放火魔・職人・貧乏人
ある地方都市のマンションの中階層の一室、
「十人の内、四人は執行猶予があるみたいですよ」
と仲間に報告する声があった。
声の主はイサミ・カノンという二十代後半の女性で、呼びかけられている者はカナヤ・カケルという人物である。
「そいつらは俺達の事については何か吐かなかったのか?」
カナヤがイサミに尋ねた。
「言っていないそうです。あれからしばらく経っているのに警察がここへ訪れないという事は事実なのでしょう」
彼女は事務的にそう答えた。
「そいつらはここに戻って来るって?」
カナヤは再度質問する。
「二人は降りるそうですが、後の二人は戻って来るそうです。三日後に此処に来るように既に言ってあります」
「そうか。その二人には君と俺のリンガルスⅡを回そう」
二人がそんな会話をしていると、
「そんな業務的なやりとりはいいから、手っ取り早く俺とカノンが久しぶりに此処に呼ばれた理由について話してくれよ。俺はこれから地方に行ってキャンプファイアーでもやろうかと思ってたのにわざわざ取り止めて来たんだぜ」
と、同室に居たタナカ・サブロウという男がタブレット端末で火災の動画を見ながら会話に混ざって来た。彼はイヤホンをつけてタブレットの音声を聞いていたが、どうやら周囲の会話は聞こえていたらしい。
彼の言うキャンプファイアーとは放火の事である。
彼は生来、火を見ると心が震える質であり、高校生の頃から周りが十八禁動画を見ている中、彼は同様の用途で焚き火や山火事の動画を視聴していたが、最近ではそれがさらにエスカレートし、過疎地域に行って空き家を放火するまでになっている。田舎町というのは監視カメラや警察、周りの目の絶対数が少ない上に、彼は足がつかないよう工夫しながら放火のための道具を用意しているため今まで一度も捕まっていない。
そういった具合なので彼がカナヤ、イサミとつるんでいるのも、主に爆発する絡繰人形が見たいからという理由からであるが、無論、これはろくな趣味でないという事は彼も理解はしているので二人には秘密にしている。
カナヤはタナカの問いに対して、
「そうだな、君達には先に言っておこう」
と、言うとその後一呼吸置き、
「以前、港で戦った機体の奪取を再度試みる。それにあたって俺と君達は他国で開発された最新鋭の競技用の機体に、釈放された二人にはカノンと俺が使っていたリンガルスⅡに乗って貰おうと思ってね」
と、言った。
「その機体ってのはどういった物なんだ?」
「外観や挙動は目的の絡繰人形にかなり似ている。もしかしたら材質や性能なんかも同じかもしれない」
「なら、この前の機体を狙わなくてもいいんじゃないか? 同じ性能の機体が輸入できる様になったんだろ?」
「あれじゃあ駄目なんだ、いい機会だから来てくれ。二人に見せたい物がある」
カナヤはそう言うと自室を後にした。イサミとタナカも言われた通り彼に付いていく。
マンションの立体駐車場へと到着すると、三人は車を出して以前埋蔵金のイベントが行われた山の近くの山へと移動した。
この山はカナヤが密輸した絡繰人形を隠す為に造った施設であり、イサミとタナカも何度か来た事がある。
「此処にさっき言ってた競技用の機体ってのがあるのか?」
タナカはカナヤに尋ねた。
「ああ、ある。だが、本当に見せたい物は普段使っている格納庫の地下にあるんだ。今からそこへエレベーターを使って行く」
そう言うとカナヤは鍵を使ってエレベーターを起動させ、二人をそれに乗せた後、地下へと降りていった。
数十秒後、最下層に到着した。
三人がエレベーターから降りて少し進むと、その先には一機の絡繰人形が安置されていた。
機体はリンガルスⅡ等よりは遥かに大きく、骸骨を連想させるような意匠をしている。
「この機体は先史時代に作られた物らしく、当然記録には残っていない。当然機体の名前も分からないが、絡繰人形には蛇の名前を付けるのが一般的という事と、発見者である俺の目的を組み合わせてヨルムンゴールドと呼んでいる」
カナヤはそう軽く説明した。
「動くのですか、これは?」
イサミがカナヤに尋ねる。
「一応、動く。が、本来の性能には程遠いらしい。通常、機体がどこも破損していなければスクリーンには緑で表示される筈なんだが、現在の技術でどんなに修理してもオレンジ色で表示される。要するに常に中破した状態なんだ」
すると、
「この機体が作られた頃はオレンジが正常な状態を表していたのでは?」
「いや、コックピットは動かなかったから他の機体の物を複座式にして移植したんだ。だから表示や動かし方は現代の絡繰人形に準拠している」
二人が会話をしていると、
「いろんな機体のパーツを奪ってそれをより完全な状態にしたいって事は聞かなくても何となく分かったが、何のためにそんな事をしようとしたんだ?」
と、タナカが話に入ってきた。
「今でこそあのマンションやこんな施設を持っているが、俺は何度か事業に失敗している。その際に競争なんてものはしない方が自然だという考えが俺の中で芽生えたんだ。だから俺はこれを使って文明を片っ端から破壊したい。格差という概念が発生したのは貯蓄という概念が出来てからであり、狩猟や採集が主だった時代はそんなものは無かったらしいんだ。俺はそこまで時計の針を戻したい。今の話を聞いても二人は俺に協力してくれるか?」
そうカナヤは言った。
イサミには彼の考えが悪である上に、仮に都市片っ端から破壊できたとしても彼の考えは達成されない事を理解できている。
故に、彼の計画も本来なら止めるべきだということも分かっていたが、それ以上にヨルムンゴールドの操縦をしてみたかった。
彼女は三度の飯より絡繰人形が好きであり、常にそれをどう動かすかの一事のみを追求していた。カナヤやタナカとつるんでいる理由は彼らとは古くからの友人であるという理由もあったが、それ以上に彼等と一緒にいれば様々な絡繰人形に搭乗できるという理由もある。三人の中でも最も操縦が達者であり、以前性能が劣るリンガルスⅡでヤマカガシにハンマーを数発叩き込んだのも彼女である。
そのため、やや良心の呵責を感じながらも、
「今まで通り様々な絡繰人形に乗せてくれるのであれば協力しますよ」
と彼女は言った。
タナカは火が大好きな不良青年ではあるが、元来不良というものは仲間を大切にする人間が多く、彼もその例に漏れなかったため、二つ返事で
「ああ、いいぜ」
と了承した。
「それで、どうやってあの機体をおびき出すのですか? また以前みたくカケルが工場に忍び込んで奪いとるのですか?」
「いや、一度泥棒に侵入された以上、警備が強化されているかもしれない。外におびき出してそこを叩こう、俺に一つ考えがある。決行は他の二人と合流してから、要するに三日後にミーティング、四日後に作戦開始だ」
そうカナヤが言ってその日は解散した。




