晴天のアルバトロスで
後日の放課後、ハルトとシライシは洋食屋アルバトロスで落ち合って話をしていた。この日の店内には明るめの曲調のジャズが流れている。
彼と彼女は互いの秘密を握り合ってからは二人で会う頻度が増えており、その度に此処へと来ていた。ちなみに、ハルトはナカワタセと二人で会う際にはボーリング場かカラオケボックスを利用する事が多く、その他の人間と会う際にはファミリーレストランを利用する事が多い。
そのアルバトロスで彼と彼女が話す事は、当然絡繰人形の事である。
まず、
「マツナガ君の叔父さんってまた絡繰人形は造らないの?」
とシライシが切り出した。しかし、競技用の機体のデータを他国の企業に提供しているという比較的重要そうな事ですらヤマカガシを失った後に知ったハルトにはあまり詳しい事は分からない。ヤマカガシにはデータ収集用のチップが搭載されていたので口頭で説明せずとも大抵の場合はそれで事足りていたという事が二人の意思疎通が出来ていなかった一つの遠因であろう。
(テストに協力している身でありながら、叔父さんとの意思疎通が足りていないな)
と少し反省しながら
「さぁ? 一応、懇意にして貰っているメーカーからとの話はまだ途切れていないらしいし、なんか向こうで造った競技用の機体も一機送って貰えるらしい。ただ、今後何をするかについては特に聞いていない」
と彼は答えた。
「そうなんだ、もし新造するのであればお詫びに何か手伝えないかなって思ったんだけど、送られて来るのか…」
(確証はないが、おそらく自分で造るだろうな)
と、ハルトは思った。
ショウゾウが絡繰人形にかける思いは海外から送られてきた機体くらいでは満足しないことは既にこの一年で彼は理解している。送られてきた機体を参考にしつつ機体を新造するか、そこまで至らなくても送られてきた機体を改造するくらいの事はするだろう。
ただ、彼はこの事を彼女に言っていいものかどうかを判断しかねている。
一応、彼と彼女は和解したが、実際に機体を失ったのは彼ではなくショウゾウだからだ。彼は叔父と彼女を合わせるきっかけを作ってしまって問題ないかという事に一抹の不安を感じていた。
そのため、一度確認を取るべく、
「叔父と電話して確認して来る」
と言ってハルトは一度店の外に出た。
電話をかけるとショウゾウはすぐに、
「どうした? 今日はお前が特にやることは無いぞ」
と言って電話に電話に出た。声に混じってカチャカチャと音がしている。
音の正体が気になったハルトは本題に入る前に
「なんか音してますけど何やってるんすか?」
と尋ねてみた。
「ああ、グリーンパイソンのコックピットで、ヤマカガシの今までの戦闘を参考にしたシュミレーションができるように改造しているんだよ。データの収集には役立たないが、技術の向上には使えるだろうと思ってな」
「ヤマカガシが無いのにどうやってやってるんすか? 俺、脱出した時にチップ外すの忘れてたと思うんすけど」
「ヤマカガシに搭載されていたデータ収集用のチップは無くなっちまったけど、トレーラーでも同じデータ収集をしているからヤマカガシの最後の戦いのデータまで一応使えるぞ、なんならお前自身とも戦う事が出来る」
それを聞いたハルトは一秒でも早く帰ってそれの製作を手伝いたいと思ったが、それが本題でない事を思い出し、
「それは楽しみっすね。ところで、またヤマカガシみたいなオリジナルの機体って造る予定ありますか?」
と聞いた。
回答は、
「実はヤマカガシの他にもう一機設計した機体があったんだが、それを造ろうかとは考えている。そっちは設計当時だとパワーがありすぎて自壊する可能性があったから造らなかったんだが、現在の技術なら造れるかもしれん」
との事である。
ハルトはさらに重ねて、
