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一年ぶりの模擬戦

 山上の練習場に到着すると、タイガーキールバックとグリーンパイソンは互いに向き合って立った。

 グリーンパイソンは手慣れたような動きで配置に着いたが、タイガーキールバックはややおぼつかない足取りであった。

 が、トヨオカは機体を数歩動かしただけで感覚を取り戻しつつある。ちょうど、普段AT車を運転していた人間が、久しぶりにMT車を運転してみたら思っていたよりは運転できたという感覚に近いだろう。

 しかし、ハルトは最初の覚束ない足取りを見て、

(思えば、一年前の俺もあんな感じだったんだろうか。当時は俺がヤマカガシで叔父さんがグリーンパイソンだったが)

 などと考えていた。実際のところ当時の彼よりは現在のトヨオカの方が遥かに卓越した技術を持っているが、彼は気づいていない。

 一年前と同じく、六十秒のタイマーが画面に現れる。

 その後、二機に

「もう一度ルールを確認します。制限時間は三十分で、先に相手を倒して押さえつけるなどして行動不能にした方が勝ちです。タイガーキールバックにはハンドガンと絡繰人形用脇差という装備がありますが、今回はその使用は無しでお願いします。ルールについて何か質問は?」

 とショウゾウが試合の説明をした。

 彼とハルトの練習試合の時とはややルールが異なっているが、基本的な部分は変わらないだろう。

 すると、トヨオカから、

「ハルト君が乗っている絡繰人形というのは旧式みたいですが、大丈夫なんでしょうか?」

 という質問があった。

「僕のことは慣れているので心配いらないですよ。工場の手伝いをする際に結構乗っているんで、ちょうど良いハンデです」

 と、ショウゾウではなくハルトが答えた。

 他に質問は無かったので、二人はほぼ同時にタイマーを押し、カウントがゼロになったところで試合はスタートした。

 が、ハルトはいつものように突っ込む事は無かった。

 彼は今までも何度か自機よりも性能が高い機体と戦った事があるが、その度にリミッター解除機能を使って対応してきた。しかし、グリーンパイソンにはその機能はついていない。

 流石に今回の試合は、ヤマカガシのリミッター解除を使ってもとうとう最後まで大したダメージを与える事が出来なかったサイドワインダー戦よりはマシだろうが、それにしても勝てる見込みは今の所ないだろう。そのため、

(俺もかなり絡繰人形の操作には慣れてきたが、相手の力は未知数だ。とりわけ、今回は俺の元々の愛機を参考に造られた高性能機が相手だし、ここは様子を伺うべきだろう)

 と考えて慎重になっている。

 対して、トヨオカはとりあえず機体に慣れる事を優先したため前後左右にデタラメに機体を動かしていた。

 三十秒程動かして、やや感覚が戻ると、彼は改めてタイガーキールバックの高性能っぷりを実感する事ができた様ような気がして、

「オサベ、凄いぞこの機体。俺が以前乗った事がある物よりも遥かにパワフルだし、何より動いた時の振動や衝撃を全然感じない。ついでにやろうと思えば向かい合った相手の機体の通信を傍受できるようだ」

 と、少し高揚しながらトレーラーにいるオサベへと通信を入れた。この高揚は事前にゲームの様なものだと前向きに考えていたから湧き上がったものでは無さそうであり、どちらかといえば動かしていたら自然と湧き上がってきたものと言った方が近いだろう。

「浮かれていないで真面目に試合をしてください。いくら素晴らしい機体でも、そんな隙だらけの動きをしていたら突き倒されますよ」

 と、オサベは返す。

 実際、ハルトは

(これは、好機だな。隙を伺うまでも無く隙だらけだ)

 と判断してグリーンパイソンを急接近させて、タイガーキールバックへと足払いをかけた。この際、目眩しになるように地面の土も同時に蹴り上げている。

 しかし、トヨオカのタイガーキールバックは後ろへ飛んでそれを回避した。

 さらに、カメラ以外にいくらでも索敵するための装備があるタイガーキールバックには蹴り上げられた土も意味を成していない。

(この機体の特性はなんと無く把握できた。今度はこちらから仕掛けるか)

 トヨオカはそう考えて攻勢に出る事にし、グリーンパイソンが足払いを仕掛けた後、体勢を立て直し切る前に間合いに入った。

 タイガーキールバックの性能と操縦者が元々持っている武道の技術も相俟って凄まじく素早い体捌きである。

 どう考えても先程まで前後左右にデタラメに動かしていた人間の動かし方ではないので、

(速いなんてもんじゃない。間合いの詰め方が武人のそれだ)

 とハルトは驚いた。

 すかさず反撃しようとするが、グリーンパイソンはまだ不安定な体勢のままなのでどうすることもできない。

 結局、何の対応もすることなく頭部に掌底打ちを食らって勢いよく突き倒された。

 倒れた衝撃がグリーンパイソンのコックピット内に伝わりハルトの視界は次第に狭まって行く。

(また負けた……今回は仕方ないっちゃ仕方ないが流石に一年近くやってこれはないな……)

 などと思いながら彼は意識を失った。


 試合はトヨオカの勝利で終わったが、彼はあまり嬉しいとは思わず、それ以上にハルトへの心配が彼の心を支配した。

 グリーンパイソンが倒れた直後、ショウゾウの判定を聞くよりも先にタイガーキールバックの機能を停止させ、コックピットを飛び出してそちらへと駆け寄って行った。

 彼は

「ハルト君、大丈夫か?」

 と、呼びかけながらグリーンパイソンのコックピットハッチを開いて安否の確認をする。

 ハルトは気絶はしていたものの、

「う〜ん」

 などと唸っていたため、命に別状はないらしい。

 それを確認したトヨオカは胸を撫で下ろし改めてショウゾウに

「試合とはいえ、申し訳ございませんでした」

 と謝罪した。

「かなり凄い倒れ方をしたが、ハルトには目立った外傷はなさそうだ。頭を上げてください」

 そうショウゾウは答えた。

「しかし、大事をとって一度下山した方がいいでしょう。試合も終了した事ですし」

「分かりました。では、私がグリーンパイソンを自分のトレーラーへと積み込むので、タイガーキールバックはそちらでやって頂けますか?」

 というやりとりを挟んで一度工場に戻る事になり、絡繰人形を積んだ二台のトレーラーは下山して行った。

 その帰りのトレーラーの中でハルトは意識を取り戻した。

 彼の第一声は

「俺はまた負けたんですね」

 だった。

 声を出せているあたり、首の骨や脳は無事であるらしい。

 ショウゾウは運転中だったため起き上がった彼の方を向く事はなかったが、表情をやや綻ばせて

「おお、気づいたか。どこも怪我はしていないか?」

 と、言った。

 ハルトは

「特にどこが痛いとかはないっすよ」

 と、返す。

「そうか、怪我が無くて良かった」

「確かに怪我をしなかったのは良かったですけど、流石に悔しいっすね。負けるだけならいざ知らず、ヤマカガシに近似した機体をあそこまで上手く使われた上に情けまで掛けられたとなると……」

 とハルトはそこまで言って、それに続くはずの

「自信がなくなってきます」

 という文言は言わなかった。

 代わりに、

(今度は絶対に勝ってみせる)

 と強く決心した。

 工場に到着した後、トヨオカはハルトに謝ってからすぐにタイガーキールバックや専用トレーラーなどを受け取るための手続きを終えてオサベと共に帰って行った。

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