警察機
警察でマツナガ・ショウゾウにタイガーキールバックを頼んでからおよそ二ヶ月後、機体が到着したという連絡を受けてトヨオカ・コウセイという男がそれを引き取りに行った。
彼は実家で林業を手伝った際に絡繰人形の免許を取得しており、署内では彼しかそれを持っていなかったので、自動的にあまり乗り気ではない彼が担当する事に決定した。
約五年前に二、三回乗っただけだったが、一応操縦のセンスは悪くはなかったはずである。
ただ、少しブランクがある上に、高性能機に乗った経験は無いので現在の実力は定かではない。
「面倒な仕事が回ってきたなぁ、そもそもロボット犯罪対策課はもうないはずだが、俺は何課になるんだ?」
などと愚痴をこぼしながら彼はパトカーを進めていく。
すると、
「だけど楽は楽なんじゃないっスか? 絡繰人形を使った事件は確かに増えてますけど、それでもかなり少ないっスよ。それにネズミ取りなんて毒にも薬にもならないような作業よりは多分楽しいと思いますよ、この仕事」
と助手席に乗っている後輩、オサベ・タイキが彼を慰める。
彼もトレーラーを運転する事ができるので、トヨオカと同じく絡繰人形の仕事を回されてしまっており、未知の仕事への不安を感じている。
「そうだな、ポジティブに考えるか。これから受け取る絡繰人形にはなんか海外で発生した事件のデータを参考にしたシュミレーションができる機能があるらしいんだが、当面はそれを使って機体に馴れろと上から言われている。工場のおっさん曰く、それはテレビゲームみたいなものらしいから勤務中にゲームができると考えれば楽しいかもしれない」
「そうそう、その意気っスよ。だけど、ゲーム感覚になりすぎて、お座なりにならないように気をつけてくださいね」
目の前の信号が赤になったので、トヨオカは車を停止させる。
ここを左へ曲がればすぐにマツナガ・ショウゾウの工場であった。
ここまで来るのにそこそこ時間を要したはずだが、トヨオカはオサベととめどなく会話をしているからか、不思議とそれほど時間が経っている気がしない。
「もう一つ、この仕事を引き受けて良かった事があるな…」
青信号になった丁字路を左折しながら、呟くようにトヨオカは言った。
聞き逃していなかったオサベは
「えっ、何です?」
と聞く。
「お前とより仲良くなれた。元々仲は悪くはなかったが今までは知り合いの域を出なかった。しかし、もう友達と言っても過言ではないだろう」
とは、トヨオカは言わなかった。正確には喉元まで出かかっていたが、妙に照れ臭くなったのである。
出かかった言葉を引っ込めて代わりに、
「ゲーム感覚になる前に、ドライブの気分になっていたようだ」
と、口にする。
オサベは少しその意味を考えてみたが結局分からなかった。
その数分後、マツナガの工場へと到着した。
「お待ちしておりました、こちらです」
と作業服を纏った中年男性、ショウゾウに案内されて二人は工場内へと入った。
そこには既に、取り寄せられた絡繰人形とその予備パーツ、運搬用のトレーラーが準備されていた。
が、資料で見たタイガーキールバックとは少々形状が異なっているようだった。原型機はもっとシンプルな見た目だったはずだが、目の前にある機体は頭部が編笠のようになっており、装甲板らしい引き廻し合羽のような物をつけている。色もホワイトを選択していたはずだったにもかかわらず、なぜかブルーであったため、トヨオカには目の前の機体がタイガーキールバックとは別物にしか見えなかった。
そのため、
「随分と頼んでいた物とは形状が異なっているようですが、本当にこれですか?」
と少し心配になった彼はショウゾウに尋ねてみた。
「連絡するのを失念していましたが、警察の機体だと説明したら、それに見合った物を無料で設置してくれるということだったのでつけてもらいました。ただ、頭のレドームも追加の装甲板も一応、脱着可能ですので当初想定していた物をどうしても使いたいというのであれば取り外してください。ただ、そのままにしておいた方がより正確な情報収集やジャミング、他機へのハッキング等ができるので便利だと思いますよ」
とショウゾウは答えた。
実際は、機体を三機ほぼ無料に近い価格で提供する代わりに、オート・エト・ロタイ社がより多くの絡繰人形の情報を集めたいという事でつけた物だったが彼はその事については言っていない。
