表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/42

和解

 工場跡地での戦いの数日後に冬休みが終わり、ハルトは久しぶりに登校する事になった。

 あの日はトレーラーで帰って来てすぐにシライシとは別れていたので、彼が彼女と会うのは久しぶりの事である。そのため、

(どう接するかな…)

 と彼は悩んでいた。

 一応、彼女の事はショウゾウに報告して且つ相談を持ちかけていたが、曰く

「本来なら呼び出して、甥に何てことをしやがるとか言って説教でもするのが普通なんだろうが、俺も他人に説教が出来る程できた人間じゃ無いし、そもそも学生同士のいざこざに俺が進んで入るべきじゃないだろう。それ以前に俺もお前を今まで何回も危険な目に遭わせてるわけだしな。だからその子と今後どういった関係で居たいかはお前がその子と話し合って判断しろ。その上で俺の助けが必要ならいつでも力になってやる。とにかく、俺はあの戦闘でお前がどこも怪我をしていないだけで満足だよ」

 との事だったので兎にも角にも彼女と話さない事には始まらない。

 彼が教室に入って周囲を見回すと彼女は既に登校してきており、クラスメイトと話をしている最中であった。

 その姿は普段と何ら変わらず、数日前にハルトと殺し合いをしたなどと言っても誰も信じないだろう。

 彼女の方も教室に入って来たハルトに気づき、彼の方を一瞥した。

 ハルトが話しかけるかどうか迷っていると、彼女の方が一旦会話を中断し、彼へと近寄って来た。

 しかし、ここで話して他のクラスメイトに聞かれてしまったら両者共におしまいだろう。

 その事は彼女も心得ており、

「俺も話したいのは山々だが、ここじゃあ流石に無理だぞ」

 とハルトが言った事に対して

「ここで話す訳ないでしょ、お昼食べ終わったら屋上の扉の所に来てよ」

 と答えた。

 その後、すぐに朝のホームルームが始まり授業に入った。

 ハルトは一応授業の内容を聞いてはいたが、同時にシライシに何を聞こうかを考えていたので頭には入っていない。

 が、忙しく色々考えていたため体感的にはそこそこ早く時間は進み、すぐに昼休みに入った。


 ハルトは弁当を手早く食べ終えると、すぐに屋上へと繋がる扉へと向かった。

 そこには既に彼より先にシライシが来ており、鍵に向かって何かをしている途中だった。

「何してるんだ?」

 というハルトの問いかけに対して彼女は特に何も答えなかった。

 わざと答えなかったわけではなく、聞こえなかったのである。そもそも彼女は彼が来た事にも気づいていない。

 彼女は廃工場に初めて入った時以来、ピッキングなどしていなかったので腕が鈍っており少々苦戦していたのである。その為、今彼女の意識はその目の前にある鍵穴が支配しているので周りの音が聞こえていない。

「おかしいな、そんなに苦戦するタイプの鍵穴じゃないのに」

 などと言いながら鍵を弄っているとカチャと開いた音がした。

「やっと開いた…」

 彼女の緊張が解けたところでハルトが、

「それ、開けたのはいいが閉めるのはどうするんだ」

 と話しかけたので、

「うわっ、びっくりした! 来ているなら言ってよ」

 とシライシは普段出さない様な声を出して驚いた。

 ハルトは彼女と話すにあたってなるべく平常心で居ようと考えていたが、それにしてもヤマカガシを壊された事で彼女に多少恨みを抱いていた。そのため、この彼女の反応を見た事によって一本取る事が出来たような気がして、心なしか少し嬉しく思ってしまった。

「閉めるのはまぁ別にいいでしょ、ここから誰かが侵入して来るってわけでもないだろうし。それに監視カメラもないから私がやった事にも気づかないだろうし、多分誰かの締め忘れって事になるんじゃない?」

 と言って彼女は先に屋上へと足を踏み出す。

 ハルトも、

「もし、見回りがあったらどうするんだよ」

 と言って彼女に続いた。

 ハルトは屋上に来るのは初めてである。初めて出てみて彼が感じた事は自分とシライシ以外は人がいないなという何の変哲もない事だった。学生というものは何かと屋上に行きたがり、ハルトもそう考えている内の一人だったが、安全面等の理由から普段は行くことができない。屋上への憧れは閉鎖的な空間から施錠されたままになっている扉という特別な状態の物の先にある非日常を味わいたいという気持ちから来るものだと彼は思っていたが、実際来てみるとなんて事はない。

