三つ巴 カナヤ、イサミ、タナカとタイガーキールバック
カナヤが友人二人にヨルムンゴールドの説明をした三日後、釈放されたという残りの二人、ヨコヤマとタジマという仲間が彼のマンションへと尋ねて来たので、彼はヤマカガシを鹵獲するための作戦を四人に説明する事にした。彼は今回の作戦を決行するにあたって埋蔵金発掘イベントに参加していたマツシマ・ゴンゾウ、つまりマツナガ・ショウゾウの事について獄中のコバヤシ・チョコメロディを訪ねてみたり、最近起こった絡繰人形関係の事件現場へ行ってみたりして調査しておりショウゾウがこの数ヶ月どんなことをしていたのかかなり把握している。
「奴は自警団への通報を傍受しているらしく、この周辺の絡繰人形に関する事件は自警団が駆けつける前に何故か解決しているという事が増えたらしい。今回はその通信を傍受しているというところに着目した作戦だ」
とカナヤは切り出すと、作戦の概要を説明し始めた。話を纏めると、まずジャミング機能を新設したリンガルスⅡをトレーラーで自警団の本部周辺まで持って行き、一時的に通報が入らない状況を作りつつ、その隙にデマの情報をショウゾウに掴ませる。次に、カナヤ、イサミ、タナカは工場跡でヤマカガシを迎え撃ち、その間ヨコヤマとタジマはジャミング機能を継続的に使用しつつ周囲の警戒を行う。その後、無事ヤマカガシを無力化できたら搭乗者を殺害して機体を奪うというのが大まかな作戦の流れになるとの事である。
一応成功する前提で話は進められたが、仮に負けて撤退する事になったとしても、今回新しく導入した競技用の機体とヤマカガシの性能差を比較するためのデータを得る事ができるため彼等が完全に損をするという事は今回に限っては無かった。
一通りカナヤが説明し終わると、
「自警団は流石に通信妨害に気づくのでは? それに、通信を妨害できても流石に戦闘の音は消せないので工場跡周辺に住んでいる民間人に目撃されるのでは?」
「毎回思うんだがお前の立てる作戦って割と穴だらけだよな」
と、イサミとタナカから疑問の声が挙がった。
それらにカナヤは
「作戦がガバガバなのは否定しないが、失敗した事は少ないだろう。それに通信妨害や工場跡周辺の事についてはたぶん大丈夫だ。自警団についても調査したんだが、連中は絡繰人形以外の機械の事についてはからっきしだから通信妨害については気づかんだろうし、工場跡は未だに片付けが進んでいないから有毒物質が出ているという噂が立っていて普段は誰もあそこには近寄らない。解体作業も冬休みらしく今はストップしているしな。他に何かあるか?」
と答えた。正直、確実とは言えない曖昧な回答だったがイサミとタナカは、
「特にはありませんよ。先程質問したのもなんとなくで、正直、最新鋭の機体を動かせればなんでも構いません」
「俺も無ぇよ。強いて言うなら敵の機体を倒した後の殺しと死体の処分は俺にやらせてくれ、知人の知人がそういう事に詳しいんだ」
と納得した。
一方、ヨコヤマとタジマはやや不安だったが、彼等は一緒に釈放された他の二人とは違って帰る場所が無かったため、ここへと戻って来ている。ここで彼等が参加したく無い旨を伝えればカナヤ、イサミ、タナカの三人は、巻き込んでしまって悪かったなと言ってしばらく生活に困らない額の金銭を渡しつつ作戦のメンバーから二人を外してくれるだろうが、それでは完全に居場所を失ってしまう。
そのため、
「俺も異存はないよ」
「執行猶予中だからな、バレないように頑張るさ」
と言わざるを得なかった。
作戦はこの翌日に決行される事になる。
翌日、ヨコヤマを自警団の本部付近へ配置してジャミングを始めさせ、
「密輸された最新鋭の競技用の機体が暴走している。場所はカミシモ重工の工場跡地。目的は不明だが、俺の私見だと何か都合の悪い資料を消去するためな気がする。敵は少数だが我々の絡繰人形よりは遥かに性能が良いとのことだ、多人数で制圧した方がいいだろう」