ちなみに三機というのはこの機体と、署に一人しか乗り手がいないという事で予備パーツにした機体、さらにはショウゾウが既に地下にしまってしまった通常仕様のタイガーキールバックの事である。
彼はリントヴルムを作る事を考えていたが、タイガーキールバックを改造してヤマカガシを復活させることも構想していた。
トヨオカはその事については知る由もないが、先程の回答では納得していなかったので、
「それならそう報告しておきます。しかし、なぜ青いんですか? 確か色に関しては白色を選択していたはずですが」
とさらに聞く。
「それは向こうの工場のミスだそうです。向こうではパトカーの色が青なのでそれで勘違いしたのかもしれません。気になるようでしたら塗装し直してください」
そうショウゾウは答える。
これも嘘ではない。
ただ、これ以上質問されると隠している事をぽろっと出してしまいそうな気がしたので、ショウゾウは急遽話題を変え、
「どうです? 試運転として私のグリーンパイソン相手に一回試合をしてみませんか? 役場に許可を取ればすぐに格闘技の試合のような事ができますよ」
と言った。
ただ、トヨオカ達の目的は絡繰人形を受け取る事であり、試合をしてもいいかという事については特に指示を受けてはいない。
「少し待ってください。上に聞いてみます」
すぐに電話でトヨオカが確認をすると、やっても問題ないとの事であった。
「そういう事でしたら是非お願いします」
「でしたら早速、タイガーキールバックに乗り込んでそれをトレーラーの荷台に積んでください。私はグリーンパイソンの準備と役場への連絡をしなければなりませんので」
そう言ってショウゾウは一度、工場から家へと戻って行った。
ショウゾウが工場から戻ると、そこではハルトとシライシがリントヴルムの設計図に自分達のアイディアを反映させている最中だった。
彼らは春休みに入ってからは頻繁に会ってその事について話し合っている。
現時点で変更された事はハードポイントがいくつか追加された事と、コックピットが複座式になった事くらいであり、進捗は少し遅めだったが、それでも春休みが終わる頃には完成させてオート・エト・ロタイ社にそれを提出し、パーツを取り寄せる事ができるとの事だった。
その二人にショウゾウは、
「どっちか、グリーンパイソンを使って、警察機と練習試合をしてくれないか? 俺じゃあ試合にならないうちに負ける可能性がある」
と言った。
すると、ハルトが
「警察相手となると流石に免許がないとまずいっすよ。バレたらどうするんすか」
と指摘する。
「埋蔵金の時は営利目的の上に違法な絡繰人形だったから完全にアウトだったが、今回のように私有地、且つ、戦闘等が目的でないなら十五歳以上なら免許無しで動かしても問題ない。今回は考え方によっては戦闘だが、ルールに則った試合なら許可を取って行う事ができる事になっている。だからいつものようにコソコソせずに戦っても今回は大丈夫だ」
それを聞いてハルトは少し身体が温かくなってきた。
彼はヤマカガシが爆散してからというもののシュミレーションしかやっておらず、久しぶりに絡繰人形を動かしたいという気持ちになっている。
が、しばらく絡繰人形に乗っていないのはシライシも同じである。
そこで彼はシライシに、
「どうする?」
と尋ねた。
「ハルト君が行った方がいいんじゃない? レティキュレートはグリーンパイソンを改造したものだったから私じゃあ慣れすぎていて、勝つ事があるかもしれないでしょ? そうなったら不自然じゃない?」
「その自信はどこから来るんだよ……。まぁ、俺の操縦技術は会う人会う人に普通よりもやや上くらいに言われるし、俺が行く方が無難か」
ハルトの返事はさも乗り気ではないというようなものだったが、顔は少し笑っている。
グリーンパイソンを動かすのがハルトに決まったところで、ショウゾウは役場に連絡を入れて許可をとり、二人は工場へと向かって行った。
その後、ショウゾウが警察から来た二人にハルトの事を説明すると、ショウゾウとハルト、トヨオカとオサベはそれぞれ絡繰人形とトレーラーの運転席に乗り込んだ。
そして、絡繰人形を積んだ二台のトレーラーは山の中の練習場へと向かって行く。