 ただ、下の階からは確かに死角になっている上に、常に鍵が閉まっているという先入観のおかげで誰かが来る可能性は低いはずなので、何か人には言うことができない話をするには丁度いい場所だろう。

 ハルトは早速、

「俺は工場の手伝いっていう理由があるからヤマカガシに乗っていたんだが、お前はそういうのはないだろう。何でお前が絡繰人形に乗っていたんだよ」

 と切り出した。

 シライシは

「今更隠してもしょうがないから嘘はつかずに言うよ」

 と前置きした後、

「昔、私が好きだった男の子が絡繰人形が好きだったから共通の話題を持ちたくて色々調べていたんだけど、そうしているうちにいつの間にか自分の趣味になってね。それで、偶然見つけた機体を修理、改造しているうちに他の絡繰人形と自分の機体を戦わせたくなったんだよ」

 と、言った。

「他に協力者は? 初見時はヤマカガシよりもやや性能は劣っていたらしいが、まさかあれ程の機体を一人で作り上げたわけではないだろう」

「いや、一人だよ。証拠になるかわからないけど、あの時のレールガンは威力が少し低かったでしょ? 一人で作るのはあれが限界だったんだよ」

(嘘じゃないか?)

 ハルトは流石にそう思った。ショウゾウですらヤマカガシを完成させるにあたって仕事仲間の協力と、かなりの年月を要している。対して彼女は自分一人で高性能機を数年で作り上げたというので疑わざるを得ない。

 しかし、実際彼女は嘘をついておらず、それを裏付けるかのごとく、

「まぁ、強いて言うならあの廃工場と機体の所有者の人が協力者と言えば協力者かな。既に死んでいて身寄りもなかったらしいから、工場と絡繰人形を私が勝手に使わせてもらっていただけなんだけどね」

 と、自ら情報を彼へと話した。

 それでもハルトは疑念を抱いたままだったが、

「いつ頃から俺がヤマカガシを操縦している事に気づいたんだ? まさか夏にもう気づいていたのか?」

 と質問を続けていく。

「いや、埋蔵金の時と港での戦いの時はただ単にパイロットの腕が悪い高性能機ってだけの認識だったよ。君なんじゃないかと思ったのは山の上で共闘した時で、確信に変わったのは君が私を尾行して来た時だよ。正確には、尾行を受けた時じゃなくて帰りのタクシーの中で文化祭の時の君の操縦技術を思い出した時だけどね」

「俺だと気づいた後に何で戦おうとしたんだよ。あの時お前はパーツを奪うと言っていたが、よくよく考えてみればサイドワインダーとスパイダーテイルの物で間に合っているだろう。ひょっとして、度々お前に仕掛けているイタズラの恨みか?」

「そんなわけないでしょ、戦いたくなったからだよ。ヤマカガシはこの近辺ではたぶん最強の民間機だった。少し遠出してアヅマやフタナに行ってもあれ程の機体はなかなか目にかかれないと思う。そして、それを操縦しているパイロットは半年でスパイダーテイル相手に戦える程に成長しているとなれば戦いたくもなるよ」

 シライシはそう言った後に重ねて、

「ただ、あくまでそれは私の都合であって君の都合じゃない。勝手に巻き込んで危険な目に遭わせた事とヤマカガシを破壊した事は謝るよ、本当にごめんなさい」

 と謝罪した。

 一通り聞き終わってハルトは、

(よくもやってくれたな)

 という気持ちはやはり収まっていなかったが、言っている事は分からなくもなかった。

 むしろ、強い相手と戦いたいという話には共感を覚えた。

 彼も彼女の操縦技術を目標にこれまでヤマカガシを操縦してきた事や、機会があればいつか戦ってみたいと仄かに思っていた事も事実なので、どこか似たようなところがあるのかもしれない。

 そう考えると、彼は彼女を何となく憎みきれなかった。

 そして何より彼女やナカワタセと過ごしたこの一年間の事を思い返すと、ここで喧嘩別れする事は惜しい気がしたのでハルトも、

「俺は最初は試合のつもりで戦っていたが、最終的には無意識にお前を殺しにかかっていた。最後の一撃がコックピットの近くに直撃した事がいい証拠だ。しかも、俺もレティキュレートを動かしているのはお前じゃないかと疑念を抱いていたにもかかわらずその一撃を放っている。俺の方こそ謝るべきだろう、申し訳なかった」

 と謝罪し、重ねて、

「これからも友達でいてくれるか?」

 と言った。

「これからもよろしくね」

 隠していた秘密を共有する関係になって親近感がより増したからか、シライシは今までよりもさらに優しい口調でそう答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