VSスパイダーテイル
(何処かで聞いたような声だな…)
ヤマカガシで駆けつけたハルトは、レティキュレート・プラスの外部スピーカーから出る声を聞いてそう思った。ボイスチェンジャーを使い忘れているのか、以前とは違って音声が加工されておらず、搭乗者のそのままの声が聞こえているのである。
が、今はそれを気にしている場合ではない。
「そんな状態じゃ戦えないだろう、あんたはそこで見ているんだな」
そうレティキュレートに言いつつ、ハルトはヤマカガシをスパイダーテイルへと急接近させ槍で攻撃した。
しかし、その突きも、その直後に繰り出された横薙ぎもすり抜けるようにして回避されてしまった。
「どういう事だ…」
先程はサーマルガンを簡単に直撃させる事が出来たのに、今回奇妙な方法で攻撃を回避されたのでハルトが困惑していると、レティキュレートからの援護射撃が飛んできた。
援護射撃で放たれたレーザーはスパイダーテイルの左肩に直撃し、その装甲を焼き切った。
直後、
「その機体は幻影を使って相手の攻撃を回避するみたいだよ。幻影と実体の位置にはかなりのズレがあるらしく、基本的にこちらの攻撃は当たらない。ただ、今ので分かったんだけど一定方向にしか幻影は展開できないらしく、一方が気を引いている間に他方が攻撃を仕掛ければ攻撃を当てる事ができる。私がレーザーで攻撃するからなんとか気を引き続けておいて」
とレティキュレートから声が聞こえた。素が出ているのか、港で戦った時よりも話し方がかなり柔らかい。
「いいだろう、俺に当てんなよ」
そう返すと、ハルトのヤマカガシは槍で連続攻撃を繰り出し、たまらずスパイダーテイルが退いたところでサーマルガンを撃った。
彼のサーマルガンは幻影をすり抜けるが、ほぼ同時に放たれたレティキュレートのレーザーが実体を捉え、スパイダーテイルの胸部周辺に直撃する。
が、機能停止には至らない。
(見たところレーザーの威力がサイドワインダーの三割くらいしかないな。撃破には後何発か必要だろう。もう少し引き付ける必要がありそうだ)
そう考えると敵のブローバックの弾と、それを囮に使ったカノン砲の砲撃を回避しながらハルトは再びヤマカガシを敵機に急接近させた。敵はレティキュレートに大ダメージを与えた事で味をしめたのか、この手法を使って何度もヤマカガシの足止めをしようとするが、一度見た手は現在のハルトならばある程度は対応可能なので、問題なく再び槍の間合いへと入る。
そして、槍を突き出してスパイダーテイルを攻撃するが、やはり当たらず、逆に頭部に拳を受けた。
が、装甲が強化されている現在のヤマカガシにはそれほど有効な攻撃ではなく、仰け反りもよろめきもしないので、すぐに反撃が可能である。
ヤマカガシはリミッターを解除して力負けする可能性を排除すると、ヒットアンドアウェイの戦法を取られる前に、殴ってきた敵機の腕を片腕でがっちりと掴み、余ったもう一方の腕で敵機をタコ殴りにした。
敵も同じように殴り返して来ようとするが、その度に相手を掴んでいる方の片腕で敵機を揺らしてパワーと精度を定まらなくさせているので、ほとんど一方的にボコボコにする形になっている。
が、そこは警察が採用を検討していた機体である。
スパイダーテイルはハルトが見せた一瞬の隙をついて距離を取った。
しかし、ヤマカガシの拳打の連撃によって幻影を作り出す装置は破壊できたらしく、直後に放ったサーマルガンの弾はスパイダーテイルに見事命中した。
こうなってしまってはスパイダーテイルはリミッターを解除した状態のヤマカガシとレーザーを装備しているレティキュレートには歯が立たず、二機からの度重なる攻撃を受けて機体は真っ二つになった。
スパイダーテイルを倒した後、数分間ヤマカガシもレティキュレート・プラスも動かなかった。自警団が調査しにくるかも知れないというのにである。
ハルトにとってレティキュレートという機体は敵でありながらも、一つの目標としてきた機体であり、あれに乗っているパイロットほど強くなりたいと常々思っていた。今回も、もう少し機体の性能が良ければスパイダーテイルを一人で倒してしまったに相違ないだろうと彼は思っている。
それほどの相手なので、今のボロボロの状態でも決して気を抜く事はできず、背を向けて逃げた場合はレーザーで間違いなく落とされてしまうだろうと、深刻に考えていた。
対してシライシは、目の前の高性能機に以前喧嘩をふっかけており、その時の恨みをこの場で晴らされたりしないかが心配になっていた。相手の腕は悪くはないが、彼女よりはやや劣るので機体が万全な状態なら恨みを抱いて襲って来たとしても戦えない事はない。しかし、現状レティキュレートはボロボロであり、さらに相手は先程僅かの間使っていた、機体の性能を飛躍的に上昇させる機能という切り札を持っていたため、このまま戦闘に入れば確実に負けるだろう。
そのため、逃げる事が無難だったが、今回相手は飛び道具を装備しているため逃げていいのかどうか踏ん切りがつかないでいた。
二人はお互い似たような理由で動けずにいたが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「もうすぐ誰かくるかも知れないから俺は帰る。あんたもさっさと帰った方がいいぜ」
と、先に口を開いたのはハルトだった。前回はその前に倒してやるなどと言われたが、今回は特に返答がない。
(向こうも相当疲弊しているようだな、これは撤退できそうだ)
確信を得たハルトはヤマカガシのスラスターを噴射させて空へと飛び立った。
(それにしてもレティキュレートのパイロットの声をどこで聞いたか思い出せないな。そこまで出かかっているんだが)
そう思いつつ、ふと元いた山の上のゴルフ場らしき広場を再度眺めてみた。
見ると、スパイダーテイルの上半身を脚部で挟み込んでいるレティキュレートが見えた。
持ち去る気だろうか、と彼が注意深く観察し始めた直後、レティキュレートも彼と同じように夜空へと飛び去って行った。
(俺なら落としているな、あれも改造に使うつもりならさらに厄介になるな)
その様子を見てハルトはまだ見ぬパイロットの強さを改めて思い知ったような気がしたが、以前のようにビビるような事はなく、むしろレティキュレートがさらに進化することを心待ちにするような気持ちがどこかあった。