と、カナヤが言った後、
「了解、人数を揃えたらすぐにそこへと向かう。あと私見を混ぜんなよ」
と、タナカが答えて作戦は始まった。
ちなみにイサミはすでに工場跡に先行しており、タジマはすでにそこから少し離れた海中へ向かってリンガルスⅡで潜行している。
「敵に動きがあればカノンから連絡があるだろう、俺達も行こうか」
「ああ」
と軽く言葉を交わした後、二人は部屋から出てマンションの近くにあらかじめ停車させておいたトレーラーへと向かい、そのままそれに乗って工場跡へと向かって行った。
ショウゾウの工場よりもカナヤのマンションの方がカミシモ重工の工場跡には近いため、二人はターゲットよりも早くそこに到着した。
到着するなり二人は先に到着していたイサミと合流して、機体を工場の焼け跡の中に隠してヤマカガシが到着するのを待った。
しばらくすると一台のトレーラーが工場の敷地へと入って来た。カナヤが確認したところそのトレーラーはショウゾウの所持しているものに間違い無い。
「簡単に逃げられないように今からあのトレーラーを破壊する。二人はそのまま待機していてくれ」
カナヤはそう言うと待機させていた競技用の機体、タイガーキールバックを起動させて、近くにあったフォークリフトの残骸をそれに持たせ、機体を焼け跡から飛び出させた。
飛び出した直後フォークリフトの残骸を倉庫跡の陰にいるトレーラー目掛けて投げつけ、直撃したのを確認した後、すぐさま焼け跡へと戻って行く。戻った後、
「よし、しばらくここで待つとしよう。奴はもうすぐ接近してくるはずだ」
と余裕を持って言った。
カナヤは既にショウゾウが自身の甥をヤマカガシに乗せている事について知っており、その甥の事についても事前に少し調べていた。
「俺の調べによればヤマカガシの搭乗者は軍用機相手でも突っかかっていく勇敢な人物のようだ。撤退する時も相手の戦力を削って隙を作ってから退却するというスタイルを好んでいる。今回もそれでくるだろう」
というのが彼の目論見である。しかし、ヤマカガシは立ち上がりはしたもののその場を離れなかった。
「姿を見せろ!」
と言っている所を見るにトレーラーを守りながら戦うつもりなのかもしれない。
これ以上長引かせてもしょうがないのでカナヤは
「仕方ない、カノンとサブロウは左右から回り込んでくれ。俺は奴の正面から進んで注意を引きつける」
と二人に言った。
するとタナカが
「回り込んでトレーラーを人質にするんだな?」
と言った。
(いいかもしれない)
カナヤはそう思ったが、
「そんな事をしたら私は向こうに着きますよ。せっかくの最新鋭機なので本当は一対一でどちらかが壊れるまで戦いたいのですが、今もそれを我慢して協力しているんですからね」
とイサミが言ったので人質を取るという方針は無しになった。
その後すぐ散会しイサミとタナカは左右に回り込みながら、カナヤは外部スピーカーでヤマカガシの注意を引きつけつつ正面から近づいていく。
すると、
「また、あんたらか」
という声とともにヤマカガシが射撃して来た。
カナヤはタイガーキールバックを左右に動かして弾を避けながら接近して行く。途中数発被弾したが、威力が抑えられているのか彼が乗っている機体にはあまりダメージが無く、コックピットもほとんど振動しなかった。その後、繰り出された槍での刺突もギリギリいなす事ができたので彼はなんとか間合いへと入り格闘による攻撃を繰り出した。
その後も殴る蹴るなどの暴行を加え続けていたが、ヤマカガシが槍を離してからやや状況が変化し始めた。
ヤマカガシがタイガーキールバックの攻撃に対応し始めたのである。
タイガーキールバックという絡繰人形は、ショウゾウから定期的に送られて来るヤマカガシのデータを元に海外の企業が造った機体であるとカナヤは聞いている。そのため、フォーミュラーカーのデータを元に造られた市販車のような位置づけなので、ヤマカガシに性能で劣る事は仕方ないが、相手が彼の攻撃に対応し始めたのは性能差だけが原因ではない。
