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三つ巴 ハルトとヤマカガシ

 ここ数ヶ月でショウゾウの諸々の技術はかなり向上しており、今では自警団へと入る通信を傍受する事くらいなど容易くなっている。

 そのためハルトの学校が冬休みに入ってからは、自警団よりも早く事件現場へとトレーラーで駆けつけ、暴走する民間機を速攻で無力化し、自警団が駆けつけてくる前には撤収するという事を度々繰り返していた。

 その冬休みの終わり頃の昼食時、

「密輸された最新鋭の競技用の機体が暴走している。場所はカミシモ重工の工場跡地。目的は不明だが、俺の私見だと何か都合の悪い資料を消去するためな気がする。敵は少数だが我々の絡繰人形よりは遥かに性能が良いとのことだ、多人数で制圧した方がいいだろう」

「了解、人数を揃えたらすぐにそこへと向かう。あと私見を混ぜんなよ」

 という通信をショウゾウが傍受した。

 相手は新型機ではあるが競技用とのことなので、戦ったとしても軍用機に近い物を駆っているハルトが危険に晒される事はない。さらに、自警団は人手をかき集めてから現場へと向かうとのことなので到着には少し時間を要し見つける心配も低い。一応、彼もヤマカガシのデータを競技用として一部他国にあるオート・エト・ロタイ社という会社に送っており、それを参考にしたタイガーキールバックという機体を少し前に一部先行して発売したという情報を開発した会社から得ていたので、もしかしたらそれかもしれないという不安もあったが、それは少数生産、且つ高額なので可能性としてはかなり低いだろう。仮にそれだったとしても、彼の元に送られてきたタイガーキールバックのスペックを記した資料を見る限り、ヤマカガシの方がスペックが上なのでハルトなら充分対応できるはずである。

 そのため、ヤマカガシのデータを収集したいショウゾウにとってはこれ以上ない事件であった。が、彼が絡繰人形を操縦するわけではないので一存では決められない。

「どうする、行くか?」

 傍で昼食の焼きそばを食べているハルトにショウゾウは尋ねた。

「俺は行っても大丈夫っすけど、叔父さんの仕事の方は大丈夫なんすか?」

「金属加工と絡繰人形なら絡繰人形が優先だ。そっちの方が楽しいし、尚且つ儲けが出る」

「なら、すぐに行きましょう」

 焼きそばの最後の一口を食べ終わると、ハルトは工場へと向かって行った。ショウゾウもゆっくりと彼に追随する。

 ショウゾウが工場に到着する頃には、ハルトはすでにヤマカガシを格納庫から出してトレーラーに移動させている最中だった。

 トレーラーにヤマカガシが積み込まれた事を確認した後、

(俺よりもあいつの方が乗り気なんじゃねぇか?)

 などと思いながら、ショウゾウはカミシモ重工工場跡地へとトレーラーを向かわせた。


 二人は工場跡地に到着したものの、暴走している競技用の機体というものはパッっと見何処にも見当たらなかった。

 ヤマカガシのレーダーもそういったものは捉えていないため、

「場所間違ってないっすよね?」

 と、ハルトがショウゾウに尋ねる。

「ああ、間違いないはずだ」

「しかし、レーダーにも何も反応はないっすよ」

「何らかの方法で感知できないようにしているのかもしれん。このまま倉庫の陰に隠れたままもう少し様子を見よう」

 と二人が相談していると、突然レーダーに反応が出始めた。

 モニターに位置情報が表示された絡繰人形は三機であり、工場の敷地内に既に来ていたらしい。

 直後、トレーラーの荷台にフォークリフトが飛んできた。

 ヤマカガシのコクピットは衝撃が感じにくいようになっているので、ハルトは問題なかったが、ショウゾウはトレーラーのドアに頭を強打して気絶した。

(何かの罠か!?)

 そう思ったハルトは急遽機体を立ち上がらせた。

 レーダーの反応はまだ確認できるが、敵はフォークリフトを投げつけた後、再度工場の焼け跡に隠れたらしくまだ目視はできていない。

「姿を見せろ!」

 と、ハルトは外部スピーカーで呼びかけた。本来なら彼は自ら出向いて敵を探し出し、攻撃を加えるという行動を取りたかったが、敵はすでにトレーラーの位置を把握している。そのため、彼がここを離れたら敵はトレーラーを狙って攻撃を仕掛けてくるかもしれなかったので安易に動くわけにはいかなかった。

 ハルトがヤマカガシにサーマルガンをいつでも撃てるように準備させつつ、周囲の警戒を慎重に行い始めると、

「どうやら、上手く騙されてくれたようだなマツシマ・ゴンゾウ。貴様は最近、自警団の通信を傍受して奴等より先に事件を解決していたようだが、あまり目立った動きをしていると今回のように偽の情報に踊らされて罠にかかるなんて事があるかもしれんぞ」

 という声が徐々に近づいて来た。口調から察するに以前、グリーンパイソンを盗んだ男であろう。

「また、あんたらか」

 ハルトはそう返すと、倉庫の陰からヤマカガシを飛び出させ、サーマルガンを放った。

 今回の敵が用意した機体はリンガルスⅡなどより遥かに速くて硬く、サーマルガンの弾は三発中二発が躱され、一発は命中こそしたが、大したダメージにはならなかったようである。

