文化祭
ハルトの通っている学校では夏休みが終わって約一ヶ月後に文化祭がある。
そのため休日が明けてすぐにその計画を立てる事になっており、この日の五、六限のロングホームルームでそれを決めることになった。
委員長が何かやりたい事があるかとクラスメイトに尋ねると、
「お化け屋敷」
「演劇」
「メイド喫茶」
「迷路」
などと、よくある出し物がすぐに挙がってきた。
大方ありきたりな物が出尽くすと、
「カジノとかいいんじゃない?」
「ジャズ喫茶とか酒をださねぇジャズバーなんかもいいんじゃねぇの?」
と、少し変わり種の物が出始めてきた。
そこでハルトも、
「ヨガ教室とスムージー屋とかやれば意識が高そうな層を呼び込めるんじゃね?」
と案を出したが、一部のクラスメイトから何故か顰蹙を買ったため、
「今の時点でここまで反対されたんじゃ、俺の意見が通ったとしても全員で協力することには支障が出そうだな。委員長、済まないが今のは無しだ」
と言って引き下がった。
その後、
「小型絡繰人形を貸してもらえそうなんだけど、それを使って何かできないかな? 三メートル位の大きさのダチョウ型が三機と人型が二機なんだけど、ダチョウ型は障害物競走に、人型は相撲か何かに使えるでしょ」
と、ムトウ・セイタという生徒からこの日の一番の変わり種の意見が飛び出てきた。
ムトウ曰く、その絡繰人形は知り合いの高専で研究していた物らしいが、その高専の文化祭まで開発が間に合わなかったため、その知り合いがムトウに是非文化祭で使ってくれと頼んできたらしい。
「それを使ったらうちの学校の文化祭とは言えなくなるんじゃない? 他校で開発されたものじゃん」
「そもそも絡繰人形って何か免許がいるんじゃねぇの? 埋蔵金の時も少し話題になってたけどよ」
と、すかさず反対意見が挙がるが、
「監修とか協力とでもつけておけば大体の人間が納得するだろう」
「免許が必要なのは大型の物だけだよ。今回使うように頼まれたのはその半分くらいの大きさの物で小さいからコックピットの機密性もない。ぱっと見君らが想像している絡繰人形とは違うかもね」
と、一つ一つ丁寧にムトウは返していき、さらにその案を採用するメリットについての説明を始めた。メリットというのは、他のクラスは文化祭で運動場など使わないから会場の取り合いにはほぼ間違いなく勝てることや、埋蔵金やサイドワインダーの件で絡繰人形は再び注目を集め始めているので、集客数一位を獲得できるかもしれない事などであった。
(なるほど、なかなかのプレゼンだ。その高専の奴もこいつに頼めば間違いないと思って頼んだのかもしれない)
ハルトはそれを聞きながらそう思っていたが、案の定、多数決でムトウの案、絡繰人形を使っての障害物競走と相撲に決定した。
何をやるかは決まったので、次は誰が何を担当するかである。
この企画には搭乗者と審判が必要になる。
文化祭は朝から夕方まであるため、レースと相撲は何回かに分けて行う事になるが、同じ搭乗者で同じ事を何度やっても面白くないので、リーグ戦の形式が取られる事になった。
結果、ダチョウ型は三十人、人型は十人必要になったので、クラスのほぼ全員が絡繰人形の搭乗者という事になる。
この事でハルトは少し不安になった。
彼は既に何度も絡繰人形に乗っているため、現時点で他のクラスメイトとは技術力の差がかなりあり、それは一ヶ月練習した程度では埋まる事はないだろう。練習もその五機を四十人という多人数で回す事となるらしいので尚更である。
本番で圧勝してしまった場合、彼が普段から絡繰人形を乗り回している事がバレてしまうかもしれない。そう考えた彼は
(審判になるしかねぇ)
と思っていたが、あれよあれよと障害物競走の審判は委員長に、相撲の審判は副委員長に決定してしまった。
こうなってはダチョウ型か人型かどちらかを選ぶしかない。
(人型はやめておいた方が無難だな)
ハルトは椅子から立ち上がると黒板まで行き、男子でごった返している相撲とは逆の障害物競走の方へと自分の名前を書いた。
その後、約一ヶ月間ハルト達はその高専で絡繰人形の操作を練習したが、微妙なソフトウェアを搭載したなんとも言えない機体の操作はハルトですら少し苦戦する程であり、当然他のクラスメイト達はあまりうまく動かせていなかった。しかし、それでも一応障害物競走も相撲も競技の体裁だけはなんとか保てるレベルまで成長している。
その状態で文化祭当日を迎えたが、結果は相撲はそうでもなかったが障害物競走は意外にも盛況だった。
その要因は障害物競走には比較的上手い搭乗者が三人もいた事だろう。
大抵の搭乗者が障害物に突き当たる毎に転倒したり、そのままそれに激突してしまっている中で、その三人だけが上手く障害物を飛び越えてゴールに辿り着いているのである。一人はハルト、もう一人はムトウ、そしてもう一人はどういう訳かシライシであった。
ムトウは知り合いに高専の人間がいるので、たまに教えてもらっていたと考えれば合点がいくが、シライシの操縦が何故あそこまで操縦が上手いのかハルトには想像がつかなかった。
(ムトウは練習の時もそれなりに上手かったと思ったけど、シライシに関しては全然見てなかったな。上手ければ気づくと思うんだけどな)
そう考えつつハルトはその二人をマークしていると、とうとう最後のレースでその三人が競争する事になった。
正直ハルトには自信があった。ムトウは上手いといってもそれなりであり、シライシも練習の時に気がつかない程度ならなんとか勝てそうだと。
(この二人が相手なら手抜きなしでやっても問題なさそうだ。せっかくなんで勝たせて貰う)
闘志を静かに燃やしながら合図を待ち、鳴ったと同時に一気に機体を前進させる。
しかし、先頭に出たのはシライシだった。次いでハルト、その少し後ろに少し出遅れたムトウという順である。
(おい、冗談だろ!?)
驚きながらハルトのダチョウ型はシライシを追うが、障害物を飛ぶ度に、コーナーを曲がる度にむしろ離されている気がした。
(機体に性能の差はないはずだ。それにも関わらず離されているという事は俺の腕は奴より劣っているのか?)
ハルトが困惑していると、シライシが振り向き
「私が勝ったらまたファミレスで何か奢ってよね、負けたら私が奢るからさ」
とハルトに言ってきた。既に勝ったつもりでいるらしい。
「いつもの事だろうが、今日は勝ってお前の金で高いもんを食ってやる」
そう返してハルトは全力で追うが結局負けた。
この数十分後に文化祭は終了し、ハルト達のクラスは集客数一位を獲得した。
放課後、ハルトはシライシだけでなく、学校の玄関にいた彼女の友人トキと、三位のムトウ、相撲で五連敗を喫したナカワタセにも何故か奢る羽目になり結局いつも通りとなってしまったが、心にはいつもとは違い何かが引っかかっていた。




