VSレティック・スパイダー
先手必勝。
そう考えたハルトは相手が次の行動に移る前にスラスターを使ってヤマカガシを飛翔させ、滞空しているレティック・スパイダーへと殴りかかったが、あろう事か相手は放たれた拳を足場にしてさらに上へと飛び、ヤマカガシが踏み台にされた衝撃でバランスを崩している所にかかと落としを叩き込んで来た。
流石にこれはハルトにはどうにもならず、ヤマカガシは地面へと叩き落とされる。
一応彼は叩き落とされつつも、スラスターで落下位置を調整して先程タイガーキールバックから蹴り落とした槍を回収したため満更無駄な攻撃にはならなかったが、今の一連の流れで自分の腕はまだレティック・スパイダーの搭乗者、シライシ程ではない事を察してしまった。
(リミッター解除を使うべきか…)
戦い初めてまだ一分も経っていないが彼はそう思った。実際、それは悪い選択肢ではないだろう。技術力の差異を機体の能力のゴリ押しで解消する事が期待できる上に、先程は長時間戦っていたわけではないので、あと五十分はリミッターを解除した状態でいられるはずである。
ただ、以前よりはだいぶマシになったとはいえ、戦っているうちにリミッター解除の反動でヤマカガシもどんどん壊れていくという欠点は変わっていないので解除した状態で戦闘していられる時間は実際のところ五分程度であろう。
(そんな短時間で倒せるか?)
そう考えるとなかなか踏ん切りがつかなかった。
当然、相手は彼がそれを決めるのを待ってはくれず、レーザーとレールガンで攻撃してくる。
彼はそれをなんとか回避しようとするが、結構な頻度で被弾した。
シライシはまずレールガンを発射してそれをヤマカガシに回避させ、回避する軌道を読んでレーザーを撃つという戦法を用いたのである。それも、撃つ順番を逆にしてみたり、リロード中はそれらの武器での攻撃の代わりに近くにあったものを投げつけてみたりとたまに絡め手を使って来るのでタチが悪い。
それらの武器の威力は以前よりも上がっており、レーザーはサイドワインダーの半分くらいの威力に、レールガンは一撃でヤマカガシの装甲にヒビを入れる程の威力の弾を発射できるレベルになっている。
結果、ヤマカガシはあちこち装甲が溶けたり砕けたりしてしまった。
(一旦隠れてやり過ごそう)
ハルトはそう考えると壊れたサーマルガンをレティック・スパイダー目掛けて投げつけるように操作し、相手が回避行動を取っている隙にスラスターを使って機体を一気に後退させ、工場の焼け跡に機体を隠した。
シライシは、
「半年前、やあやあ我こそはみたいな事を勇ましく言っていたけど、逃げているだけじゃ私は倒せないよ」
と外部スピーカーを使って言いながら、レティック・スパイダーをヤマカガシへと近づけて来る。レーダーで場所は分かってもハルトが何を考えているかまでは分からないはずなので、普通なら警戒してゆっくり近づいて来そうなものだったが、敵機の足取りにそういった様子は見られない。
すると、レティック・スパイダーは壁を隔てて数メートル先で止まった。
(もしかしたら向こうでレールガンを構えているのかもしれないが、隠れている間にいいものを二つ見つけた。これを使ってみよう)
ハルトはそう考えると、ヤマカガシのアームを動かして、近くにあったフォークリフトの残骸を壁の向こうへと投げてみた。すると、すぐにそれはレールガンで撃ち抜かれる。
「反応が速すぎるってのも考えものだな」
そう言いつつ彼は、近くにあった絡繰人形の残骸を盾にしつつレティックスパイダー目掛けて機体を飛び出させた。レールガンを無駄撃ちさせたので、使ってくるとするならレーザーだが、この残骸を焼き切るまでにどう考えても数秒間照射し続ける必要があるだろう。それだけあれば、槍を突き出すための隙を作るのには充分な時間である。
突っ込んでいる間、相手がレーザーを全く照射して来なかったり、焼け跡内で拾ったのかいつの間にか長剣の様な武器を持っていたりと想定外の事がいくつかあったが、何にせよ充分に近づく事が出来たためヤマカガシは盾にしていた残骸を捨てつつ敵機目掛けて槍を突き出した。
穂先はレティック・スパイダーの装甲に当たるという事はなく、そこをすり抜けた。
直後、何もない右斜め前の虚空からレールガンによる射撃を受けてヤマカガシは頭部を吹き飛ばされ、その虚空から突如現れたレティック・スパイダーの実体によって左腕を切り落とされた。
(こいつ、関節をピンポイントで攻撃して来やがった)
相手がスパイダーテイルと同じ機能を使って来た事にも驚いたが、まずその斬撃の正確さにハルトは驚いた。
ただ、彼は怯んだわけではなかったので、すかさず槍を薙いで相手を振り払うと実体目掛けて再度槍を突き出した。
しかし、刺突の途中、レティック・スパイダーは長剣を旋回させてヤマカガシの槍を巻き上げて空中へと弾き飛ばしてしまった。
(剣を持たせたままはまずい)
そう思ったハルトは止む無くリミッター解除のボタンを押して、再びヤマカガシを突撃させて行く。
ヤマカガシのスピードは先程とは比べ物にならない程速くなったが、
「ようやく本気を出したみたいだね、その機能が見たかったんだよ」
と、相手は余裕綽々であった。
ただ、ハルトも何も考えずに突っ込んでいたわけではないので、
「舐めるなよ、こちとらあんたのその小賢しい機能の対策はすでに思いついてんだよ」