 ハルトはその性能にも驚いたが、一番驚いたのはその競技用の機体の外観であった。

 その姿は、サーマルガンやスラスターユニットなどの追加装備が増える前のヤマカガシにかなり似ている。


「何ですか、あの機体は!?」

 と、接近して来る敵機にサーマルガンを放ちながらハルトはショウゾウに尋ねたが、返事はない。彼はここで初めてショウゾウが気絶している事に気がついた。

(これはまずいな、サイドワインダー戦以来のピンチかもしれん)

 ハルトはそう思ったが、それどころかそれ以上に不利な状況かもしれなかった。

 今回はサイドワインダーやスパイダーテイルのような戦闘用の機体が相手ではないが、その二件の前例とは違って搭乗者の腕が立つ。その腕利きの搭乗者が乗る新型機を、トレーラーを守りながら三機も相手にしなければならないのである。

 が、不利を嘆いても今更どうしようもないので、『是非もなし』の精神で戦う事にした。

 ただ、現在の彼の腕ではサーマルガンは三発中一発くらいしか当たらないので、こうなっては接近戦しかない。

 ハルトはヤマカガシに槍を持たせると、スラスターを使って接近して来る敵に急接近し、それを突き出した。

 が、その突きはあらかじめ予想されていたのか腕を使っていなされてしまい、その後、間合いに入られて拳打や肘打ちで数発攻撃された。

 ここまで接近されてしまっては槍ではどうしようもないので、ハルトのヤマカガシはそれを手放すと相手と同じく徒手空拳で応戦する。

 この判断は功を奏した。

 ここまで接近しての殴り合いになってしまえば、操縦技術の差などあまり関係なくなってしまい、どちらかといえば機体の防御力や反応速度などの方が重要になってくる。

 ヤマカガシの性能は敵の競技用の機体をやや上回っているらしく、それが操縦技術の差を埋めるような形になって、徐々に互角の戦いをし始めた。

 しかし、敵は一機ではなく三機である。

 ハルトが目の前の敵に引きつけられている間に左右に回り込んでいた二機が、突然急接近して来て、はさみ打ちをする形でヤマカガシを殴り倒した。

 ヤマカガシは倒れたままの状態でスラスターを噴射させて三機から距離を取り、ある程度離れたら三機目掛けて高威力モードでサーマルガンの弾を数発放った。

 前方と右側にいた二機には躱されてしまったが、左の機体には一発当たった。

 命中した箇所は運良く膝の関節付近であり、左の機体の挙動はかなり鈍くなる。

(狙うなら左だな、他の二機と比べてやや弱い)

 そう決めると、ハルトはサーマルガンで他の二機を牽制しながら左の機体へと近づいて行く。

 しかし、前方の機体はある程度牽制出来ているが、右の機体は全弾避けながら尚且つ落ちていた槍を拾ってヤマカガシへと急接近して来る。

(何だ、こいつは…)

 少し恐ろしくなったハルトは牽制に使っている弾を全弾左の機体へと撃ち込んで機能を停止させ、早々と人質を取る作戦にした。

 目論見通り、高威力モードのサーマルガンから放たれた六発の弾は見事に未だ膝をついたままの状態の左の機体を半壊させ、機能を停止させるに至ったが、最後の一発を放つ頃には既に右から接近していた機体はヤマカガシの目と鼻の先まで接近していた。こうなっては人質を取る暇はない。

「強い」

 ハルトが感想を洩らすと同時に、接近して来た機体の槍によってサーマルガンを破壊された。ただ、このまま槍をこの敵に持たせたままだと非常にまずいので、彼の機体も一時的にリミッターを解除して槍の柄目掛けて蹴りを放ちそれを弾き飛ばしている。

 ヤマカガシは妙な体勢で蹴りを放ったため転倒し、突きを放ってきた機体も槍を弾かれた衝撃で倒れたため、現在すぐに動ける機体は正面にいた盗賊のリーダーらしき男が駆る機体だけだが、彼は左で倒れていた仲間を引き起こしていたため攻撃はして来なかった。

 その後、その三機は二機がほぼ無傷であるにも関わらず継戦はせず、海へと飛び込むとそのまま撤退して行った。

(また負けたのか…)

 ハルトはそう思わざるを得ない。

 一機には一応勝利を収めたと言って良かったかもしれないが、それにしても運によるところが強い。さらに他の二機、特に右から攻めて来ていた機体にはほぼ手も足も出なかったと言っていいだろう。何より敵はハルトの一番の弱点になり得るトレーラーには戦闘前にフォークリフトを投げつけて壊しはしたが、戦闘中は一切手を出していない。

 彼が意気消沈としていると、モニターに新たな反応があった。

 離れて行く三機とは逆に、高速で接近して来る一機の絡繰人形の反応である。

 その機体、レティック・スパイダーは数十秒後にヤマカガシがいる地点の上空へと到着した。それは元はレティキュレートという機体であり、ハルトも何度か面識があったが、サイドワインダーのパーツの他にスパイダーテイルのパーツもふんだんに使って修理と改造が施されているため、初見の時とはほぼ別の機体と言っていいだろう。実際、ハルトも一瞬何が来たのか理解できなかったが、微かにレティキュレートの面影があったため、その改修機だとかろうじて判断出来ている。

 そのレティック・スパイダーの外部スピーカーから

「あんたの機体のパーツを貰い受けに来たよ」

 という声がハルトの耳に聞こえて来た。

「盗賊が撤退した後に新たな強敵か。場所は違うが何時ぞやの再現だな」

 ハルトは小声で言いながら苦笑した。笑ってはいるが無論余裕などない。

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