「そうっすか、今回電話したのはそれに関する事なんですけど、機体を新造するなら是非手伝いたいって言っている人がいるんですよ。それで、一度お互いに会って話をした方がいいんじゃないかと思って電話したんですけど、その人に会って貰って大丈夫っすかね?」
と尋ねた。
ハルトは一応名前を暈していたが、
「会わせたいってのはお前の友達のシライシって子か?」
とすぐにショウゾウに見抜かれた。
「そうっす」
そうハルトは答える。すると、
「分かった。いつでもいいから連れて来なさい」
と案外あっさりとショウゾウは承諾した。それからすぐに通話は切れた。
ハルトは電話をポケットに入れ、再び店内へと戻って行く。
彼がテーブルへと戻ると、新たに頼んだらしい二杯目のコーヒーを飲みながら
「どうだった?」
とシライシが尋ねた。
「製造する予定はあるらしい。それと、いつでも来てくれていいとの事だ」
「じゃあ、帰ったら次の休みに工場にお邪魔しますって伝えてくれる?」
「分かった」
そうハルトが承諾し、二人の絡繰人形の話は終わった。
彼らの話がひと段落したのとほぼ同時に、店内へと二人の客が入って来た。
一人はチェスターコート、中折れ帽子、サングラスという如何にも変装というような服装をしており、もう一人の方はライダースジャケット、サングラスというツーリング中にたまたまこの店に立ち寄ったというような服装をしている。背格好や体型を見る限り、コートの方が女性、ジャケットの方が男性であろう。
二人はハルトとシライシからやや離れたテーブルに腰をかけた。店員を呼んで注文をした後に二人で会話を始めたが、それはあくまでカモフラージュであるらしく、ハルトとシライシはその二人からの視線をしきりに感じた。
「お前の知り合いか?」
ハルトがシライシへと小声で聞く。
「知り合いじゃないけど心当たりは事はある。この前の文化祭で一位を取った時みたく私って割とイベント事には積極的に取り組むタイプなんだけど、そのせいで結構目立つ事が多いんだよ。自然、目の敵にされることも多いから今回もそれかもね。男の子の方はなんとなく覇気が感じられないところを見ると、彼女の小間使いかなんかじゃない?」
と彼女は答えた。二人は今入って来た客の正体について既にある程度の目星をつけている。入店して来た男女は変装はしているが、ローファーのままだったり、チラチラと高校の制服が見えていたりと配慮が行き届いていない。そもそも、店の外からバイクのエンジン音がしなかったのにツーリングも何もないだろう。
そのため、同じ高校の生徒だという事がすぐに分かった。
「スキャンダラスを掴むって事か? だとしたら、そんな役に立たなそうな情報を何に使うんだよ」
と、ハルトは話を続ける。
「さぁ? 今までの例から考えると、パッとしない男を連れていなかった場合、それを仲間内での話のネタにしたり、よりいい男と交際してそれを私に見せつける事でマウントを取ろうとしているんじゃない?」
「…参考までに俺の評価ってどうなってるか知ってるか?」
シライシはやや悪戯な笑顔を浮かべると、
「教えない」
と言った。こういった場合本当に知らないか、知っているにも関わらず茶化す為に敢えて言わないかのどちらかが多いのだろうが、ハルトが思うに彼女の場合は後者だろう。
「まぁ、赤の他人にどう思われようが俺には関係ない」
彼は苦笑しながらそう言うと、重ねて、
「そろそろ行こうぜ、マウントを取るのが得意だというくらいだからプロレスか何かをやってるんだろう。捕まったら勝てん」
と言いながら席を立った。
「何言ってんのさ、あんたは」
と苦笑しながら言い、彼女も彼に続いてレジへと向かう。言葉遣いが二人が初めて戦った時に近いものであったが、かなり柔らかい口調だった。
店を出た後も、こそこそしているよりは堂々としていた方がいいのではという事で、二人は途中まで一緒に帰り、駅で別々に帰路に着いた。




