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レティキュレート・プラス

 シライシ・ユウリは暴走する絡繰人形のニュースを聞くと、

「コンビニに行ってくる」

 と言って家を飛び出し、廃工場へと大急ぎで向かっていた。

 先ほどまで見ていたテレビによると、暴走している絡繰人形は他の絡繰人形を狙うという話を聞き、いてもたってもいられなくなったためである。

 彼女の機体、レティキュレートは彼女が廃工場で見つけたグリーンパイソンを改造した機体であり、この前どさくさに紛れて火事場泥棒してきたサイドワインダーのパーツで強化されていたためそう簡単にやられたりはしないだろうが、それにしても動いていないところを集中砲火されたら大破は免れないだろう。

「この前やっと修理と強化が終わったばっかりなのに…」

 ため息を吐きながら全力で自転車を漕いで行く。

 今彼女が向かっている廃工場は町外れにある上に持ち主がすでに死んでいるらしいので、普段であれば違法絡繰人形を隠すには最適の場所であったが、今日に限ってはその立地が災いしている。

 それでも、なんとかスパイダーテイルが来る前には廃工場に到着する事が出来た。

 息が整わないままシライシはレティキュレートへと乗り込み機体を起動させる。

 修繕前とは違い、モニターにレティキュレート・プラスという名を表示してシステムは立ち上がった。この名前は修理を終えた後、彼女が気まぐれで設定した名前である。

 機体名の表示が消えると、モニターには敵機の反応が表示された。

 それは凄まじい勢いで他の絡繰人形を潰してながら次第にレティキュレートに近づいていた。向こうは彼女の機体を捕捉したらしい。

「レーザーは一回試したけれど、こっちは大丈夫かねぇ?」

 スラスターは今回初めて使う事になるので少し不安だったが、四の五の言っている余裕はない。

「行こうか、レティキュレート・プラス」

 覚悟を決めて工場から機体を出すと、スラスターを全開にしてスパイダーテイルとは逆の方向へと飛んで行った。


(とにかく市街地から離れないと…)

 というものが彼女が第一優先とした事だった。

 市街地で戦うとなると自警団や警察が駆けつけて来るかもしれないという事が気になって戦い難く、さらにこの周辺には彼女がたまに行っているアルバトロスという洋食屋がある。戦いに巻き込まれればそこは改修工事が必要になり、しばらく営業停止になってしまうだろう。そのため、市街地で戦っても何一ついい事がない。

 しかし、敵から離れながら戦うというのも、自然、常に背中を見せた状態になるので簡単ではない。

 シライシはスパイダーテイルのブローバック銃での射撃を横滑り飛行で回避しながら山の中の開けた土地へと逃げて行く。バンカーや池が設けられているところを見るにこの広場はゴルフ場らしい。

(ここなら戦えるかな)

 そう考えるとそこに着陸し、レールガンで急接近して来るスパイダーテイルを攻撃した。

 弾丸はまっすぐ進みスパイダーテイルの胸部にあたる部分を捉えたが、どういうわけか当たらなかった。しかし、避けられたわけでも、装甲で弾き返されたわけでもない。すり抜けたという表現が一番近いだろう。

「嘘でしょ!?」

 再度、何発か撃ってみたがやはりすり抜ける事には変わりなかった。

 目視がダメならレーダーでとも思ったが、気づかないうちにレーダーの反応が消えている。敵はステルス機能まで持っているらしい。

 シライシが何度も射撃を外しているうちに、いつの間にかスパイダーテイルも着地する準備に入っていた。着地を許すということは相手の身動きも自由になるということではあったが、着地の瞬間はスラスターの逆噴射や、姿勢の立て直しなどで幾分か隙が発生する。

 そこを狙ってシライシは、機体を急接近させて格闘戦に持ち込んだ。

 しかし、放たれた拳打はレールガンの時のように外れ、直後予想外の方向からスパイダーテイルに反撃の蹴りを受けた。

 蹴りの衝撃はかなり強く、バランスを崩しかけるが、その代償に敵に攻撃が当たらない仕組みについて彼女はなんとなく理解する事が出来た。

(光の屈折か立体映像かは分からないけど、私に幻影を攻撃させているな)