と言うと、ヤマカガシに地面に散乱している残骸をレティック・スパイダーの方向へと蹴らせた。幻影を見せる機能は機体が実際に消えるわけではなく、あくまで場所を誤認させるための機能なので、拡散して飛んで行く残骸をエコーロケーションの様に使おうという寸法である。
これによってハルトはレティック・スパイダーの正確な位置を知る事が出来た上に、残骸がシライシの視界を奪ったということもあって、相手に充分に近づく事が出来た。
ここまで接近してしまえばいくらレティック・スパイダーであってもリミッターを解除したヤマカガシには対応する事は出来ない。
ハルトは斬撃が繰り出される前にヤマカガシの拳で相手の左肩を破壊し、剣を落とさせた。
この好機を逃す手はない。
すぐさま相手が落とした長剣をキャッチし左脚を切りにかかった。
相手がスラスターを使って後退したためその斬撃はやや浅く、それを切断するまでには至らなかったが、かなり鈍らせる事は出来た。
ヤマカガシは長剣で先程捨てた絡繰人形の残骸を突き刺し、それを再び盾にして後退するレティック・スパイダーへと接近して行く。
スパイダーテイルとは違って幻影を見せる機能を継続的には使えないのか、相手はレールガンとレーザーで残骸の盾がカバー仕切れていない箇所を狙って攻撃し、勢いを止めようとしてくるが、それでもヤマカガシはスピードを緩めなかった。
この時、
「すごく強くなったね」
とシライシがやや余裕がなさそうにそう呟いたが、ハルトは必死だったので聞こえていない。
ヤマカガシはある程度接近すると盾にしていた残骸を捨てて長剣で突きにかかった。
レティック・スパイダーは左脚が破損して上手く動かなくなっている上に、この戦闘と何より長距離の航行で推進剤をかなり消費していたので回避はろくに出来ない。そのため、無事な方の脚でヤマカガシの膝関節に蹴りを入れつつ、右手で防御した。
が、蹴りによってヤマカガシの左脚を破壊する事は出来たものの、リミッター解除のパワーから放たれる刺突は防ぎ切る事は出来ず、長剣はレールガンと右腕を貫通して胸部へと突き刺さりそのまま背部へと突き抜けていった。それでも、コックピットはギリギリ無事であり、機能停止まで数秒間は猶予があったためレーザーを使ってヤマカガシへと攻撃を加えた。
ヤマカガシはこの戦闘で蓄積されたダメージとリミッター解除によって、すでにボロボロの状態である。そのため、至近距離で放たれたレーザーなどに耐える事は出来ず、こちらも腹部を貫かれた。
さらに、レーザーはそこを貫通した後スラスターに直撃し、そこを出火させたので、もしかしたら推進剤に引火して爆散するかもしれないという状態になった。ヤマカガシのコックピットブロック以外の部分の機能は今のレーザーで死んでしまったため、スラスターユニットをパージして、それを海の方へ投げるなどということは出来ない。なので、ハルトはヤマカガシを諦めざるを得なくなった。
(ここまでか…)
そう思うとハルトはハッチを開いて大声で、
「そっちのあんた、無事ならこっちに来い! 俺の機体もあんたの機体も爆発するかもしれないからヤマカガシの脱出機能を使って脱出するぞ。こっちはコックピットだけは生きているから脱出機能はまだ使える」
とレティック・スパイダーに呼びかけた。すると、声が届いていたらしく、呼びかけに応じてシライシが出てきた。
ハルトは何となく相手の正体に気づいていたが、実際に見るのはこれが初めてだったので少し戸惑った。
数秒後、彼女がヤマカガシのコックピットへと入ってきた。
コックピットは一人乗りを想定して作られているためかなり狭く、当然彼女が座れるスペースなどないので仕方なく彼女はハルトの上に座る。
「あれに乗っていたのが私だと知って怒らないの?」
彼女はその状態で彼に尋ねたが、彼は現在の状態のシュールさと愛機の最期の瞬間がもうすぐそこまで来ているかもしれないのに何をやっているんだという気持ちでむしろ悲しい思いがした。
結局、
「話は学校で聞く」
と言ってレバーを引き脱出した。
その後、ヤマカガシのコックピットブロックはパラシュートを開いて倉庫の近くに落ちた。
それとほぼ同時にヤマカガシは爆散し、レティック・スパイダーもそれに巻き込まれ爆発した。
二人はコックピットを出るとトレーラーへと向かい、壊された荷台を外すと工場へ向けてそれを走らせて行った。
ショウゾウは気絶したままの状態だったので運転はハルトが担当した。
彼は無免許且つ車の運転は初めてだったが、車の運転は絡繰人形程難しくはなかったので初めてでも特に問題はなかった。
バックミラーに映る黒煙へと
(すまない、そしてありがとう)
と思いながらハルトはショウゾウの工場へと向けて車を進めて行く。
シライシは帰るまでの間始終無言だった。
工場に戻るまでの間、検問などが無かったため三人はすんなりと帰る事が出来たが、爆音と黒煙さらにはトレーラーの荷台など様々な証拠を残して来てしまった。故に、流石に警察が来るのではないかとハルトは考えていたが結局いつまで経っても来る事は無かった。
一応、翌日に原因不明の爆発について新聞に小さく載ってはいたが、他には特に何も無い。
流石におかしいと思ったハルトは冬休みの最終日にカミシモ重工工場跡の近くを散歩する振りをして様子を見てみた。
焼け後の片付けは相変わらず終わっておらず、絡繰人形の残骸はまだかなり残っていたが、ヤマカガシとレティック・スパイダー、さらにはトレーラーの荷台や脱出に使ったコックピットとそれに付いていたパラシュートは忽然と消えていた。