(夏場初めて相対した時よりも遥かに腕が上がっている)
のである。
(このまま殴り合っていたら性能が劣るこちらが負ける)
そう判断したカナヤは仲間二人に、
「そろそろ移動し終わっただろ、早速で悪いんだがはさみ打ちを仕掛けてくれ」
と通信した。
すぐさま左右からタイガーキールバック二機が飛び出して来てヤマカガシを殴り倒したが、ヤマカガシは倒れた状態のままスラスターを使って三機から距離を取り、その後、先程よりも高威力の弾丸を発砲して来た。
カナヤとイサミは弾を躱したが、タナカの機体は膝の関節付近に弾を受けて動きが止まった。
これを見たヤマカガシは三人の中でタナカが一番仕留めやすいと判断したらしく、カナヤとイサミの機体を牽制しつつ、タナカ機へと急速に接近して行く。
(サブロウが人質に取られたら逃げられてしまう可能性がある。なんとかしなくては)
カナヤはそう考えてはいるが、思いの外ヤマカガシの射撃は正確であり避けるのが精一杯である。
カナヤが必死に機体を動かして弾を避けていると、
「私に敵の注意を向けるので、その隙にカケルはサブロウを救出してください」
という通信がイサミから彼に入り、彼女は凄まじい勢いでヤマカガシの方向へと機体を走らせて行った。
その際、敵の放つ弾は全弾回避しており、さらに敵が落とした槍を拾うという余裕も見せている。
それを脅威に感じたのか、ヤマカガシは一旦カナヤとイサミへの射撃を中断し、動きが鈍っているタナカの機体へと数発射撃して完全に機能を停止させた。彼を人質にするつもりかもしれない。
しかし、牽制がなくなった事によってイサミの機体はさらに加速しており、最後の一発を敵がタナカ機へと放った頃には彼女はその目と鼻の先まで接近し終わっていた。
結果、彼女は拾った槍を使ってヤマカガシの射撃武器を破壊する事に成功したが、直後、急激に反応速度を上昇させたヤマカガシにその槍を蹴り飛ばされたためその衝撃で彼女の機体は転倒した。ただ、ヤマカガシも武器を破壊されてバランスを崩した状態で蹴りを放ったので、彼女の機体とほぼ同時に転倒している。
その隙をついてカナヤは倒れているタナカの機体へと自分の機体を走らせて、それを引き起こした。
(一機が継戦不可だが二機はまだ戦えるな。さて、どうするべきか)
カナヤが進退を考えているとタジマから
「凄まじいスピードでそっちに向かっている絡繰人形がいるぞ。飛行機能が備わっている所を見ると軍用機かもしれない」
という通信が入った。
「どれくらいの高さを飛んでいるか分かるか?」
「かなり低い、海面からの距離は五十メートルも無いと思うぞ」
その通信を受けて彼は、
「一旦撤退しよう」
とイサミとタナカに言った。
その後すぐ、タナカ機を担いだカナヤ機と、体勢を立て直したイサミ機は海へと飛び込んだ。タイガーキールバックは元がヤマカガシなので、機体に海水槽が設けられておりリンガルスⅡほどではないが、海中でも行動する事ができる。
(相打ちになれば両方の残骸が手に入るし、一方が勝ったとしても勝った方はそれなりのダメージを負うだろう。そこを俺とカノンで倒せば結局両方の残骸が手に入る)
退却しながらカナヤはそう思った。
彼には接近して来る機体の正体が何となく分かったのである。警察予備隊では飛行機能を持った絡繰人形は今のところ採用しておらず、仮にあったとしてもそこまで低空飛行はしないので軍用機ではない。だとしたら、サイドワインダーやスパイダーテイルの残骸を修理して使っている民間人であろう。その機体もヤマカガシを狙っているのかもしれない。
「運が俺にも向いてきているのかもな」
接近して来る機体の表示をモニターで確認しながら彼はそう呟いた。