 種が割れてしまえば、敵機を操作しているAIは然程腕が立つわけではなさそうなので、なんとか戦える。

 シライシはブローバックによる攻撃はひたすら避けつつ、当たらないながらもレールガンやレーザーで応戦し、近接格闘を仕掛けてきたらそれをあえて受け、攻撃してきた方向目掛けて拳を叩き込むという戦法に切り替えた。

 これならばレティキュレートもダメージを受けはするが、スパイダーテイルの実体にも攻撃を加える事ができる。

 しかし、軍用機の残骸で強化されているとは言えレティキュレートはあくまで作業用の機体を魔改造したものであるため、格闘戦を続けていくうちにその元々のスペック差が露見し始めてきていた。

 具体的には、スパイダーテイルの拳一発分の威力が、レティキュレートの拳五発分くらいに相当し、スパイダーテイルの左腕の装甲にヒビが入る頃にはレティキュレートの左腕はダメージを受けすぎて千切れているといった具合である。

(このままじゃジリ貧だなぁ、なんとかレーザーを当てられれば一番いいんだけどねぇ)

 改めて機体の破損具合を確認してみると、取れてしまった左腕以外にも、胴体の装甲はかなり剥がれ落ちており、頭部は半分潰れているといった状態である。対してスパイダーテイルは装甲が所々凹んでいたりひび割れているくらいであり、特に何かの機能を失っているという様子はなさそうだった。そのため、シライシには正直余裕がない。

 ただ、慌てるということはなく、

(バランスが崩れやすくなるからあまりやりたくないけど、蹴倒してみようかな)

 と考えた。

 具体的には、攻撃を受けた後にカウンターを繰り出すという方針は変わらないが、拳以上に威力のある蹴りを放つことで、スパイダーテイルを転倒させて動きを止め、レーザーを命中しやすくしようという寸法である。

 そうとは知ってか知らずか、スパイダーテイルは早速彼女の機体に格闘戦を仕掛けてきた。

 予定通り彼女の機体は拳を受けた後、実体があるであろう方向へと蹴りを放って敵機を突き倒し、直後レーザーを照射した。

 しかし、レーザー照射後も幻影にはそれを受けたような様子は反映されなかった。どうやら当たらなかったらしい。

 すると今度は相手を一瞬無防備な状態にするというシライシの戦法を相手が真似て、ブローバックの弾をわざと回避させた後、彼女の機体が回避した方向目掛けて、脚に仕組まれた隠し武器のカノン砲を発射してきた。

「今になって、そんな隠し…」

 最後まで言い終わる前に機体は砲撃を受けて倒れた。今の一撃で胸部の一部と右腕の付け根辺りが吹き飛んでしまっている。当然、右腕は動かなくなってしまったため拳打やレールガンはもう使えず、もはやまともな攻撃手段は今のところ一度も命中していないレーザーしかない。

「私もここまでか、まさかここまで強いとはね」

 弱音を吐いているとスパイダーテイルは再度カノン砲の照準を彼女の機体に合わせてきた。

 腕が動かない今、機体を立ち上がらせて躱す事は難しく、機体を捨てて退避しても砲撃の余波でどっちみち死ぬだろう。

(まぁ、それならそれでいいか…)

 諦めかけていたその時、以前彼女が港で戦った機体に似た機体が空から飛来し、右手の武器でスパイダーテイルに向けて砲撃した。

 突然の出来事に対応する間も無くスパイダーテイルは吹き飛ばされる。

 直後、彼女の窮地を救った機体、ヤマカガシは地面に降り立ち外部スピーカーで、

「殺そうとしてた奴に助けられた気分はどうよ、やっぱり悔しいかね?」

 と、やや茶化し気味に言ってきた。さっきの砲撃や、肩を貸して起こしてくれたところをみるにどうやら味方らしい。

「どうかな、これからあんたが私に助けられるのかもしれないよ?」

 と、シライシは強気な返事をするが、正直増援はこれ以上ないくらいありがたかった。

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