛けた。
「レティック・スパイダーって何? お前の機体レティキュレートじゃ無かった?」
「最終段階のレティキュレートをそうやって呼んでたんだよ。それよりも、多分あれ私達の機体のパーツが一部組み込まれているよ。私達がここで相討ちになった後、機体の残骸って見つからなかったでしょ? たぶんあの機体のパイロットが持って行ったんだよ」
「そうか、それなら俺たちに返して貰わないとな」
ハルトはそう答えると、リントヴルムを地上へと降下させた。
降り立つなり正体不明機は、
「何者だお前は!? いや、何となく分かったぞ。民間機ながら飛行する事ができる上にあの攻撃力を持ち合わせた機体となれば、お前はマツシマ・ゴンゾウだな」
と通信を入れて来た。
ハルトはその問いかけで
(またこいつらか……)
と、察した。以前、丁度この場所で撃退した三人である。
シライシもマツシマ・ゴンゾウという名前はショウゾウの偽名であるという事を既に知っている為、
(埋蔵金発掘の時にあの場にいた誰かかな)
と、大方の予想をつけた。
「さっきあんたらが戦っていた相手は警察だ。このままだとお仲間がしょっ引かれるかもしれんが、回収して脱出しなくていいのか?」
と、ハルトは正体不明機に乗っているカナヤ・カケルへと尋ねた。
「三分でお前を倒して二人を回収すれば済む事だ」
カナヤはそう答えると、自機、ヨルムンゴールドのレールガンをリントヴルムの方向へと向けて発射した。
ハルトが即座にそれを回避し、シライシがレールガンによる射撃をするが、敵機に弾丸は当たらない。ヨルムンゴールドは全高十メートル以上あるリントヴルムよりもさらに大きいので弾を外したという可能性は考え難く、彼は困惑した。
(なぜ、当たらない? もしかして正面からの攻撃を無効化する機能でもあるのだろうか)
そう考えて彼は目にも止まらない速さで敵機の背後にリントヴルムを回り込ませて再度射撃を試みる。
リントヴルムの速さにカナヤは対応する事が出来なかったが、それでも弾丸は弾かれてしまった。
すると、
「どうやら、全方位にバリアの様な物を展開しているのかもね。向こうが攻撃する時はバリアが外れるかもしれないから、次は相手の射撃と同時にレールガンを撃ってみるよ」
と、シライシが耳打ちでハルトに提案した。
「分かった、それで行こう」
その後、リントヴルムは尾のレーザーで敵機を攻撃しつつ、丁度いい間合いを取った。
因みにレーザーもヨルムンゴールドには通用しないらしく、命中する前に弾かれてしてしまっている。
シライシがレーザーの照射を止めると、ヨルムンゴールドはレールガンをリントヴルムに向けて来た。
「一瞬だけ動きを止めて」
シライシが小声で言い、言われた通りにハルトがリントヴルムの動きを止めると敵機のレールガンの砲身から光が見えた。
それと寸分違わないタイミングでシライシはレールガンとレーザーを同時に発射した。
両機とも被弾し、ヨルムンゴールドはパーツがいくつか弾け飛んだが、リントヴルムは装甲がほんの少し凹んだだけだった。
シライシは更にレーザーで敵機に追撃をかける。
すると、バリアを突破された事でカナヤが動揺したからか、それは防がれる事なくヨルムンゴールドに直撃する。
好機と見たハルトはリントヴルムを敵機に急接近させて、長剣による斬撃を繰り出した。
その斬撃はヨルムンゴールドの胸部の装甲を掠っただけだったが、リントヴルムのパワーが強すぎる為か、その装甲はちぎれ飛んだ。
(クソッ、まだ調整と強化が必要だな。しかし、かろうじて動く様な状態なのに特別仕様のタイガーキールバックをあそこまで追い詰める事ができると分かっただけでも中々の収穫だな。それにこの機体は操縦と防御壁展開の担当、レーダーと兵装の担当、自動修復システム担当の三人がいて真価を発揮する。一人でこれだけやればまぁまぁ頑張った方だろう)
カナヤはそう考えると、ヨルムンゴールドのスラスターを噴射させて仲間のタイガーキールバック二機へと近づいていく。
そして、最初に撃破されたタナカ・サブロウの機体を回収し、イサミ・カノンの機体のコックピットをこじ開けようとしているトヨオカを振り払って彼女の機体を回収すると、空へと消えて行った。
ヨルムンゴールドに弾き飛ばされたトヨオカは、痛む身体を起こして工場跡にただ一機残ったリントヴルムも近づき、
「その機体の搭乗者は降りてこい、どう考えても違法な機体だろそれは」
と言った。
顔見知りとは言えど、ハルトとシライシはそれに応じる訳にもいかないので、空へと飛び立って逃げ出した。
帰路の途中、
「後、どれくらい動く?」
とシライシはハルトに尋ねた。
「三十分は動けそうだ。ヤマカガシと比べると相当短いが、思っていたよりは余裕があるな」
「大丈夫? 五千万くらいする物を散々見せられた結果、五百万くらいの物を安く感じる様な心理に陥ってない?」
「確かにヤマカガシの時点で稼働時間が相当短いと言われていたのにな……因みにレティキュレートはどれくらいの時間動けたんだ?」
「十時間くらいかな? 稼働時間を限界まで使う様な用事は無かったからあんまり覚えていないや」
そんなやりとりをしているうちにハルトは自分にかなり余裕がある事に気づいた。
愛機の稼働時間的にはむしろ余裕は無くなったはずだが、彼がヤマカガシに乗っていた頃には帰り道にショウゾウと雑談するという事はあまり無かったのである。




